CAUTION

○当方SS初心者です。以前のSSでお察しください。
○かなまり書くのは初めてです。
正直キャラを掴むためのものになってます。
○描写不足、設定違い、キャラ崩壊の危険性があります。文句は空に。
○心の準備はいいかなん?




















「あのさー、ダイヤ」

「……なんですの? 」



「鞠莉ってわたしのこと、オトコ扱いしてない?」




「!?」






かなまりSS①「stubborn guy」










練習なし。
めずらしく、店の手伝いもなし。
夏祭りステージが終わってぽっかり浮かんだ日。


生徒会室。

カリカリとペンが規則正しく紙を撫でていく音に、若干の眠気を覚えながら、わたしは書類の整理とちょっとした校正を手伝っていた。

最近は色々と立て込んでて、身体を休めようと思っていたところだし、頭脳労働もたまには悪くない。



午前をまるっと使い、ひと通りチェックを済ませて、あとはダイヤ待ち。
靴を脱ぎ、そろーっとソファに寝転がると、どこに目がついているのやら、即座にシワになりますわよ、とたしなめられて、体勢を少し直す。


それからぼんやり天井の模様を眺めていたら、最近なんとなく思っていたことが浮かんで冒頭の問いに至ったんだけど。






こほっふけふけふと珍妙な返答? というか、むせていたダイヤが涙目でじろっと睨んでくる。

えーと?

 

(じーーーーー)


あ、根拠ね。


「方々で私のこと頑固親父とか言ってたらしいじゃん。頑固者なら分かるけどさ。親父て」

自慢はこの筋肉とか言ってるから? 
これでもスクールアイドルなのにね。
部室で揉めたとき、こいつ、とか指差してきたこともあったし、だいぶ鞠莉は失礼だと思う。


「はぁ……なるほど」
ため息とともに、意味ありげな視線をちらと送ってきたので、これもキャッチする。

「『てっきり恋愛感情の絡んだ相手という意味の方かと思いましたわ、まあ、この鈍感さんに限っては』みたいなカオされると流石にちょっと傷つくよ?」

「どうしてわたくしの思考は気味悪いほど忠実にトレース出来るんですの……」
「付き合い長いじゃん。今さらだよ」


そう、今さらのことだ。

別にダイヤだけじゃない。

豊かな自然に囲まれた広いようで狭いコミュニティ。

どこもかしこも顔なじみ、幼なじみの、因縁だらけ。なんとなく察する土壌は完成されている。

そんな学校に、町に、高2で飛び込んで、馴染もうとしてくれて。この場所を好きと言ってくれる梨子はすごいなって思うし、嬉しいよねやっぱさ。
なんか昔の鞠莉を思い出すなぁ。



「もしそうだったら、鞠莉さんに意識されていたら、果南さんはどうしますの?」
話が巻き戻される。
「……今日のダイヤは踏み込んでくるね」

「伝えたくても、たくさん、無駄にしてきた言葉がありますから」

「そう……だね」



あの部室。
ホワイトボードに置き去りにされていた歌詞が脳裏に浮かぶ。
誰かが消したのか、二年も経てば自然に消えるものなのか。

うっすらとした儚い文字列。

誰かの手で、書き直さなきゃ、繋ぎ止めなきゃ大事なものは消えてしまう。

その証左だった。



「……そりゃ、鞠莉のことは……好きだよ?」

大舞台で恥をかくのだって、酷いこといって遠ざけるのだって彼女の為を思えば、いくらだって我慢できた。

友情の閾値なんてとっくに超えてる。

大事、大好き。





でも、さ。

「お姫様のロマンスに王子は付き物だけど、親父はお呼びじゃないよねー」

おやじと、おうじ。

言葉遊びみたいなもんだけど、それは致命的な差。

だから――。

不意にダイヤと目が合った。

「言い訳になさるんですのね」


「え」

「お姫様」




「覚えています? 鞠莉さんが転校してきたときの挨拶を」










日焼けのまったくない白い肌、

お人形みたいな顔立ち、

金色に輝く髪。


『みんな、さんと、いしょがいい、
仲よくなれ、なりたいと、思ってます』


そして、たどたどしい日本語。

動物園みたいな視線に囲まれて、緊張と怯えがない交ぜになった表情。




あのオハラ家の、ホテルオーナーの娘さんなのよ、という先生のすごいでしょうと言わんばかりの見当違いな掩護射撃もあって。
一緒を望んでいたのに。
見事に鞠莉は孤立した。




みんなに悪気はなかった。

ただ身構えてしまっただけ。
本当に手を伸ばしていい相手なのかどうなのか分からなくて。

腫れ物のように扱われて、
放課後、俯きながら帰る彼女を見て、助けてあげたいなって思ったんだ。


たしかに彼女とわたしたちを隔てる『違い』には圧倒されたけれど。

和風のお嬢様と親友で、一個下の幼なじみは旅館の子だし、ホテルの子だって似たようなものじゃん、とよくわからない理論武装をその時わたしはしていて。

そわそわ、ちらちら窺ってきていたダイヤの手を掴んで、安っぽい正義感で飛び出した。

もったいないって思ったから。
こんなに可愛い子なんだから、笑顔が見たかった。

立場も責任もなんにも気にせず動けたころ。








鞠莉さんは一緒であることに、できる限りこだわってきたでしょう?

