続きです。

今回は(叱る編)でございます。
駆け落ちしてやる!と息巻いた兄さん。叱られるのは、勿論兄さんでしょう。果たして誰に叱られるのか(笑)
取り敢えず可愛すぎる決意表明にキュヒョンさん、ある意味心臓鷲掴みされてそーですがー…


そんな二人の行く末をまだまだ眺めてやるぞっ!なーんてキャッキャして下さる面白い事大好きーっな方はどぞっ!!




【正しい気持ちの伝え方(叱る編)】



「お前…駆け落ちって…」

ヒチョルの呟きにイトゥクとキュヒョンは呪縛が解けたように固まった体から力を抜いた。


「自分が何言ってんのか…判ってんのか?」

今一番冷静なのはヒチョルかもしれない。ソファから立ち上がり腕を組んだままイェソンを見つめる瞳は何処までも深く鋭い瞳。

「…判ってるもん……結婚を許して貰えない二人が皆の知らない所に住んで一緒に暮らすって、そんな事位俺だって知ってる!!」

興奮しているのか、巻くし立てて言った言葉にキュヒョンは一瞬目眩を覚えた。何をどうしてそんな言葉を知ったかは判らないが何処か間違っている気がする。というか駆け落ちなんて宣言してするモノでは無いだろうと始めの段階から落ち度のあるその問題発言に突っ込みたい所だが。

「……ジョンウナ…ソレ、本気で言ってるの?」

その声にキュヒョンはイェソンから目線を外してイトゥクを見た。其処には哀しさと切なさを含んだ瞳……

「それは、オレ達から離れるって……そういう事なんだよ…?」

哀しみを帯びたイトゥクの心がキュヒョンの中に流れ込んで来る気がした。大事に大事に育てて来たイェソン。グループとしても、自分達の弟としてもその存在は図りしれない大きさ。その存在が手元から消える…その事がどんな事なのか、その想いをイトゥクは言葉にはしないまま目線だけで訴えているのだ。それでも今のイェソンにはその心すら通じない。

「…だって……どんなに頑張ったって…認めてくれない…」

我慢しろと言われて我慢をした。でも我慢が限界を迎えたらキュヒョンに言えと、そう言ったのは他でも無いイトゥクだ。
それなのに…キュヒョンの全てが欲しいと自分は望んだのに。
こうやって反対される。だったらもう他に何をすればイイのか判らない。
他に何を示せば許して貰える?それが、全く見えない。

「ヒョンは俺達の想いを信じて無い…俺達の気持ちを軽く見てるだけじゃないか…」

それは深く深く相手を求めているこの気持ちを疑われているのと同じ。

「でも違う…俺はもう、キュヒョナが居ないと…やだ…」

「………ヒョン…」

握った手を強く引いてもイェソンの言葉は止まらない。

「キュヒョナが傍に居ないと、どうしてイイかもう判らない…俺が何も言わなくても俺の事を判ってくれる。ヒョン達でも出来なかった事を、キュヒョナはしてくれる……」

落ち込んだ時だって、淋しい時だって。傍に居て欲しい時には何時だってキュヒョンがいてくれた。何も言わずにただ傍に……
そんな相手、もうどんなに探したって…絶対に居ない。

「だから…俺はキュヒョナと一緒に……一生一緒に居たい。」

その気持ちを判ってくれないのなら。どうしても反対するというのなら。

「一緒に居られるなら……俺は…ヒョン達なんて要らなっ」


パチンーーーー………


言い終える前に軽い音を立てて、キュヒョンの手がイェソンの頬を叩いた。
それは本当に軽い衝撃で痛みすら感じないモノ。
それでもイェソンの言葉を止めさせるには十分な威力。

「……キュ、ヒョナ……?」

叩かれた事に呆然としたイェソンは、それまで流していた涙をピタリと止めて打たれた頬を押さえた。

「…ヒョン…今自分が何を言おうとしたか……本当に判ってますか…?」

静かな低い声が室内を満たしていく。
イェソンの言葉に何も言わないまま微動だにしなかったイトゥクとヒチョルの目線は、今やキュヒョンに注がれて。それを無視してキュヒョンは真っ直ぐにイェソンだけを見つめた。

「ヒョンは何も判って無い。トゥギヒョンの気持ちも、ヒチョリヒョンの気持ちも……何も。」

「………何、言って……」

呆然とキュヒョンを見つめたままのイェソンは信じられないモノを見るような瞳をしていた。だってキュヒョンは今まで一度もイェソンを本気で叱った事は無い。なのに今のキュヒョンの瞳はイェソンへと怒りにも似た光を映し出している。

「トゥギヒョンは、僕達ですら考えていない未来を考えているんです。何時かもし、どちらかが好きだという気持ちを無くした時、きっとそれに深く傷付く。」

有り得ない事だとはキュヒョンも思う。だけど未来は判らない。
もしかすると心変わりをして、どちらかが深く傷付くかもしれない。普通では無い恋愛…それだけに、その分それだけ慎重にならなければならない事をイトゥクはちゃんと考えていた。そしてもし有り得ない未来が来た時の自分たちの心も……なのにその気持ちを反抗にしてまで駆け落ち等と、そんな事は、絶対に許されない。

「その気持ちを判らないまま駆け落ちだなんて言う貴方は……」


僕は嫌いですーーーー………


「………きらい…?」

言われた事の意味を理解するのに少しの時間を要した。
キュヒョンから告げられた聞いた事の無い言葉。それは、イェソンにとっては一番聞きたくない、受け入れる事の出来ない言葉……

