ようやく書く事が出来ました。
予定より、二日遅れてしまいました。すみません。
今回は恋愛映画の紹介を。
色々観過ぎて、却って書くのが遅くなってしまいました。
前口上はこの位にして、では早速…。

或る夜の出来事
It Happened One Night
1934 / アメリカ
監:フランク・キャプラ
出:クラーク・ゲイブル
クローデット・コルベール
世間知らずのワガママ娘と気の荒い新聞記者のロマンスと道中を描いたロマンティック・コメディの傑作!。後世に多大な影響を与え作品。
父親に婚約を反対された大富豪の娘エリーは彼に会うために、マイアミからニューヨークへ向かう途中に、彼女のスクープを狙う新聞記者ピーターと知り合い、共に旅をするうちに惹かれ合ってゆく…。
演出は戦前のオスカーの常連だったフランク・キャプラ。この作品でアカデミー賞の作品・監督・脚本・男優・女優(当時は主演・助演の区別が無かった)の主要5部門をすべて独占しました。
前年にアカデミー賞で「一日だけの」ノミネートされた時に、授賞式で名前を呼ばれて立ち上がった時に、フランク違いで立ち上がり(授賞したのはフランク・ロイド)味わった屈辱をこの時に晴らした。
会話の妙によるスクリューボール・コメディの名作であり、劇中のやりとりなど名場面が多い。
のっけから、船に軟禁状態のエリーが彼に会うために船から、海に飛び込んだりする。

モーテルの場面での二人が寝るときに、二台のベッドの間に毛布で仕切りを作る「ジェリコの壁」や、行方を探してやって来た探偵を前に壮絶な夫婦喧嘩(のフリ)を繰り広げる場面。
その「壁」の向こうに行った彼女をピーターがからかって「狼なんか怖くない/Who's Afraid Of The Big Bad Wolf」を歌う場面も。当時、劇中で歌われたディズニーの「三匹の子ぶた」が上映されたばかりの頃でした。
他にもドーナツのコーヒーの付け方、シャツの脱ぎ方、ヒッチハイクの仕方など、何かにつけて蘊蓄を言うゲーブルも面白く、どこか可愛い。
そのシャツの場面で下に何も着ず、素肌に直接シャツを着ていた事から、その着こなしが流行したと言う。

ヒッチハイクの場面では、全然車が捕まらずにいるゲーブルの後に、コルベールがスカートの裾を捲くって車を捕まえる場面も、この後数多くの著作物で引用されている(この作品を直接知らずとも、存知の方も多いかと)。
他にも深夜のバスに乗り合わせた楽士の演奏で、乗客全員が「ブランコ乗り」の歌を歌う場面等も小気味よく、全体的に微笑ましい作品です。
ちなみに、二人が野宿する場面にこんなやりとりがあります。
エリー 「お腹がすいたわ」。
ピーター 「気のせいさ」。
これ、何かで聞いたような…(九州の何とかばあちゃんだっけ?)。

この作品で共にオスカーを獲ったゲーブルとコルベールの二人だが、当人たちは当時まだB級の映画会社だったコロンビアに貸し出されて不満だったとか。ちなみにゲーブルは、ワガママな行動が目立ってた彼への懲罰としてMGMが貸し出したとか(それで結果オスカーを獲ろうとはねぇ…)。

