続きです。今回は1話目で登場した二人を結ぶキッカケとなったカーディガンネタを書こうと思いまして。いつでも手が半分しか出ない兄さんに悶えるんですけど1度手を合わせてみたいなぁ。
そんなこんなで甘くてOK!って方はどぞっ!
【Time to fall in love13】
ガサゴソとクローゼットを探る姿に、リョウクは首を傾げながら不思議そうにそれを見つめた。
「……ソコで何してるの?」
突然掛けられた声に驚いたのか、振り返ったキュヒョンは何だか下着泥棒のようで。尚々リョウクは不思議がる。
まぁ自分のクローゼットを漁っている分には何も口を出すつもりは無い。が、漁っている場所が場所なだけに口を出してしまったのだ。答えないままの相手にもう一度今度は強めに声をかけた。
「イェソンヒョンのクローゼットで、何してるの?」
そう。キュヒョンはイェソンのクローゼットを漁っていた。随分漁っていたのだろう、キュヒョンの足元にはイェソンの服が大量に落ちている。
この光景を目にしたら、綺麗好きなイェソンは烈火の如く怒るに違いない。と、そこでイェソンの姿がない事に気付いてまた首を傾げた。
「あれ?ヒョンは?」
実は今帰宅したばかりのリョウクは真っ先に自室へと来ていた。だから自分達の部屋にイェソンでなくキュヒョンが居た事に余計に驚いた訳だ。
「リビングにいるの?」
キョロキョロと辺りを見回しながら部屋を出て行こうとしたリョウクを、キュヒョンは慌てて止めに入る。
「っ今はダメだっ!!」
何時もとは違う明らかに焦った表情のキュヒョン。こんな彼は余り見ない。その新鮮さに一層疑惑の目を向ける。
「何がダメなのさっ、まさかまたヒョンを泣かせたの?」
頬を膨らませながら少し大きな声を出したリョウクに、やっぱり慌てながら口元へと人差し指を当ててシーっ!!というポーズをとって。
「あー…今、リビングで寝てる、から…」
そのままモゴモゴと煮え切らないキュヒョンに、まさかとリョウクは目を見開いた。その反応にバレたかとバツの悪そうな顔で明後日の方向を見るキュヒョン。
今日は珍しくイェソンとキュヒョンの休みが重なり、後の二人は仕事に出ていた。思ったよりも順調に進んだ収録。ソンミンよりも早く終わったので一足先に宿舎に帰宅したという訳だが。
「………さいてー。」
自分達が居ないのをいい事に、リビングでイチャイチャしていたのだろう。そのままの流れで最後までいって、そのままイェソンを気絶させた。といった所か。リョウクの推測は正しかったようで、反論をしてこない相手に大きく溜息を吐いた。
「で、それは判ったけど…何でヒョンのクローゼット漁ってたのさ?」
腕組をしたままいきり立つ姿は何だか姑っぽい。その事に触れればまた怒らせるだけなので黙っておくとして。
「……着せる洋服を探そうかと…」
何だか畏まってしまうのは後ろめたさがあるからだろう。シドロモドロの相手にリョウクは首を傾げた。
「だって、その……前の段階では着てた訳でしょ?服…」
明確な言葉を避けつつ言えば空笑いが返ってくる。
「あー…汚して、今洗濯中……」
「は!?」
思わずデカイ声を出してしまって、慌てて口を押さえる。
汚したというのは情事の際での事だろう。まぁそれは仕方ないとして、ここで未だに服を探しているキュヒョンがいて。服は洗濯中となれば…
「………まさか今ヒョン何も着てないとか!?」
今度は小声でキュヒョンへと詰め寄る。それに軽く頭を横に振りつつ、やっぱり言いにくそうな表情のまま一言。
「カーディガン、一枚……」
「…………ほんと、さいてー…」
ウンザリした目を向けられるのは仕方が無い。だが急遽だったのだから仕方ないじゃないか。幸いカーディガンだけは脱がせていたので難は逃れたが、後の服は上下共に自分達の吐き出したモノでドロドロだった。それで着替えをと思って探していたのだが。
「何か外出用ばっかでさ…」
そりゃそうだろうと呆れ果てる。今キュヒョンが探しているのはイェソンの外出用のクローゼット。部屋着などは隣にある小さなタンスに仕舞ってあるのだから。それを言ってやれば何だと脱力の余りその場にしゃがみこんでしまった。
