METライブビューイング2023-24 第3作「アマゾンのフロレンシア」を観てきました音譜

 

今シーズンのMET初演作の最後は、とても珍しいスペイン語によるオペラで、メキシコの現代作曲家ダニエル・カターンの代表作とのことです。

 

全く未知の作品で、音楽も全て初めて聴くものでしたが、ストーリーも曲も決して難解なものではなく、多くの人が共感できるような普遍的な愛をテーマとした美しい作品でした。

 

 

舞台はアマゾンの熱帯雨林を航海する船エルドラド号で、身分を隠して乗船している歌姫フロレンシアと、船の終着地で開催されるコンサートで彼女の歌を聴くことを楽しみにしている乗客たち、船長、河の精霊リオロボが主な登場人物です。

 

フロレンシアには、蝶狩りに出たまま行方不明の恋人を探すという別の目的があり、ストーリーが進むにつれて、他の乗客たちも、それぞれに愛する人との関係で悩みを抱えていることが分かります。

 

そんな中で船が嵐に遭遇し乗客の一人が河に投げ出されたり、やっと到着した先ではコレラが大流行中で下船できない事態に陥ってしまう・・・というドラマチックな展開が用意されています。

 

結末の美しい描写については、観てのお楽しみということで、ここでは触れないでおきますがにやり

 

 

主役のフロレンシアを演じたのは、昨シーズンの「ファルスタッフ」でヒロイン・アリーチェを魅力的に演じたアイリーン・ペレスです。美しく艶やかな歌声と表情豊かな演技が本当に素晴らしく、細く響かせるピアニッシモの声がうっとりするほど美しかったです。

 

 

他のキャストにもそれぞれに聴きごたえのあるアリアが用意されていて、美しい音楽と共に一人一人の熱唱をじっくりと聴くことができるのもこのオペラの魅力だと感じました。

 

音楽は冒頭からマリンバやスティールパンが印象的に響き、オーケストラによって情景描写がカラフルに奏でられていきます。

 

本作の演出を手がけたメアリー・ジマーマンは、一昨年の「エウリディーチェ」でも斬新な演出が話題になっていましたが、両作の衣装デザインを担当したアナ・クーズマニッチと共に色彩豊かで美しい舞台をつくりあげていました。

 

アマゾンの熱帯雨林と表情を変えていく河の様子や、そこに生息するサギ、ハチドリ、サルなどの美しい生き物たち、航海中の悪天候に翻弄される船の描写など、様々な工夫を凝らした演出によって観客は物語の世界に引きずり込まれていきます。

 

 

このオペラのテーマは普遍的な愛ということですが、観ている観客にとっても決して他人ごとではない身近なこととして受け入れられるように感じるのは、登場人物が様々な年代や関係性を持った人物として描かれていること、とても優しい視点で描かれていること、コレラの大流行という状況がコロナ禍を乗り越えた現代の私たちに通じる点などが挙げられます。

 

オペラとしては個性的で新しい作品ですが、現代の私たちの心に大きく響く作品だと感じました。もしお時間がありましたら、ぜひ映画館に足を運んでみてはいかがでしょうかニコ

 

 

(写真は全てMETライブビューイングのHPより拝借いたしました)