巴里祭
Quatorze Juillet
1932 / フランス
監:ルネ・クレール
出:アナベラ
ジョルジュ・リゴー
戦前のフランス映画を代表する名作。
パリに住むジャンとアンナは恋仲の二人だが、ジャンの元に昔の恋人ポーラが居着き、そこから二人の仲はこじれ喧嘩別れになってしまう…。
演出は戦前にフランス映画界の初期のトーキー作品「巴里の屋根の下」でアメリカとは一線を画す、技法・音楽処理で世界的に知られた、ルネ・クレール。「巴里の~」と本作は姉妹作のようにも見える。
パリの市井の人々が生き生きと描かれ、至極日常的な物語だけど、印象的な雰囲気。
主題歌の「巴里恋しや/A Paris dans chaque faubourg」は現在でもシャンソンの名曲として有名。作者のモーリス・ジョベールはこの後、第二次大戦で若くして亡くなっている。
口論から知り合いになったタクシーの運転手、変な酒癖の老紳士などのキャラクターも良い味を出してる。
革命記念日(この作品の原題でもある7月14日)に街の人々がワルツを踊るが、雨が降っても踊り続ける見知らぬ二人、雨宿りをしながら人の家の前でキスしていたら、家主が帰って来て白い目で見られたり、喧嘩をしたアンナが通った子供を八つ当たりみたいに突き飛ばすが、後から駆け寄って謝ったり、他には彼女が働く店の馬鹿でかい音で響く調子のおかしい自動ピアノの場面などの、小ちゃい細々としたエピソードがテンポよく描かれる。

主演はアナベラとジョルジュ・リゴー。

「巴里の~」同様、今回も町並みの造形が見事でした。
Lys Gauty / A paris, dans chaque faubourg

風と共に去りぬ
Gone With The Wind
1939 / アメリカ
監:ヴィクター・フレミング
出:クラーク・ゲイブル
ヴィヴィアン・リー
レスリー・ハワード
オリヴィア・デ・ハヴィランド
ハティ・マクダニエル
言わずと知れた映画史に残る金字塔。伝説やエピソードも数知れず。とにかくスゴイ作品。
南北戦争直前、南部の農園主の令嬢スカーレットは、アシュレーに恋していたが、彼は従姉妹のメラニーと結婚する事を知る。同じ日に彼女は対称的な評判の悪いレットと出会う。その日のうちに戦争が始まり、彼女は当てつけにメラニーの兄と結婚するが、出征して戦死。南軍の戦況は悪く彼女は炎上するアトランタを、レットに助けを求め脱出。故郷に戻った時には殆どすべてを失っていたが、それでも彼女は家や土地を守り抜こうと決意する…。
オープニングのマックス・スタイナーのテーマ曲「タラのテーマ/Tara's Theme」から震えがくる(後に詞が付き、"My Own True Love"と言う歌になった)。
4時間の近くの長尺でそのスケールは現在では不可能だろう。
制作はハリウッドきっての辣腕プロデューサー、デイヴィッド・O・セルズニック。こんな大仕事が出来る人物はいないだろう。何でも、作品には写らない衣装の下着にまで、徹底して高級品を用いたと言う、完璧主義者だったとか


クライマックスのアトランタ陥落・炎上のシーンは圧巻!。
単に物量の投入だけでなく、物語もドラマティック。

ヒロインのスカーレット役はキャスティング難航し、結果、ハリウッドでは無名のヴィヴィアン・リーが選ばれた。彼女は気性の激しいスカーレットを見事に演じ、この作品で一躍大スターになった(ちなみにこの写真はオフ・ショットのようである。手元をよく見ると…)。

相手役のレット役には、クラーク・ゲイブル。この大胆不敵で野性的な役柄は他には絶対考えられないハマり役。尤も本人は自信がなくて当初は断り続けたとか。


この激しい二人とは対称的な、誠実で穏やかなアシュレーとメラニーにはそれぞれ、レスリー・ハワードとオリヴィア・デ・ハヴィランドが登板。ハワードは既にハリウッドで活躍しており、デ・ハヴィランドもこれ以降脚光を浴び、主役級の女優へ出世した(主要キャストのうち唯一現在でも健在で、数年前本作のDVDの特典映像にも出演しており、品のあるお婆ちゃまになっていました。失礼!)。
この真逆の4人の長年に渡る愛憎に、歴史の大きな流れが絡むという筋書。

