家族が語る山下清/山下 浩
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 山下清については、これまで様々な書籍、映画などで紹介されてきた。しかし、それらはいずれも知的障害者、言語障害者としての山下清像が先行し過ぎている。本当の山下清を知ってほしい。そうすれば違った角度から彼の作品を見てもらえるのではないか、という家族の思い、願いから著者はこの本をまとめた。

 著者は清の弟の長男である。つまり甥である。山下清の人物像を映画化した芦屋雁之助演じる「裸の大将」の映画を私も見たことがあるが、著者が言っているように、知的障害、言語障害がありながら天才的な画才を併せ持っていた清、そのコントラストに焦点を当て、面白可笑しく作品化した映画のように思われる。

 この本は映画では知ることができなかった、最も身近な家族(甥)の目を通した叔父・清の知られざる一面を知ることができる。たとえば人並み外れた記憶力の持ち主だったこと。清は旅先で見た風景をほとんどスケッチすることなく、自分の脳裏に鮮明に焼き付け、家に戻ってからその記憶をもとにして貼り絵を仕上げた。

 また彼には放浪中綴った13冊もの「放浪日記」があるが、その多くは放浪先から八幡学園(養護施設。彼の貼り絵の技法を開花させる基礎をつくった学校。)に戻ってから書いたものである。それらは彼の驚異的な記憶力を裏づけるものである。

 彼は超がつくほど几帳面な性格だったという。作品を制作する時も自分が決めたスケジュールを忠実に守った。そして非常に負けず嫌いで相手が子供でも決して手を抜かず、トランプなどで負けると勝つまでやめなかったほどだ。

 彼は3才のときかかった高熱がもとで知的障害になった。脳に何らかの障害を受け、ある特定の能力だけが異常に優れた人のことを「サヴァン症候群」というらしいが、清もこの症状ではないかといわれている。左利きの人に右脳がつかさどる芸術に優れた人が多いが、その特徴がよくでている。

 彼の貼り絵には「両国の花火」「長岡の花火」など花火を扱った素晴らし作品が多いが、私は彼の作品の中で特に好きなのがヨーロッパスケッチ旅行中に描いた「凱旋門」の素描画である。フランス人が立ち止まって彼の絵を覗き込んでいるのも頷けるくらい見事な細密画である。49歳という若すぎる死が本当に惜しまれる。