三話目です。
さてはてこのお話。酔いと共に書いたという事もありますが、書き手の想いを見事に覆し自由奔放に動き回る二人がおります故。
私も完全に彼等の動きを追い切れておりません。なのーでオイ待てどーいう事だ?!なーんて突っ込みございましたら、此方の二人にお願いしま(責任転嫁
それでは参りましょうっ!!書き手の気持ちは置き去り二人の唯我独尊正きも道っ!そんな二人を待ってたんだよ好きに走りまくってねーーっ!!なーんて言って下さる甘さだけだと物足りないって方はどぞっ!!
【正しい気持ちの伝え方(深心・中編)】
ヒチョルが帰宅してから30分程経った頃。イェソンは眠そうな目をコシコシ擦りながらリビングへと現れた。それにおはようございますと恒例な言葉とキスを一つ贈って。
そうすれば何時もの様にほんのり目元を染めながら「……はよ…」なんて返す愛しの奥様ことイェソンは、やはり恒例キュヒョン座椅子を背にチクチク縫い物と奮闘中。
「ボタン、取れかけてた。」
引きちぎったのは自分の力では無くて、ボタンが取れかけだったからと。そんな風に唇を尖らせながら針と糸とでチクチクちくちく。
「……もう随分着古してますからね…これ。」
言いながらつい先日ファンから貰ったモノなんだがとは、やはりというかキュヒョンの心に留めた言葉。一生懸命に縫うその姿が愛らしい。指を刺したりしないかと後ろから見つめるキュヒョンは内心ハラハラしているのだが。
そこはリョウク持込みの裁縫手腕なのだろう、イェソンは綺麗にボタンを付けていく。
「上手いですね……」
何をする訳でもなく、ただ後ろからイェソンを抱き締めているキュヒョンはその肩口へと顎を乗せながら。イェソンの白く小さな指が器用にちょこちょこ動く様を眺める。そんな時間も、また至福………
「……………出来た。」
ほらほら見てー?なんて言葉の無いままバサリ広げられる修復された自分のパジャマに、僅か五分程度で出来るのかとキュヒョンは本気で感心した。
「ありがとうございます……」
お礼にと、後ろから頬へと一つのキスを贈って。
そうすれば帰ってくるのは、不満そうなジトリ目一つ。
「そこ、違う。」
それにハイハイと笑って、振り向いた赤い膨らみへと今度はチュッ。音と共にお礼の品を贈呈する。
だけれどそれにもイェソンは首を小さくふるふる横へと振るではないか。
「最近、欲しがりますね………」
僕の奥様は、こんなに欲張りでしたっけ?
「…………………俺、頑張った。」
(……貴方が引きちぎったんですけどね…?)
とは近頃言わずに収める言葉の扉へと仕舞い込み。
頑張りましたねと、今度は少し長く甘いキスを贈って柔らかな感触をお互い楽しむ。
「お腹、空きません………?」
触れ合わせた唇のまま言えば、僅かに目前の睫毛が揺れた。
「…………空いた?」
「ええ………今日は沢山運動、しましたしね?」
言えば途端にぼわんっ。顔を赤らめる姿に笑みが溢れた。欲しがる癖に、自分達の情事を思い出させればいとも簡単にこうして赤くなってしまう。
大胆なのか、奥手なのか………
弾かれた様にキッチンへとトテトテ走っていくその背中は、普段と変わらぬ奥様の姿。
(怒らせたいとは、違う…………か…)
数時間前のヒチョルとの会話を思い出す。確かにと、リビング越しからキッチンを行き来するイェソンの背を見詰めながらキュヒョンは目を細めた。
怒っていたら、求めてなんて来ない筈。そして怒らせたいのなら、やはりあんな風に求めてなど来はしないだろう。
ならば、何故?
