前回は水分補給のメリットと方法について書きました。
かなり大雑把なアドバイスで、内容が水分補給に偏ってしまい、運動に必要な栄養に関する情報が不足していましたので、それを補足し”水分補給の質”を追求してみます。
■自発的脱水
人間は発汗によって水分だけでなく、ナトリウムをはじめとした様々なミネラルが失われます。
にもかかわらず「真水」のみで水分補給すると、血液は希釈されてしまいます。すると身体は血液のイオン濃度を保つために、余計な水分を尿として排出してしまうのです。これが「自発的脱水」と呼ばれる現象です。
したがって、「衣装を着ているから、できればトイレに行きたくない・・・。」という理由で水分を補給しない方の場合、これまでの経験では、選択した飲料成分の関係で、発汗によって失われたミネラルを充分に補給できていなかった可能性が考えられます。
ですから運動時に水分を補給する際、同時にナトリウムを中心としたミネラルも補給することによって、無駄にトイレに行く回数を減らせるということを覚えておきましょう。
前回、「ミネラルウォーターのみによる水分補給よりも、サプリメント(マルチミネラルとマルチビタミンなど)をうまく併用しましょう。」と書いたのは、こういった理由からです。
■胃内容排出速度
☆おさらいと補足
●細胞内溶液の浸透圧<ハイパートニック(高張液)
●細胞内溶液の浸透圧=アイソトニック(等張液)
●細胞内溶液の浸透圧>ハイポトニック(低張液)
真水や水道水を飲むと胃が重くなる。これは水の浸透圧が低過ぎることにも起因します。
しかし飲料に電解質成分(ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、塩化物イオン、リン酸イオン、炭酸水素イオンなど)が含まれることによって浸透圧が高まり、細胞内溶液の浸透圧に近くなると、胃から小腸へ移行するスピードが速くなり、胃もたれしなくなるのです。
なお、水分は殆どが小腸で吸収されますが、このときは浸透圧が低いほうが吸収は早くなります。
つまり、水分が胃から小腸へ移行するスピードを速める(胃もたれしない)ためにはアイソトニック飲料のように、浸透圧が血液や体液に近い方が良い。
しかしながら、水分が小腸から体内に吸収されるスピードを早めるためには、浸透圧が血液や体液より低いハイポトニック飲料が良いということになります。
前回、「スポーツドリンクで水分補給をする際は、市販の糖濃度の低いハイポトニック飲料がおすすめです。体内への吸収速度が上がります!糖濃度の高いアイソトニック飲料しか手に入らない場合は水で希釈すると良いですよ!」
と書きましたが、これは決してウソではありません
ウソではないのですが、実は運動中に失われるのは水分やミネラルに加えて、エネルギーを作り出すための糖質やアミノ酸、脂肪なども失われてしまうのです。その中でも特に重要なのは「糖質」
では、理想的な水分補給を追求するとなると、どうしたら良いのでしょうか?