「ほら、コレでイイと思うよ?」
引き出しを開けて出してやった普段着に未だ脱力から脱せていないキュヒョンは怠そうにそれを受け取って。ふと開いていたタンスの引き出しの奥の方に入っていたモノへと目を止めた。
「アレ…それ?」
指を差されてソコに目をやる。奥の方に隠すように入っていたソレを引っ張り出したリョウクは驚きに目を見開いた。
「……コレ…」
リョウクの手にしていたのは、薄い灰色のカーディガン。随分小さいソレはイェソンは疎か、女性でも着れないだろう小ささ。
「……まだ持ってたなんて…」
そう言って、キュヒョンは眉尻を下げて微笑んだ。
「ああっ!!」
小さく叫んだリョウクの声に、リビングに居た他の三人が反応する。どうしたのかと声の聞こえた方へと行けば、そこには床にペタりと座ったまま呆然としているリョウクがいた。目の前には洗濯機、そしてその手には一つの洗濯物が握られている。
「どうした?」
ピクリとも動かないリョウクにソンミンが近付いて声をかけてやる。それにやっと顔を上げたリョウクは今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「……カーディガンが…」
「カーディガン?」
言われてリョウクの持っていたカーディガンを見る。それはイェソンのお気に入りであり、前はキュヒョンの物だった灰色のカーディガン。良く着ているのを思い出して、それがどうかしたのかと首を傾げるた。
「……失敗…しちゃった……」
泣きそうな声に後から付いて来たイェソンとキュヒョンも顔を出して。
「失敗って、どーかしたのか?」
イェソンのノンビリとした声に、リョウクはオズオズと持っていたカーディガンを掲げて広げる。
「……ゴメン……ヒョン…」
広げられたカーディガンは、小学生に丁度良さそうなサイズにまで縮んでいた。
「………ヒョン…」
ソファへと座ったままボーっと空を眺めているイェソンへと申し訳なさそうに声を掛けて、それに振り返ったイェソンはフッと優しく微笑んだ。その顔が酷く悲しそうに見えて、リョウクはまた泣きそうになる。
「気にする必要はない。態とじゃないだろ?」
そうやって優しく言われるから余計に泣きそうになる。だって、そう言うイェソンが1番悲しそうだから。今にも泣き出しそうな顔をして微笑むから、それだけ大事な物だったと判るだけにリョウクは申し訳なさで胸が押しつぶされそうになった。
「ソンミナ…リョウギと買い出しに行って来て欲しいんだけど…」
それはイェソンの優しさ。ここにいたら泣き出しそうなリョウクを連れ出してくれと。気分転換をさせてやれと言うイェソンの言葉を正確に汲み取って。ソンミンはリョウクの肩へと腕を回して外へと連れ出した。
二人が出掛けた音を確認した瞬間、イェソンの背中が丸まる。そのまま膝を抱えて顔を膝に埋めてしまった。
それまで黙って隣に座っていたキュヒョンはその背中へと声をかける。
「……ヒョン?…ヒョーン?」
ポンポンと優しく背中を叩いてやれば、途端に揺れ出す肩。二人が居なくなって、我慢していた涙が溢れ出したのだ。それに苦笑して頭を優しく撫でてやる。その温かさに弾かれたように顔を上げたイェソンは、向けていた背中を回してキュヒョンの胸へと抱きついた。
その体を抱き止めて、優しく優しく背中を叩く。
「よく頑張りましたね…」
リョウクの前で泣いてしまえば傷つけるだけだ。だからと言って怒るなんて事も出来ない。だから耐えていたのだ。
「……ぅ…カーディ、ガン……ゴメっ」
「何で貴方が謝るんですか…」
顎に手をやって、ソッと顔を上げさせる。目元を赤くしながらしゃくり上げている様は、其処らの女性よりもよっぽど可愛いと思う。
たかがカーディガン一つで泣いてしまうアラサーが居てイイのだろうか?
「あれ、おま…に…貰った、のに……っ」
ポロポロと溢れる涙を掬いあげるように頬にキスを落とす。
そこまで自分のカーディガンを大事にしてくれていただなんて。自惚れてしまうじゃないか。
「僕の事はイイんです。だって、ショックだったのは……」
貴方でしょう?