未だ答えの出ないまま、キュヒョンはまた一つ。細く長い息を吐いた。
「キュヒョナーーーー。」
呼ばれてハイハイと重い腰を起こす。正直最近の忙しさに足腰の重さが増している。加えてイェソンのお強請りも増え、キュヒョンの身体は実を言うと本気で疲労を訴えていた。それを普段のイェソンであれば違わず汲んでキュヒョンへと労りを見せるのだけれど。
「これ。」
示されたのは大きな土鍋。
今日は鍋物なのだろう、重いから運んでくれとイェソンは言っているのだ。
まだまだ夜は寒さの残る梅雨時だ。こうした鍋も、たまには良い。
食卓には既に沢山の野菜や豆腐、キムチにとあらゆる物が並んでいる。その中心に置かれたコンロへと鍋を設置して、さあ後は火をつけるだけとなった時。ふとキュヒョンはイェソンの肩口へと目を留めた。
「解れてますよ、ここ。」
言われたイェソンはきょとり目を丸くしながら、キュヒョンの視線の先。自分の左肩口へと目を向けて………
「………ッ…何で…」
呆然と。それは本当に小さく呟かれた、信じられないと言わんばかりの仄かな言葉。
その姿にキュヒョンはそういえばと思い出す。
今着ている服は自分達が付き合うその前から、彼が着ていたお気に入りの洋服だった。
白地のソレはセーターとまではいかないものの、上質な素材で縫い上げられたモノだろうV字型にザックリ空いた胸元の口部分は赤と青のラインが入っていて。袖口にも同じラインを模した、上質だが探せば同じ物がありそうな、それ。
「………今度、同じ物を探してみます。」
だからそんなに落ち込まないで。そう言おうとしたキュヒョンは、しかし言う前にイェソンによって口を開く事を阻まれた。
「…や………これじゃなきゃ、や。」
「………でももうコレは、限界です。」
よくよく見れば長年着ていたせいだろう。拠れてしまっている部分が見て取れる。ここまで着てくれたならば、洋服だって本望だろう……だがイェソンはそれでもイヤイヤと首を振るのだ。
「これは、捨てない。」
だってコレは………これは…
「ユノが着ての、貰ったんだもん………」
だから、捨てない。
「………………………着てた…?」
キュッと。音が出るんじゃないかという程服の裾を握り締める手に目が行く。
ふるふる震えるその手に何故か、苛立つ……
「貰ったから、捨てたくないって……?」
親友であるユノから貰ったモノだから、だから捨てたくない?
「それとも……彼が、着ていたモノ……だから?」
彼の着ていたその服だから、捨てたくない?
「………………キュヒョナ……?」
キュヒョンの何時もよりも低いそんな呟きに、イェソンは緩りとその顔を仰ぎ見た。
そこには何時か見た…………
そう。二年程前に見た、あの時と同じ酷く冷たい瞳。
「ッ……キュヒョ」
「貴方はコレが、そんなに大切なんですね……」
言いながら解れた左肩口へと手を置いたキュヒョンに、イェソンはこれ以上解れたら嫌だとばかりにその手を避ける様に肩を逸らして。
その行動に、一層キュヒョンの瞳が冷たくなる。
「………ねぇヒョン………………」
ぽつり。
「僕は……………」
僕はね?
「何だか本当に…………ちょっと、疲れてるみたいです……」
「…………キュヒョナ………?」
独白に近い呟き。それにおずおずと声を掛けたイェソンは、だが次の瞬間。
「今の僕は………貴方に優しくは、出来ない。」
強い力でもって腰を強引に引き寄せられて。
「悩んでいた自分が、馬鹿らしい………」
言うと同時に噛み付く様なキスがイェソンを襲い。
同時に走った唇の痛みに、イェソンは本当に噛み付かれたのだと嫌に冷静な頭でもってその唇を受け止めた。
※優男さん、久々暴走の巻(笑)こんなに長くなるとは書いてる私も思いませんでしたよ流石は私の意志とは反する我が子達(え
次、確実エロ……ですなスイマセン。