二人目の夫を亡くした後、スカーレットを訪れたレットは、彼女に求婚する。長い間彼を撥ねつけてきたスカーレットも、ついに首を縦に振る。
レットを愛しながらも、アシュレーに対する長年の思慕を捨て切れないスカーレット。互いを思いながらもすれ違って行くふたり。
本作はヒロインが決定する前から撮影を開始し、山場のアトランタが炎上する場面を当時恋仲だったローレンス・オリヴィエの口利きで見学に来た際に、プロデューサーのセルズニックの前で涙を流して見せ、それがきっかけで主演に決定したと言う。

他の出演者では家政婦のマミー役のハティ・マクダニエルが黒人で初のオスカー俳優となった。
作品賞をはじめ8部門のオスカーを受賞し、この作品以降大量受賞の傾向が増えた。ただし、ゲイブルの主演男優賞は惜しくも逃している(そこが面白いんだけどね)。
演出はクレジット上はヴィクター・フレミングのみだが、実際にはジョージ・キューカーとサム・ウッドも関わっている。
何でも人物描写に力を入れる姿勢が女優陣には好評だったが、プロデューサーとゲイブルからはそれぞれ、根本的に作品への姿勢が違う、女優ばっかりに注意を払ってるという理由で不評であり、代わりにフレミングが起用された。しかしスペクタクルに力を入れる彼と、心理描写にこだわるリーとの仲は険悪で、女優たちは密かにキューカーの元を訪れ、助言を仰いだ。一方、フレミングは仕事上の疲労が蓄積しダウン。一時ウッドがピンチヒッターになった。
脚本はシドニー・ハワード他、計17人が動員されたとか。

他にウォルター・プランケットの手がけた衣装も豪華。金銭を工面する目的でレットに会う時、自宅のカーテンをドレスに仕立てた、「カーテン・ドレス」は有名。
Tara's Theme / Max Steiner
My Own True Love / Margaret Whiting

ひまわり
I Girasoli (Sunflower)
1970 / イタリア
監:ヴィットリオ・デ・シーカ
出:ソフィア・ローレン
マルチェロ・マストロヤンニ
リュドミラ・サヴェーリエワ
イタリア映画の名匠デ・シーカが手がけた悲恋モノの名作。

主演のローレンとマストロヤンニは「昨日・今日・明日」、「ああ結婚」でもデ・シーカとトリオを組んでいる
戦時中に結婚したジョヴァンナとアントニオ。兵役を逃れるために仕組んだ狂言がバレたために、彼は極寒のロシア戦線に送られ、消息不明になる。戦後、ジョヴァンナは彼を探してロシアに行くが、再会した時アントニオは現地で家庭を持っていた…。
物語の序盤はコミカルなタッチが続き、浜辺でイチャついてて彼女のネックレスを飲み込んだり、卵24個分の巨大なオムレツなど、喜劇的に綴られる。
話が進むにつれて、徐々に物語は哀しみを帯びてゆく事になる
過酷なロシア戦線のくだりで風にたなびく真っ赤な旗に、白い雪原を行く兵士の画が重なる場面が印象に残った。
夫の消息を追って、ロシアに行ったジョヴァンナが現地の人に広大なひまわり畑を指してこう教えられる。「この下には、イタリア兵とロシアの捕虜たちが眠っている」。

現地の妻役には「戦争と平和」に主演したソヴィエトの女優リュドミラ・サヴェーリエワが出演。情熱的なローレンとは対称的な繊細な雰囲気でした。
なおこの作品は初めてロシアで映画のロケーションが行われた作品であります。
オープニングに映し出される、ひまわり畑のシーン(スペインのアンダルシア地方で撮影されたという)に重なるマンシーニのテーマ曲は本編に何度も流れ、悲しげな雰囲気を出す。哀愁を帯びたメロディがたまらない、映画音楽の名曲です。のちにボブ・メリルの詞がつき"Loss Of Love"という歌になった(スコット・ウォーカーやペトゥラ・クラークが取り上げている)。
Theme From Sunflower / Henry Mancini
Loss Of Love / Scott Walker