そうやって優しく微笑んでやると、余計に涙を流して抱きついてくるから。その体を泣き止むまで抱きしめてやった。
「……落ち着きましたか?」
髪を撫でる感触が気持ち良くて、イェソンはキュヒョンの胸へともたれ掛かりながら静かに頷く。それにホッとしたキュヒョンはちょっと待ってて下さいね?そう言って首を傾げるイェソンを置いてリビングを後にした。
直ぐに戻って来たキュヒョンは何か手に持っていて。
ニコニコしながらイェソンの横へと座ると、その手に持っていたものをハイ。と手渡す。
「……なに?」
首を傾げたままのイェソンに、キュヒョン笑っているだけで。
仕方なくそれをシゲシゲと眺めて。その生地にまさかとイェソンはキュヒョンの顔を見たけれど、それにも笑っているだけで。
恐る恐る畳まれたソレを広げて、今度こそイェソンは目を見開く。
「………コレ…」
それはイェソンが貰った物と同じ形のカーディガン。生地も全て同じ。
違うのは色だけで。薄いピンク色をしている。
「同じ日に色違いを買ってたんです。」
昨日もコレ着てたんですけど、気付きませんでした?
そう言って優しく微笑まれる。全く気付かなかった。色が違うだけだというのに、見ているつもりでも見てないモノなんだと改めて気付かされる。
「それ、あげます。」
サラリと言ったから、何を言われたのか認識するのに少しの時間を要した
「……あげるって…でも、コレお前の…」
少し焦ったように言われて苦笑する。前にあげると言った時には素直に受け取った癖に。何だって今遠慮などするのだろう?
「だって、欲しいでしょう?だから、あげます。」
ほら。イェソンからソレを奪って半ば強引に肩にかけてやって。それを最初は拒否していたが、腕を通させてしまえば途端に静かになった。
「………キュヒョナの匂いがする…」
ヒョコリと指だけが半分出ている長めの袖を顔へと近付けて。
そう言って嬉しそうに微笑まれてキュヒョンの心臓は跳ね上がった。
そんな事を本人の前で言うなんて、卑怯ではないか。
「ありがと…キュヒョナ」
デカめのカーディガン、それをイェソンが好きな理由。
それは、つつみ包まれているみたいだから。そしてキュヒョンの匂いがするから…
それを本人には言ってやらないけれど、その匂いが酷く安心するのだから仕方ないじゃないか。そう思いながらイェソンはお礼とばかりにキュヒョンへと唇を寄せて、それをやっぱり優しい笑顔で受け入れてくれるキュヒョンの首へと腕を回した。
「コレ…大切なモノなんだね……」
リョウクの声で現実へと戻される。半年前の出来事を思い出していた自分に苦笑しながら、小さくなってしまったカーディガンへと目線を戻した。
「それ、バレないように戻しといてくれ」
言って立ち上がったキュヒョンをリョウクの目が追う。あの時イェソンは自分が捨てるからとカーディガンを受け取った。
それを大切に保管していたなんて、きっと誰にも。キュヒョンにさえ知られたくはないだろう。
それを汲み取ったリョウクはニッコリと微笑んでソレを元あった場所へと戻した。
あれから半年。夏が過ぎて肌寒くなった季節。今眠っているイェソンへと着せていたのは二つ目のプレゼントとなったピンク色のカーディガン。
それを着て、幸せそうに眠っているだろう想いビトを思う。
半年経っても未だ恋人同士ではないけれど。確実に自分へと想いを寄せてきているイェソン。
気長に待つとは言ったけれど。こんな風に小さな秘密を知ってしまったらまた離せなくなってしまうだろう。そんな風に思っていたキュヒョンを見越したように、散らかっていた衣服を畳んでいたリョウクが顔を上げた。
「…明日仕事なんだから、あんまり無理させちゃ…ダメだからね?」
少し睨んできた相手に僅かに驚きながら。
「……考慮はしとく。」
そう言ってリビングで眠る想いビトの元へ目覚めのキスを贈ろうと、キュヒョンはリョウクに背を向けた。
※回想でしか登場しない兄さんとかねっ!って半年経ってもまだ付き合ってない二人って…
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