商標が類似とされた例 | SIPO

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審決例(商標):類否145

 

<審決の要旨>

『(1)商標法第4条第1項第11号該当性について

 ア 本願商標について

 本願商標は、別掲のとおり、上段に、太い書体で大きく横書きした「PRESENSE」の文字を、下段に、細い書体で上段の文字よりは小さく横書きした「emi」の文字を配し、上段の文字の中央(左から4文字目)の「S」の文字の上部には横線を、下段の文字の下には、左右にわずかな縦線を伴う下向きに湾曲した曲線(以下「曲線」という。)を、それぞれ配してなるものである。

 そして、上段の「PRESENSE」の文字部分と下段の「emi」の文字部分とは、文字の大きさや書体の差異に加え、大文字と小文字による差異もあり、さらに両文字間に一定程度の間隔があることから、両文字は視覚上分離して看取し得るものである。

 また、「PRESENSE」の文字は、辞書等に載録された既成語ではなく、特定の意味合いを認識させることのない造語と認められる。さらに、「emi」の文字は、レコードレーベルの名称や、「electromagnetic  interference(電磁妨害)」の略称である「EMI」(いずれも「ランダムハウス英和大辞典第2版」株式会社小学館発行)に通じるものの、「emi」の発音の一つである「エミ」に通じる日本語が、「笑み」、「江見」(姓氏の一つ)、「恵美」(同左)と複数ある(広辞苑第七版)ことから、特定の意味合いを認識させることは困難とみるのが相当であって、一種の造語というべきである。

 してみれば、「PRESENSE」の文字部分と「emi」の文字部分は、観念上のつながりも見いだせないものである。

 上記に加えて、「PRESNSE」の文字及び「emi」の文字は、本願の指定商品の品質や効能、用途等を表す語ではないことから、いずれの文字も自他商品の識別標識としての機能を果たし得るものと認められる。

 そうすると、簡易迅速を尊ぶ商取引の実際において、本願商標に接する取引者、需要者が、「emi」の文字部分に着目し、記憶する場合もあるといえるから、これを要部として抽出し、他人の商標と比較することも許されるというべきである。

 したがって、本願商標は、「emi」の文字部分に相応して、「イーエムアイ」又は「エミ」の称呼が生じ、特定の観念は生じない。

 イ 引用商標について

 引用商標は、「EMI」の文字を標準文字で表してなるところ、当該文字は、上記アのとおり、特定の意味合いを認識させることのない造語というべきものである。

 したがって、引用商標は、その構成文字に相応して、「イーエムアイ」又は「エミ」の称呼が生じ、特定の観念は生じない。

 ウ 本願商標と引用商標の類否について

 本願商標と引用商標との類否について検討するに、外観については、本願商標の要部である「emi」の文字と、引用商標「EMI」とは、大文字と小文字、書体において差異があり、また、本願商標の「emi」の文字の下にある曲線の有無の差異があるものの、両者はつづりを共通にするものである。そして、我が国において、つづりを共通にする文字について、書体等を相互に変換することは一般に行われており、本願商標の構成中の曲線は、文字を装飾するための一般的なアンダーラインの一類型と認められるものであって、強い印象を与えるものではないとみるのが相当である。そうすると、両者は、外観上、異なるところがあるとしても、文字のつづりの共通性を凌駕するほど強い印象を与えるものではないというべきである。

 次に、称呼については、本願商標の要部である「emi」の文字と引用商標は、「イーエムアイ」又は「エミ」の称呼を共通にするものであるから、両者は、称呼上、同一である

 さらに、観念については、本願商標の要部である「emi」の文字と引用商標は、いずれも特定の観念を生じないものであるから、両者は、観念上、比較することができない。

 そうすると、本願商標の要部である「emi」の文字部分と引用商標とは、観念について比較することができないとしても、称呼上、同一であり、外観上、異なるところがあるとしても、文字のつづりの共通性を凌駕するほど強い印象を与えるものではないことから、これらの外観、称呼及び観念によって、取引者、需要者に与える印象、記憶、連想等を総合して全体的に考察すれば、両商標は、役務の出所について誤認混同を生ずるおそれがある類似の商標と判断するのが相当である。

 エ 本願商標の指定商品と引用商標の指定商品との類否について

 本願商標の指定商品である第10類「電位治療器,医療用機械器具(「歩行補助器・松葉づえ」を除く。)」は、引用商標の指定商品である第10類「医療専用ベッド,医療用機械器具」と同一又は類似の商品である。

 オ 小括

 以上のとおり、本願商標は、引用商標と類似する商標であり、かつ、引用商標の指定商品と同一又は類似の商品について使用をするものであるから、商標法第4条第1項第11号に該当する。(下線・着色は筆者)』(不服2023-10021)。

 

<所感>

審決は、概ね妥当と思う。上下二段に併記された本願商標においてやはり重要なのは上下に配した両語の関連である。関連のない語はそれぞれ独自に判断されるだろうし、本件についてはいずれの語も自他識別力を有している。そうすれば下段に配されているとはいえ「emi」の文字を要部と認定されても仕方がないところであろう。もし上下に配された語が直接的あるいは間接的にも関連性があるとしたらどうか。この場合は両語で一体性の語と認定され、非類似となると思われる。過去のいくつかの事例でもそのように判断されている。なお、請求人は、「PRESENSE」の文字部分と「emi」の文字部分は一体不可分のものとして認識される旨主張したが、採用されなかった。