高慢と偏見
Pride And Prejudice
1940 / アメリカ
監:ロバート・Z・レナード
出:グリア・ガースン
ローレンス・オリヴィエ
モーリーン・オサリヴァン
エドナ・メイ・オリヴァー
近年にもリメイクされた作品のオリジナル版。
とは言え原作は大分脚色され、当時流行していたスクリューボール・コメディ風に作られている。
そのためコミカルなやりとりが多く観られる。
イギリスの田舎、メリトン村に住むベネット家の次女エリザベスは、舞踏会で近頃村に引っ越して来た青年ビングリーの友人、ダーシーと知り合う。自分達の事を見下すような発言を聞いてしまったエリザベスは、彼に嫌な印象を持つが…。
遺産の話になった時に、激昂した母親がこう言う。
「見て、持参金も持たせられない5人の娘がいるのよ」
それに対し父親がこう返す。
「そうだな可哀相に。産まれた時に溺死させとけば…」
他にリズがダーシーにあまり笑わないと言った時に友人にこうこぼす。
「私はあまり笑わないと、言われたよ」
友人の女性はこう言う。
「充分笑ってるわ。笑いすぎる人は、品がないと思うわ」
それに対してリズが一言。
「上品でいたいのなら、死んでミイラになればいいわ」
どちらが原作に近いかはともかく、純粋に作品としてはこちらの方が好み。
主演のガースンは快活で社交的、やや皮肉っぽいリズを演じている。失礼ながら、年齢的には少し上すぎるが、表情や雰囲気などに気品を感じさせ、その点で他の作品の演者を圧倒している。
オリヴィエは実に貫禄があり貴族然とした外観と共に実にはまっており申し分ない。また初めて彼女に想いを告白した後に二人が口論する場面で見せる腹の立て方ひとつとっても、何とも言えぬ男性的なチャーミングさを滲ませ、実に魅力的だった。

二人共、英国出身なだけに本物よりも本物の貴族に見える。

キャサリン夫人はやや違う描かれ方をしているが、これは演じたエドナ・メイ・オリヴァー(一度観たら忘れられない、個性的な顔立ちの女優でしたね)に合わせての改変のようである。
これも個人的には好き。
他に俗物の権化みたいな母親役のメリー・ボーランドと、対称的で飄々とした父親役のエドマンド・グウェンのコンビも面白い。

あと姉のジェーン役のモーリーン・オサリヴァンはターザンの恋人、ジェーン役で有名。またミア・ファローの母親でもある。

演出のレナードはロマンティックな作風で知られていたとか。この作品も確かに良い雰囲気でした。
良い作品でしたが、時期的な事もあってか日本では未公開に終わり、近年(廉価版の)DVDが出るまで容易に視聴出来る状態ではありませんでした。
未公開が惜しまれる一作。

幸せはパリで
April Fools
1969 / アメリカ
監:ステュアート・ローゼンバーグ
出:ジャック・レモン
カトリーヌ・ドヌーヴ
ピーター・ローフォード
シャルル・ボワイエ
マーナ・ロイ
サリー・ケラーマン
フランスの名女優、カトリーヌ・ドヌーヴのハリウッド・デビュー作。相手役にはワイルダーの作品でお馴染みのジャック・レモン。このとてもお似合いとは言えない二人のラヴ・ロマンス。
会社では出世しつつも、家庭では家族にぞんざいにされる中年サラリーマン、ハワードは、社長に呼ばれたパーティで出会った美女キャサリンに惹かれ、彼女もまた惹かれるが、実は彼女は社長夫人だった…。
ニューシネマなどのリアリズムや前衛が流行していた、1969年当時にこんなロマンティックな作品があるとは。当時の文化風俗を取り入れつつも洒落た仕上がりになってるのは見事。
社長の自宅にある、何も上に置かない前衛芸術の「台」を見て、何か置かないのかと思うレモンに、これが芸術だとか言う社長のローフォード。それを見て妻のドヌーヴもレモンと同じ事を言う。
主人公のハワードは子供の頃に学芸会でカエルの王子様を演じたが、相手役の子が途中で嫌がったせいでカエルのまま、王子様になれなかったと彼女に話す。
その後、二人が改めてデートをする時に、キャサリンを迎えに行ったハワードが、前述の「台」の上にカエルのぬいぐるみを置いて、彼女と顔を合わす。この場面が何とも良いのです。
このカエルのぬいぐるみ、その後も本編に出て来ます。
ドヌーヴはやはり素敵。二人で変わった飲み屋に出かけた時に、テーブルに置かれたおもちゃな鉄砲をいじってて驚いたり、フランス映画の時とはちょっと違う雰囲気で素敵。