実は、1年半ほど前に栄養学の先生から「ゲータレード・トリプルチャージ(http://gatorade.jp/menu.html
)」がオススメだと聞いていたので、以後、受け売りながらも人にオススメした記憶があります。
※「ゲータレード・トリプルチャージ」という商品名は2009年5月当時のもので、現在は商品名もWebサイト内容も変わっています。が、恐らく効果には当時と殆ど変化はないと思います。たぶん。
そして「ゲータレード・トリプルチャージ」は”アイソトニック飲料”であることを思い出しました。前回の記事をアップした直後に^^;
「人の水分吸収の速さは浸透圧だけで決まるものではなく、糖組成などに影響されており『ゲータレード・トリプルチャージ』の水分吸収の速さは様々な角度から研究され、世界最速レベルの水分吸収力であることが実証されている。(サントリーのWebサイトより)」ということなのですが、少し掘り下げると・・・。
■糖質
浸透圧が低いハイポトニック飲料の方が水分吸収は早くなりますが、ハイポトニック飲料の多くは配合される糖質の量も少なくなります。
(質量パーセント濃度で言うと「人間の細胞内溶液の浸透圧=約0.9%」なので、100gあたり約0.9gの電解質成分を含有しているのがアイソトニック飲料ということにります。たぶん。)
つまり水分はうまく補給できても、今度はエネルギーが不足してしまうのです。
水分の吸収速度と運動時の栄養補給を両立するためには、糖質の量を最適化する必要があり、一説によると糖質濃度が6%を超えると、徐々に水分の吸収速度が落ちてしまうそうです。
このことから糖質濃度はおおよそ「2.5%~5%」の範囲内に収めるのが良いと言われています。
ちなみにゲータレード・トリプルチャージ100mlあたりの炭水化物(糖質)は6.4gです。この商品の100mlあたりの質量が解りませんが、恐らく糖質濃度5~6%前後でしょう。
更に掘り下げます。
■糖質の種類
「ゲータレード・トリプルチャージ」には、「砂糖」「果糖ぶどう糖液糖」「マルトデキストリン」という糖質が配合されています。
大雑把に説明すると・・・。
「砂糖」:果糖+ぶどう糖。
「果糖ぶどう糖液糖」:でんぷんを加水分解して液化し、それを糖化させてぶどう糖を作り、その一部を異性化して果糖に変えたもので、ぶどう糖10%以上50%未満、果糖50%以上90%未満未満のもの。
「マルトデキストリン」:ブドウ糖がいくつもつながったもの。
■果糖ぶどう糖液糖のメリットとデメリット
果糖ぶどう糖液糖は原料がでんぷんなので、天然由来の糖質でありながら原材料コストを下げられるようです。また、甘味の質は砂糖に極めて近く、すっきりした清涼感があるとのこと。
ただ、果糖自体が中性脂肪を高める、AGE's生成、尿酸を増やすなどのデメリットがあるようですので、あまり大量に摂取するというのは良くないみたいです。
ちなみに砂糖は「果糖+ぶどう糖」ですので、砂糖を摂るということは果糖を摂ることにも繋がります。
■ぶどう糖のメリットとデメリット
ぶどう糖は糖質の最小単位(単糖類)で、食事で摂取した糖質はほとんどが消化酵素の作用を受け、最終的にぶどう糖にまで分解されます。
ですからぶどう糖を摂取するということは、消化の必要がないということになり、胃腸への負担も少なく、急速に吸収されるようです。
しかし、ぶどう糖は細かい分子なので、同じ量の糖質を摂取した場合、他の糖質に比べて「分子数」がどうしても多くなります。分子数が多いということは、それだけ浸透圧も高くなってしまうのです。
浸透圧が高いと、身体は浸透圧を調整するために水分を供給して、ぶどう糖でいっぱいになった消化管を満たそうとします。
すると胃もたれが起こったり、急激な水分増大によってお腹がゆるくなる可能性が高くなるのです。
■マルトデキストリンのメリットとデメリット
マルトデキストリンは「ぶどう糖がいくつもつながったもの」ですので、分子数は少なくなります。よって浸透圧はそれほど高くならず、消化管内に水分が急激に入り込んでくるようなことにもなりません。
ですから胃もたれもお腹がゆるくなることも起こりにくくなります。
しかし、やはりぶどう糖に比べれば、消化の手間はかかります。消化酵素も必要になり、消化によるタイムロスも発生します。
以上のことから、それぞれの良いトコ取りをして「マルトデキストリンとぶどう糖を1:1~3:2くらい割合でミックスするのが良い」らしいです。
ちなみに糖質を小腸で吸収するときにはナトリウムが必要になります。
■運動時の水分補給に理想的なドリンク
1. ナトリウムを中心としたミネラルが含まれる
2. 糖質濃度は2.5~5%
3. 糖質の種類はマルトデキストリンとブドウ糖のミックス
ということになるのですが、「ゲータレード・トリプルチャージ」の場合、1. と 2. については辛うじて条件を満たしているようですが、3. についてはミックスの割合が解りません。
また、ミネラルが総合的に充分な含有量であるかどうかは疑問です。
そのような訳で『市販のスポーツドリンクとしては理想に近いがベストとは言い切れない。でも、単価を考慮すれば、かなりイイ線いっている!』ということにしておきましょう。
つづく・・・