【甘えん坊】続編です。時系列的にはもう付き合って数ヶ月は過ぎてるモノと思われます。出だしからして私の小説にしては珍しい大人な兄さんぽいですが、多分段々崩れます(笑)

それでも大丈夫だよって方はどぞ!!






【喧嘩1】



キュヒョンが酒に酔って帰宅した。


「ヒョン~!淋しかったでしょう!?」

いや、淋しいも何も今映画を楽しんでんだけど……
イェソンはそう思いながらも、ベットリとくっついて離れないキュヒョンにソッと溜息を吐いた。

「キュヒョナどーしたの!?」

イェソンへとへばりついたまま離れないキュヒョンにリョウクが慌てて駆け寄る。キュヒョンはたまに外で飲む事はあっても酔って帰って来る事は本当に珍しい。それ位には彼は酒が強い。だからこんなにテンション高く人に纏わりつくなんて滅多に無い。

「おー、リョウギが居る~」

呑気な声を出しながら、それでもイェソンから離れる気は無いらしい。ソファ越しにイェソンの首元へと腕を回しながら楽しそうに揺れている。
そんなキュヒョンに映画を観る事を諦めたイェソンは、テレビを消して自分を抱きしめている手をポンポンと叩いた。

「今日はチャンミナ達と呑んでたんだろ?元気だったか?」

そんな何気ない一言。そう、本当に何でもない一言だったのに。
それがキュヒョンの琴線に触れたらしい。

「……………何でヒョンがチャミナの事気にするんです…?」


「…………は?」

突然の不穏な空気。それに首を傾げたのはリョウクも一緒で。
イェソンはチャンミンが研修生の頃から面倒を見ていた可愛い後輩だ。それは公私共に知れ渡っている事実であり、そんな弟の様子を気にするのは当たり前の事だ。寧ろさっきの言葉は会話の橋口でしか無いと二人は思っている。なのにキュヒョンにとっては少し違うらしかった。

「チャミナが元気だったら、何なんです?」

「…………お前、何怒ってんの?」

イェソンは何だろうとキュヒョンを見つめた。いや、正確には自分の肩口へと顔を埋める相手の後頭部を見ただけなのだが。
酔ったメンバーが絡んで来るなど毎度の事だからあまり気にしないイェソンだが、今日のキュヒョンは何だか何時もと様子が違う。それに少し気を止めながら優しく言ったのだけれど。

「別に怒ってなんてないですけど?」

自意識過剰なんじゃないですか?


そんな言葉が返ってくれば、流石のイェソンでもカチンとくる。
それに気付いたリョウクが慌ててキュヒョンをイェソンから剥がそうとした瞬間、キュヒョンの眼つきが変わった。

「リョウギ…離せよ?」

その言葉にイェソンは本格的に、キレた。


「…オイ……言っていい事と悪い事があるって、知ってるか?」


絶対零度とはこの事を言うのだろう。リョウクはイェソンの言葉に冷や汗が噴出した。イェソンは普段温和で笑顔を振り撒いている。
弟達にも優しいイイ兄貴だ。だが怒ったら全くの別の顔が姿を現す。ファンから【天安の狂犬】と謳われる訳はそこにある。
昔、不良に絡まれて返り討ちにしたという逸話がある位だ。だからメンバーはイェソンを怒らせないようにと最善を尽くしている。それは年長である兄達でも、だ。なのに……

「…ヒョンはリョウギの肩持つの?…へぇ……」

止めてくれとリョウクは思う。メンバーの中でも争い事を好まないリョウクは、こんな場面を1番嫌う。だからイェソンは我慢をしていたのに。

「ヒョンはリョウギが1番可愛いもんねぇ…」

その言葉を聞いた瞬間、イェソンの忍耐は脆くも崩れ去った。



「……お前、本気で俺に殴られたい訳……?」



これは本気だとリョウクは本格的に焦る。誰かを明確に殴る等と言う時は本気で殴ろうと思っている証拠。なのに未だ酔いに任せたキュヒョンはその動きを読めていないまま。

「殴る?あ、やっぱり僕の事嫌いなんだぁ」

ケラケラと笑いだした瞬間、乾いた音が室内に響いた。、

「………っ…いった……」

頬を押さえたキュヒョンへとイェソンは冷たい視線を注ぐ。
キュヒョンを殴った事はあっても、こうやって本気で怒りをぶつける事などイェソンは初めての事だった。ワナワナと怒りに震えながら、イェソンはキュヒョンを冷たい視線のまま見つめる。