アメリカ映画ではこんなラフな服装の彼女も観られるのですね。
レモンもこういう役は得意でよく演じていましたね。

更に助演で、社長役のローフォードは若い頃はMGMのミュージカルなどに出演していた俳優。妻はケネディ家の人で、シナトラとケネディを結び付けたのもこの人。


二人に影響を与える、古風な洋館に住む謎の?老夫婦の役には戦前からの名優、シャルル・ボワイエとマーナ・ロイが出演している。
ボワイエは劇中でこんな事を言う。
「夜は昼より良い、深夜に(テレビで)ガルボの映画が観られる」
フランス人同士でドヌーヴとボワイエがフランス語で話し、彼女がフランス語で歌う場面もあった。
この二人も作品の雰囲気に一役買っている。
ハワードの妻役には、翌年に出演した「MASH」でも知られる、サリー・ケラーマン。
演出のローゼンバーグは、他の作品はもっと男臭い作品ばかり撮っており、この一作だけ異色である。
終盤に絡む、彼の友人と見知らぬオッチャンの酔っ払い二人組も、忘れ難い。
音楽はバカラック。二人がセントラル・パークを歩く場面で、テーマ曲の"April Fool"が流れる。当時斬新だったサウンドが、都会的な雰囲気を出しています。
April Fools / Dionne Warwick

サムソンとデリラ
Samson And Delilah
1949 / アメリカ
監:セシル・B・デミル
出:ヘディ・ラマール
ヴィクター・マチュア
ジョージ・サンダース
アンジェラ・ランズベリー
スペクタクルな作品で知られる、セシル・B・デミルが手がけた聖書を題材にした史劇。
神から怪力を授けられたサムソン。彼に恋するペリシテ人のデリラだが、彼は姉のセマダルを選ぶ。サムソンを我が物にしたいデリラは結婚式の日に、来客たちに入れ知恵をし二人引き離そうとするが、これが元でサムソンの怒りを買い、結果彼女は家族を失う。復讐を誓うデリラは大守に取り入り、サムソンを捕らえよう企てる…。
正直、恋愛映画に分類するには若干無理があるが、他の恋愛映画ではまずない恋愛なので、紹介させて頂きます。

まず何と言ってもタイトルロールの二人。
野性的な怪力男サムソンを演じたマチュアはハマっている。男臭くも、ちょっと甘さもある感じで良い。
デリラ役のラマーは絶品。これ以上ないハマり様。彼女のキャリアのピークにもなった。
復讐を誓い、何度も彼を陥れようとしながら、一方で深く愛し自己犠牲も厭わない複雑なキャラクターを好演。
二人が再会する、夜営の陣のシークエンスは濃厚な雰囲気を醸し出す。
神話の世界ゆえか、若干荒唐無稽な演出も観られる(サムソンが素手でライオンと格闘したり、風で馬車が飛んだり)。

