METライブビューイング2023-24 第6作「運命の力」を観てきました音譜

 

この作品は、ジョゼッペ・ヴェルディ中期の大作で、原作を元に作曲された初演版に改定を加えた「ミラノ版」が本作の元になっています。

 

一言でいえば、愛と復讐をテーマとした壮大でドラマティックな悲劇ですが、印象的で耳に残る有名な序曲から始まり、数々の美しいアリア、重唱、合唱で彩られた美しい音楽と、主人公たちの愛と苦しみが強く心に迫ってくるような魅力的なストーリーのオペラで、私も大好きな作品の一つです。

 

 

主人公レオノーラは将軍カラトラーヴァ侯爵の娘で、インカ王族の末裔ドン・アルヴァーロと恋に落ち駆け落ちしようとしますが、父に強く反対され、もみ合ううちにアルヴァーロの鉄砲が暴発し、不幸にも父が絶命してしまいます。これが悲劇的な運命の引き金となり、物語が進行していきます。

 

やがて、恋人たちは逃避行中に離れ離れとなり、レオノーラは修道院の奥の洞窟に身を隠し、アルヴァーロは軍隊に入ります。

しかし、仇として後を追うレオノーラの兄ドン・カルロの執拗な追跡は徐々に二人を追い詰め、その結果、悲劇的な結末に至るというのが大まかなストーリーです。

 

 

このオペラがMETで上演されるのは実に30年ぶりとのことで、長い間この魅力的な作品を上演しなかった理由の一つとしてMET総裁のゲルブは、難しい役をこなすパワフルな歌手を揃えることが困難だったことを挙げていました。

 

今回の作品では様々な課題を乗り越え、最高の舞台を作り上げることができたとのことで、卓越した歌手たち、最高のオーケストラ、素晴らしい合唱すべてが揃っていて、まさに理想的な舞台が観客に届けられているのだと感じることができました。

 

レオノーラを演じたリーゼ・ダーヴィドセンは、長身で舞台映えのする容姿、力強く繊細な響きを持つ美しい声、低音から細く伸びる高音まで巧みに操るテクニック、そして観客を惹きつけるきめ細やかな演技が本当に素晴らしく、4幕の有名なアリア「神よ平和を与えたまえ」では感動して涙が流れました泣くうさぎ

 

今後のMETを支えるドラマティック・ソプラノの一人となるのは、きっと間違いないことでしょう。

 

 

ドン・アルヴァーロ役のブライアン・ジェイドは、明るく輝かしい響きの声と、深みのある演技でアルヴァーロの心の苦しみを表現していて素晴らしかったです。

 

ドン・カルロ役のイーゴル・ゴルヴァテンコは、深く美しい響きの声と、感情表現豊かな演技でカルロの執念深さを巧みに表現していました。

 

二人が親友同士から敵同士へと変わっていく過程で歌われるテノールとバリトンの二重唱は、聴きごたえがあり素晴らしかったです。

 

 

 

原作では18世紀半ばのスペインが舞台となっていますが、それを本作では戦時下の現代に移して物語を展開しています。

 

演出を手がけたポーランドの演出家トレリンスキは、現在もなお戦争が続いているウクライナなどの惨状を想い、原作には忠実に従いながらも、現代の人々に戦争の悲惨さや虚しさなどを訴えかける作品にすることを心がけたと語っていました。

 

このオペラは、時折ストーリーが複雑で分かりにくいといわれることもありますが、本作は現代風な演出でありながらもとても観やすく分かりやすいと感じました。

 

その理由は、舞台転換の間に効果的に映像や字幕を入れて、時間の経過や物語の展開を観客がスムーズに受け入れられるようにしている点にあると感じました。

 

暗い展開が続く物語の中で、華やかで奇抜な衣装のジプシー女性プレツィオジッラが登場する場面は、バニーガールのダンサーや怪しげな物売りなども登場する明るくユーモラスな場面で、目を楽しませてくれました。

 

 

解説やインタビュー、休憩を含めて4時間15分の長丁場でしたが、全く長く感じず最後まで楽しむことができたのは、この作品の観客を引き込んでいく力だと感じました。

 

素晴らしい音楽と迫力ある展開のこのヴェルディ・オペラの名作を、ぜひ映画館の大画面で味わってみてはいかがでしょうか。きっと観て良かったと感動していただけると思いますウインク

 

 

(写真は全てMETライブビューイングのHPより拝借いたしました)