以前、テレビ東京の「YOUは何しにニッポンへ」という番組で日本で自分の名前の漢字印鑑をつくることに異常なこだわりをもったフランス人の若者を取材した。
今回再来日し、日本で生活することが決まった彼の追跡取材である。まずは日本語を完全にマスターするために日本語学校に入った。同時にフランスでもモデルをしていたこともありモデル事務所で働くつもりでいた。
前回来日したとき念願だった横文字の自分の名前を漢字に変換して印鑑をつくってもらった。それを初めて使うのが待ち遠しくて堪らなかった。ようやくその時がやってきた。
取材陣はその瞬間をカメラにとらえるための了解を彼から得て彼を追った。その最初の機会は銀行の口座開設だった。なぜか最寄りの銀行でなく新宿の三菱東京UFJ銀行だった。
銀行が開く前に行って今か今かと待ってようやく9時にドアが開き、中に入った。ところが住まいの最寄りの銀行でないとダメだということで初めての印鑑使用はお預けになった。
すこし落胆しながら店を出てきた彼は日を改めて口座を開設することにして日本語学校へ向かった。数日後最寄りの銀行でようやく自分の口座を開設し、待望の印鑑を使うことができ上機嫌だった。ただ取材の方は、流石にお堅い銀行のことお断りされ、彼の初の印鑑の使用の瞬間は撮影できなかった。
そこで今度はモデル事務所の受験を追った。最初のモデル事務所はレベルも高く、取材はOKで面接の様子も撮影できたが、アポイントも取らずとび込みで行ったため、面接する側への配慮を考えて責任者の人からアポイントはしっかり取らないとダメだと注意を受けた。そしてそこの事務所は一流モデルが多く、他で勉強してからまた来るように言われた。
このアドバイスを生かして次の事務所にはアポイントをしっかり取り、面接を受けた結果、好印象を持たれ、その場で合格となった。そしてようやく取材陣の前で印鑑を押す瞬間をカメラがとらえた。本来なら大きな声で叫びながら跳び上がりたい心境だと彼は取材スタッフに漏らした。モデル事務所に受かった喜びと、印鑑を使う瞬間を初めて取材陣の前で見せられた、その喜びで天にも昇る気持だった。しかし採用してくれたボスの前ではぐっとそれをこらえていた、とあとで彼は話してくれた。
印鑑を使うことでやっと自分も半分日本人になれた気がすると満面笑みを浮かべている彼を見ていると、ほほえましくなる。日本のテレビや雑誌で彼を見かけるのが意外に近いかもしれない。その日が早く来ることを願ってやまない。