「キュヒョナ……俺の、事……嫌いに、なるの……?」

握られていた手を強く握り返してイェソンはただただ目の前の相手を見つめる。今聞いた言葉は自分に対してなのか?それが本当ならば……
自分はこのままでは嫌われてしまう。
そのままキュヒョンが自分から離れてしまうかもしれない…
そんなのは…………嫌だ。

「………や………ぜ…たい……や…っ」

フルフルと頭を振った刺激でその黒い瞳からまた新たな雫が溢れ落ちた。
キュヒョンを見つめたままただ首を振って嫌だと。それだけを繰り返すイェソンの頬を温かい手が包み込む。

「…僕はね…ちゃんと貴方の事だけを愛しています。今も、勿論これからも。」

一生愛していく自信はあった。それでも、相手の気持ちが揺るぎないモノだとは言いきれなかった。それは、自分の弱さ。
相手を何処か信じ切れていなかった、自分の心の闇。

「貴方が僕をね?捨てるかもしれないって……そう思う事だって、あるんです。」

恋愛なんて常に不安が付き物だ。だからこんな風に思う自分を臆病だ等とは思わないが……

叩いてしまった頬を撫でようと、イェソンの手を外してソコを愛おしさを込めて撫でていく。

「でも今、貴方の言葉を聞いて……僕の不安なんて小さな…本当にくだらないモノだと思えた。」

イェソンの体を自分の腕の中に抱き寄せて、そのまま落ち着かせるように背中を優しく叩いてやって。

「だからね?僕はヒョン達に…キチンと許して貰いたいんです。」

貴方を一生掛けて守り抜ける男だと認めて貰う為に。

それを許して貰う義務が、自分にはあるから。


「…だから、駆け落ちなんて……そんなのは絶対に僕が許さない。」


断言したキュヒョンの心に、イェソンは涙を止める事が出来なかった。
軽く考えていた駆け落ち。それを、キュヒョンは良しとしなかった。
認めて欲しいから。自分達の深い想いをきちんと理解して、許して貰いたいから。だから、駆け落ちなんて身勝手は許さない。

それをイェソンは違う事無く理解して。

「………もう、俺を嫌いって……言わない…?」

震えた肩を撫でながら。

「貴方がヒョン達の心を判ったなら…」

その深い愛情を理解したのなら。

「僕はこれから先、貴方を嫌いだなんて…一生言わない。」


だからもっと冷静になって考えてみて下さい。緩く抱いていた体を強いモノに変えて、キュヒョンはイェソンに温もりを与えていく。不安にならないように、ちゃんと愛しているという事を伝えるように。その腕を感じて暫く黙った後、イェソンは肩口に埋めていた顔をユルリと上げた。

「………ちゃんと…判った……」

ポソリ小さな呟き。

「ヒョン達の気持ち……判った…」

キュヒョンに言われて冷静になって考えてみて、二人が自分達を心配しているのだという事。気持ちを疑っているのでは無く、どちらかが好きだという感情を失う事だって有りうるんだと。そうなった時に訪れる図りしれない痛みを受けて欲しくない。イトゥクは優しい心で、そう心配してくれていた。

「……ヒョン………ごめんなさい…」

「……ジョンウナ…」

キュヒョンの肩口へと顎を乗せて、涙をポロポロ流しながら。

「駆け落ちするって……ヒョン達を要らないって言って……ごめんなさい…」

キュヒョンの背中に回していた手が服をキュッと握りしめて、そのままコトリ首を傾げる。

「だけどね?俺…もしも痛い思いしたって……平気。」

もし本当に心が離れてしまって、その事で死ぬ程苦しい思いをしたって。

「今、キュヒョナに沢山愛してもらってるから…平気。」

その記憶があれば平気。でも全身で愛を与えてくれたって証が欲しい。離れる事になった時、愛されていたというその証が欲しいから。

「だからね?結婚……しても、いい…?」

イェソンのその決心は例えどんな事がこの先起ころうと、揺るがない。
好きだから、愛してるから証が欲しい。
そんな風に言われたら、もう反対なんて……

「……強情だね…お前は。」

クスリ苦笑してイトゥクは座ったままヒチョルの顔を仰ぎ見る。

「こんだけ公開イチャつき見せられて、反対なんざ出来ねぇだろ?お前。」

それはイトゥクに言った言葉。ヒチョルは既に二人の事を許していた。
だから後はお前だけだと、イトゥクの手を緩やかに握る。その温もりにまた笑って、イトゥクは二人に視線を戻した。

「そこまで言われたら、仕方ないでしょ。」

未だ肩口へと顎を乗せて小首を傾げながら此方を覗いている姿は何となく小動物のようだ。こんなに真剣な話をしていても、やっぱり可愛いその行動が何だか笑える。イトゥクのその言葉を聞いて、キュヒョンは顔だけを二人に向けて。

「でしょう?こんなに可愛い事を言われたら、僕も男を見せないと。」

ポンポンと背中を叩いて頭を撫でてやりながら。

「イェソンヒョンは………僕が貰います。」

下さいとかそんなお願いでは無く。

「僕達……結婚します。」

微笑んでのその言葉の強さに、イトゥクは一度息を吐き出してから。


「いいよ……キュヒョナに、ジョンウナをあげる。」

お前達に何かあった時、批判の声があったとしても…守ってあげる。
だから…

「結婚、しちゃえ。」


少しだけ小さめのその声は、それでも二人を包み込むには充分な。
最大級の優しさを含んだ響きを帯びていた。





※やーーーーーっと!!
トゥギママからのお許しが出ましたああっ!
結婚、しちゃえ。ですって!きっと凄く言いたく無い言葉であり、凄く言いたかった言葉でもあるんでしょうね。
さーて。これで二人は本当に結婚…するんですかね?←








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