若かりし日の、アンジェラ・ランズベリー(ジェシカおばさんで有名)も登場。一回り年下でラマーの姉の役(!)を演じている。

また大守役のジョージ・サンダースも良い。一種悟り切ったような知的で品のある敵役で渋い。

イーディス・ヘッドのデザインも華やか。終盤近くの孔雀をイメージしたデリラのドレスは特に印象的。

第七天国
Seventh Heaven
1927 / アメリカ
監:フランク・ボーゼイジ
出:ジャネット・ゲイナー
チャールズ・ファレル
サイレント期の古典的名作。
演出はサイレント期から活躍したメロドラマの名手、フランク・ボーゼイジ。
先に言ってしまえば、古さゆえか若干ツッコミ所がない訳ではないが、敢えて目をつむりたい(笑)。
パリの下水の掃除夫チコは、ある日姉に虐待され逃げてきた娘ダイアンを救う。彼は文句を言いながらも行く当てのない彼女を自宅に住まわす。口では冷たい態度を取りながらも、徐々に彼女に惹かれてゆくチコ。ダイアンもまた彼に思いを寄せてゆく。ところが折しも第一次対戦が勃発し…。
主人公のひとりであるこのチコと言う青年は優しいクセに、口が悪くてなかなか素直になれない。対するダイアンは可憐な雰囲気を漂わせる娘。
最初は冷たい態度をとり、早く出ていけみたいな事を言うが、一緒に暮らすうち、「居たければ、居たって構わないぜ」なんて言ったりする、この早過ぎるツンデレぶり(笑)。
住まいのアパートの7階から下を見下ろしたダイアンに対して、「下なんか見るな、いつも上を見ろ」と言う。この台詞は生き方の事も言っている。
他にも彼等と仲の良い、タクシー運転手のオッチャン(戦時中には敵兵と戦い、自分のタクシーを大破されて泣いたりする)や、二人が出会った時に居合わせた神父(祈ったけど願いを聞き入れなかった。「神様に10フランの貸しがある」と言い、神を信じないチコに(その時に払った代金を)代わりに渡し、「君は自分が思ってるほど、冷たくはない」と言う)などの脇役も良い雰囲気を出している。
ダイアンが朝チコが起きた時に、朝食の支度をしたりする場面や、彼の上着を繕ってその袖に抱かれて、彼を思ったりする場面も素敵な雰囲気でした。
一度も愛してると言ってくれないのねと言う彼女にチコはこう言う
"Chico - Diane - Heaven!"
出征する直前に彼は初めてダイアンに愛してると告げ、また初めて弱音を吐く。それに対して彼女は、かつて自分がチコに言われたように、彼の真似をして「下なんか見るな、いつも上を見ろ」と言う。
そして二人だけで慎ましやかな結婚式を行い、彼を見送る。
離れ離れになっても毎日二人は、午前11時に互いを思い出し、二人きりの会話をするのである
ラストを締めくくる、あの一言もたまらない!。

主演のジャネット・ゲイナーは日本で言うと若い頃の松島トモ子や倍賞千恵子と似てる感じの目の大きな可愛いらしい女優でした。この作品で第1回アカデミー賞の女優賞を獲得し、オスカー女優第一号となった(ただし、当時の規定でこれ一作のみによるものではない)。
相手役のファレルもこの作品で有名になったが、トーキー以降はあまり活躍せずに、後年はテレビ・シリーズに数本出演している。
ボーゼイジはこのテのロマンティックな作品を得意とし、一時は甘口すぎると批評家に言われたりもしたが、近年は再評価の声もある模様。

他に劇中のセットも見事。チコの部屋の構図や空の広がるベランダ。観ているだけで、涼しげな空気を肌で感じそうになる。
まさに天国のような雰囲気を出しています。
ちなみにサイレントですが、主題歌(Diane)も存在している。当時劇場で生演奏されたようである。後に'60年代にカヴァーされ、ヒットしている。
全編を彩るロマンス。それらは、約80年経った今でも色褪せていません。
Diane / Mario Lanza
前回から大分間が空いてすみません。次はテーマを決めずにおくわ(笑)。