ダイヤの問いは優しくて、厳しい。



「あの星座早見盤に願ったこと、果南さんは覚えていますか?」

「……。」

「鞠莉さんが小原家でなければ……そんな仮定は無意味です。でも。」

「それを理由に伝えられない言葉が、想いがあるのなら、哀しいではありませんか」












夕刻。

ダイヤと別れてから、くしゃっと丸めた紙くずみたいに砂浜に佇んで夕陽に照らされる海を眺めている。

想うのは過去のこと、未来のこと。

波音が思考をたくさん引き連れて、そして引き上げていく。



この海は融け合えばとても心地よいのに、陸に上がれば広くて広くて、不安になることもある。

私の居場所、彼女の居場所を隔てた絶対存在。

そして、これからもきっと、そうなるのだろう。

私が松浦果南であり、彼女が小原鞠莉である限り。





ねえ、鞠莉。

あの、雨の日、想いをぶつけてくれた時さ。

わたしの広げた腕に手を伸ばしてくれたね。

あのとき、不安だったんだよ。


わたしはね鞠莉を元からビンタなんてしたくなかった。

傷つけたくなんて無かった。

お互いに察せるものを、繋がりをもう無くしてしまったんじゃないかって怖くなった。あなたが怯えて目を瞑った、たった数秒でも怖かった。

鞠莉が帰ってきてからいつもこんな思いをさせてたのかって後悔した。



高校生になって、いろんなものが見えるようになって、肝心なものが見えなくなっていることに気づいていなかった。


実家の経営にも関わってる、一個下の幼なじみたちの相談にだって乗ってる。もう充分大人のつもりでいたけれど。

あんな独り善がりの行動してるようじゃ、隣に立とうなんてまだまだと言わざるをえなくて。




誰かを大事にするって難しい。
相手が望んでいることをする? 
どうやったら汲み取れるのかな。

望んでいたら絶対に叶えるべきものなの?

その行動は相手に本当に必要なもの?


将来なんて難しいものを相手に、時が経たないと結論が見えないものの為に、『大事にする』を振りかざしたわたしは間違っていたと子どものころのわたしなら言うと思う。

だって鞠莉に哀しい顔をさせてたから。

鞠莉の笑顔が見たい!