「最低だぞ…今のお前………」

そう言ってリビングを出て行ってしまった。





「………少しは落ち着いた?」

リョウクの言葉にキュヒョンは俯いたまま。仕方の無い事だとは思うが、イェソンを怒らせた事実は消えない。リョウクはハイッ。と温かい味噌汁を手渡した。

「酔いが冷めるよ?」

本当はイェソンに殴られた時点で酔いは冷めている。それでもリョウクの優しさにそれを受け取って、渇いた喉を潤す。それを相向かいに座ったリョウクは静かに見つめていた。


「………俺は、最低だな……」

冷静を取り戻して、キュヒョンはポツリポツリと今日の出来事を話し始めた。チャンミンとミンホと三人で出掛けた落ち着いた雰囲気のバー。
チャンミンおすすめと言うだけあって居心地が良く、また出てくる酒も上物。それに気を良くして呑んでいたのだけれど。

「え………そこ、イェソンヒョンのお気に入りの場所だったの?」

コクリと頷いて、キュヒョンはソファへと背中を預けた。
誰に教えてもらったのかと聞いた時、チャンミンは当たり前のように言ったのだ。『イェソンヒョンにだけど?』
それを聞いた瞬間、体中の体温が下がるのを感じた。イェソンは自分のテリトリーを他人には滅多に教えない。兎角お気に入りの場所等は一人で楽しみたいという性格なのだ。それなのに…

『俺の行き付けなんだけど、お前も気に入るかなぁと思って。て教えてくれた』

嬉しそうに話すチャンミンに腹が立った。だって、自分はイェソンの行き付けなど教えてもらった事なんて一度もない。それどころか、彼がどんな場所が好きで、どんな酒を好んで呑むのかすら知らなかった。

『ヒョンはワインが好きだけど、ココではカクテルしか呑まないんだ』

笑って話すソレが嫌に耳についた。自分なんてワイン好きをファンですら知っている。なのにイェソンからワインを飲もうだなんて誘われた事すらない。でもチャンミンは違う。他にもワインの美味い店を教えてもらったから、今度はソコに行こうとまで言っていた。


「………だから、やけ酒…?」

そんな子供みたいなヤキモチであんなになるまで酒を呑んだのかと問えば、それには柔く首を振って背もたれへと首を預ける。

「………そのままの流れでヒョンの話しになって……」


『そういえばヒョンの癖、治ったのか?』

そんな風に突然聞かれて、既に機嫌の悪くなっていたキュヒョンは何が?とだけ返した。それに逆にチャンミンが驚いて、ミンホと顔を見合わせたのに気付いて尚々キュヒョンの機嫌は悪くなる。

『………何だよ?』

聞けばそれにはミンホが答えてくれた。

『ヒョン、酔うとキス魔になるでしょう?』

その時の記憶が蘇ってきたのか、ミンホは頬を少し赤くしている。それにチャンミンもウンウンと頷いた。

『酔うとあの人変な色気が出てるだけにタチが悪い。』

そんな話しを聞いてキュヒョンが平静で居られる筈など無かった。



「………ま、さか……殴った…とか?」

その話しに身震いしながらリョウクは身を乗り出してくる。それにまさか……力無くそう呟いて、だから酔い潰れたとだけキュヒョンは言った。

「…確かに昔はそういう癖があったけど……」

近頃はその癖は成りを潜めている。というか、かなり酔った時にしかしない行動だ。それをメンバー以外にもやっていたとは初耳だとリョウクは驚いている。それにキュヒョンは呻くように言った。

「俺はさっき初めて知ったけどな……」

確かにキュヒョンの前で酒に呑まれること等殆どない。
寧ろ近頃のイェソンは酒すらあまり呑んでいないのだから、キュヒョンが知らなくても仕方の無い事なのかもしれない。だけどとリョウクは言う。

