ポニョを観た。


一言で感想を言えば、「宮崎駿流破壊的純愛童話」


観る側の常識や固定観念をぶっ壊すのが宮崎監督の目的だったことが分かった。同様のことを監督自身がインタビューで語っていたので、その意味がハッキリした。


映画レビューを見ると「つじつまがあわない」「整合性がない」「ストーリーが分からん」「メッセージが不明」など酷評されていたので、どれだけの駄作かと思ったら、全然。


徹底的に手描きにこだわった理由が納得できる圧倒的な筆力を画面から感じた。

特にオープニングの海中の模様はすごい。


あのお方は本当にアニメの天才だ。


しかも、宮崎監督らしい細部に渡るきめ細かいアニメ的演技がすばらしい。

この映画で宮崎監督が最も大事にしたシーンというのがポニョと赤ん坊の絡みのシーンだという。


赤ん坊の父親の声優にジブリ所属の男性社員を選んだのもこだわりがあるという。この声優選びが、この映画の最も困難な仕事だったというから、どれだけこのシーンが大事だったかが分かる。


声を担当したジブリ男性社員は、そもそもポニョの着想を得ることになる「ある事件」をジブリ社内で起こしたそうだ。


宮崎監督がお気に入りだった女性社員がいたそうだが、その女性社員を入社3ヶ月の男性社員が「ゲット」してしまう。
そしてすぐに妊娠。


その直後から宮崎監督はこの男性社員の側にしょっちゅう来るようになる。決して男の焼き餅からではない。


「ハウル」の失敗から立ち直れなかった宮崎監督の心を癒し、あらたな創作活動の力を与えたのが、ジブリ内の「赤ん坊の誕生」という生命のイベントだったのだ。


ポニョには生命と愛という宮崎監督の純粋な思いを反映させ、その気持ちを未来の子供に託す意味で、あのシーンが生まれ、それを宮崎監督は大事にしていた。


だから、ポニョ誕生の発端を作ったジブリ男性社員を、大事なシーンの声優に抜擢したのだ。


それを事前に知っていただけに、この物語の真のメッセージを映画を観ながら体感できたように思う。


この物語は、宗介という5歳の男の子の目でとらえた「夢のような夢物語」の思い出であり、初恋の思いをポニョの姿で記憶している童話なのである。


大人の固定観念でギュウギュウになった世界をポニョは津波で洗い流し、人々に純粋な気持ちを芽生えさせた。

ポニョは大人の世界を壊し、あたらしい愛と命を未来の大人宗介と一緒に育もうとしている。


それが「崖の上のポニョ」のすべてだ。


とても気持ちよく、完全に忘れかけていた純粋な思いを引き出してくれる素晴らしい映画だ。


僕は宮崎監督の心の中を触った気がした。


僕的な評価星5つ。