それだけが、シンプルな行動原理だったから。



でもね、もう一度あの時をやり直せたらと思ったこともあったけど、送り出す結論は変わらなかった。

鞠莉にとって、この場所は『鳥籠』なんだ。

やり方が落第点だったのは分かっているよ。




一番の後悔は。

本音で、ぶつかれなかったこと。

禍根を残したまま、後ろ向きの気持ちのまま送り出してしまったこと。




知りたいよ、鞠莉の気持ち。



「考えるのは休むのと同じ、か」


深呼吸を、ひとつ、

ふたつ、みっつ。



今日はたくさんの休みをもらったから。

そろそろ動かなきゃ、だね。

自慢の筋肉が肩すくめてるんじゃないかな? なんて。













カチ、カチ、カチ。

懐中電灯でいつもの合図を送って、いつもの桟橋で鞠莉と落ち合う。


「……なにかあった? 果南……」

こっちが硬い雰囲気だからちょっと不安にさせちゃってるな。

難しい駆け引きなんてわたしには無理だから、もう直接訊くことにした。




「鞠莉はさ、わたしのことどう思ってるの?」

その、そういう意味で。

「!?」

こふっとむせている。あ、なんか気管に入ったっぽい。

よく人をむせさせる日だなんて思いながら背中をなぜる。



呼吸が落ち着いてからも、指をくるくるしたり落ち着かない様子。顔色までは……どうだろ、暗くて分かんないや。



「私は……その、果南のこと「頑固親父、でしょ?」」
らちがあかないので先回りする。

「……根に持ってるの?」

「どうせわたしはがさつ筋肉だものー」

つーん、と似合わないことをしてしまう。鞠莉の前だと子どもになっちゃうな。

「だって……ぴったりなんだもん」

「う……」
面と向かって言われるとダメージが。




「果南はさ、不器用だよね」

「ファーストコンタクトがウチの庭で不法侵入ハグだもん。海外ならバキューン、ってされちゃうよ」

「果南と出会ってから、ダイヤと一緒に私を連れ出してくれてから、夢みたいな毎日で、大切で……それはどれだけ時が経とうと絶対に変わらない気持ち」

「わたしも、宝物だって思ってる」


「――そして、戻ってきてからのこと。この前、気持ちが全然伝わらなくて、分からなくて悔しかったって言ったよね」

「うん……。ごめん」

「ダイヤから教えて貰って、どんな想いで送り出してくれたのかもようやく分かってからね、思い返したの、いろんなこと」

「そうしたら、果南の頑固親父なところ……口下手なところとか、不器用さがね。嬉しくもあって。あんなにムカつくーって思ってたのに。


それだけまっすぐに私のことに向き合って、大事にしようとしてくれてるんだって所が、ホントに、もう、―――で……」

「……っ」

ねぇ、今の言葉、ほんとうなの?





橋の途中で向かい合っていた鞠莉が、手を後ろに組んでその場でくるっと半回転する。風をまとった裾がふわりと落ちると、表情はもう完全に見えない。




「私ね、パーティで、社交場で、いろんな人に会うよ」

「うん」

「時には好意を示されることだってあるわ」

「うん……」


「でもね、彼女が、彼が、私に見ているのは何かしら?」





「装飾ばかりの吹けば飛ぶようなスカスカな言葉はいらない。

手練手管で手中に入れようとしてくる奴なんて願い下げ。


私はね、果南が果南だから、好きよ」



「……っ、ありがと……鞠莉」




「わたしも、鞠莉を、鞠莉だから……」愛せるようになりたいって心の底から思ったんだ。

もう、ヘリを見上げるだけは、イヤなんだ。

ちっぽけで、数年後すらあやふやなわたしだけど。

変わるんだ、って誓うから。

「ねぇ、果南は……」

揺れる瞳に返せるもの。
いま、わたしに出来る最大限の気持ちの伝え方をしよう。






数歩の距離をこえて、向き合って、

目の前にある肩を引き寄せ、

そっと鞠莉の唇を塞いだ。




5秒数えて離す。






「伝わった……かな?」

「……………………。」

「………………。」

「……。」



離れてすぐ、照れて後頭部をぽりぽりかきながら、視線を反らしてしまったけど、反応が無いので次第に不安になってくる。


もしかして、やらかした? 好きって、ええと?

ライト片手におそるおそる顔を近づけると。





見事な茹でダコいや茹でマリが。

なんか湯気も見えるような。


「?? キスに慣れてるんじゃないの?」

「……っ別物! 」


「なんでそんなに巧いわけっ? もーォゥ、ショップ客の女子大生に教え込まれたの? 何人目!?」

「鞠莉ってホント失礼だよね」






「で、伝わったかなん?」

「………………ハイ。」


ポカポカ叩いてくる鞠莉の綺麗でちっちゃな手をいなして。

おさまるころにはいつものハグをして。

そして時間が許す限り話をした。

熱帯夜じゃなきゃ、明日が仕事じゃなきゃ、幾らだってハグしたのにな。

大事な、大事な時間を過ごした。






「でもねえ、果南。たまにはね。言葉にしてくれなきゃ心細くなることもあるよ」


距離と時間って意地悪だから。



「分かった。努力する」






今までだーいぶ拗らせてたから。

免罪符を貰ったことだし。





頑固親父の一途さ舐めないでよね。


















~数年後・夏~


「やっと、久しぶりに日本で会えるね」

「うん。"Ti amo "鞠莉」

「……恥ずかしくてヘリの操縦間違えそうだわ。照れ屋さんな果南カムバーックデース」

「ちょっ、ヘリの免許も取ったの? これだから金持ちは……」




「「……あははっ」」


「安全運転で、帰っておいで」

「ヘリごとハグしてね、果南」

「任せなさい」

























という駄文。

公式が最大手、みたいな『かなまり』で今から書けることある? みたいな状態にしばしばなりますが。
脳内もったいない神が囁いてくれたので、一年前に半分以上書き上げていた部分を拾って今回日の目を見ることとなりました。



頑固親父
未熟回、ハグの前に上げた手の心情
お家事情
進路で海外再選択の意味はなんだろう
甘いもの書きたい

らへんを拾いたかったのです。
精進します……。


二期での果南ちゃんの海外行きは大きく出たなと印象的で。
ダイヤや鞠莉、そして優勝を遂げた千歌たちに負けないくらいの夢を持とうと決めたんじゃないかなって。



そんなこんなで果南誕前祝いのSSでした。
またぼちぼち書きたいです。
それでは。