「…一度、かなり酔ったヒョンを連れて帰った時…無かった?」

そんなリョウクの言葉に、少し考えた後キュヒョンの呼吸が一瞬止まった。何かを思い出したらしいが呼吸が止まる程の出来事があったのだろうか?
リョウクの心配を他所に、キュヒョンはムクリと体を起こしたまま何かブツブツと言い始めた。


「………そういえば…いや、でも………やっぱりアレが…?」

「………心当り、あるんだ?」


ある。まだ二人が付き合ってもいない頃。キュヒョンが片思いに苦しんでいた時の出来事。酔ったイェソンが呑んでいた店のトイレで寝てしまっていたのをキュヒョンが発見した、あの日の出来事……
確かにあの時、イェソンはキュヒョンへとキスを求めてきた。それも何度も…その妖艶な表情にイェソンの唇を何度も貪った記憶がある。それをまさか、他の人間にもしていたというのか。

「お前も…されたの?」

ふと顔を上げたキュヒョンの目が怖い。酒に酔ったものとは違う据わり具合が半端なく怖い。

「なっ無いよ!いや、されかけた事はあるけどヒチョリヒョン呼んだしっ」

それに「ヒチョリヒョン?」と反応したキュヒョンにコクコクと頷いて。
リョウクはソッとヒチョルに心の中で謝った。
実はイェソンにキスをされた事は、ある。しかもかなりの濃厚なモノを。
それはリョウクだけでは無く、メンバーのほぼ全員が犠牲になっているだろう行為。イェソンの甘える仕草と妖艶な空気に、1番安全だと思われたリョウクでさえ危うく手を出しかけたのだ。
マズイと思ったリョウクはヒチョルへと助けを求めて難を逃れたのだが。

暫くはイェソンの顔を見る事すら出来なかった。だからリョウクは良くイェソンが今まで無事だったなぁと思うのだけれど。恐らくメンバー全員がヒチョルへと助けを求めたに違いないと確信している。だって彼はイェソンを息子のように愛しているから。絶対に手を出す事は無い自分よりも安全地帯だ。

だから飲み会の席ではヒチョルとイトゥクがイェソンの隣を必ず陣取っている。

「……ヒチョリヒョンなら安全か…」

キュヒョンも少し納得したように頷いていたので、リョウクはホッと胸を撫で下ろした。しかし、と思う。


「でもチャンミナも人が悪いねぇ?」


話しを逸らそうと敢えてリョウクは明るく話す。

「恋人の前でそんな事言うなんてさ?」

それにキュヒョンは当たり前のように言った。

「人が悪いも何も、俺達の関係知らないし。」

…………え?

固まったリョウクに罪は無いだろう。だってあの独占欲の強いキュヒョンが言わない筈がない。牽制の意味も込めて、例えどんなに仲の良い仲間だろうとイェソンは自分のだと主張しそうなのに。
そんな失礼な事を思っているリョウクを尻目に、言おうとしてチャンミンの話しに激情したのだとキュヒョンは頭を振った。

「話せば良かったのに…」

その話が出た後だろうと話せた筈だ。


「…だってヒョンはチャンミナを好きだから…」


リョウクはハッとキュヒョンを見た。キュヒョンは判っている。イェソンのの性格を。関係をバラしてしまえば、チャンミンが自分に遠慮をしてイェソンに合わなくなるかもしれない。突然誘いを断わられたイェソンはきっと悲しむ。それを判っているから、敢えて酔い潰れて話す事をしなかったのだ。


「………ヒョン、きっと誤解してるよ?」

キュヒョンの本当の気持ちに気付かないまま、ただ酔いに任せて暴言を吐いたのだと。きっとそう誤解している。それは解くべき誤解だとリョウクは言うけれど。


「………俺の子供地味たヤキモチなのは確かだから…」

そう言ってキュヒョンは瞳を閉じた。





※激怒兄さん。普段ギュにヤラレっぱな兄さんも怒らせたら恐いんだって事ですね。



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