METライブビューイング2023-24 第2作「マルコムX」を観てきました音譜

 

今シーズンは、最初の3作品をMET初演作で飾るという挑戦的なラインナップですが、その中でも本作は特に手強いのでは…と、ちょっと構えて映画館に足を運びました。

 

前作同様、この作品も実在した人物をモデルとし映画化もされているので、知っている人も多いかと思いますが、私はこの作品で初めてマルコムXという人物について知りました。

 

20世紀中ごろのアメリカで黒人解放運動の中心的人物として尽力し、39歳の若さで暗殺されたというマルコムX。その短いながらも波乱に富んだ生涯が、ジャズ・ピアニスト、アンソニー・デイヴィス作曲の音楽に載せて描かれています。

 

 

人種差別や宗教上の対立など、重く難しいテーマを扱っていながら、この舞台から現代的でスタイリッシュな印象を受けるのは、フリージャズの即興演奏も取り入れた音楽と、SF映画のような宇宙的モチーフを多用した演出による効果だと感じました。

 

宇宙船をモチーフにした舞台セットや、カラフルで奇抜な衣装を見ているだけでも楽しかったです💕

 

 

第1幕では、幼いころに牧師だった父を白人至上主義者によって殺され、異母姉に引き取られた先で悪い友人たちと関わったことで悪事を覚え、刑務所に送られるという貧困と差別に苦しんだ主人公の少年時代が描かれます。

 

そして、獄中で知ったイスラム教の教団「ネーション・オブ・イスラム」の思想に傾倒し、出所後に教団の伝道師として演説をして回るようになりますが、やがて指導者エライジャの真の姿に失望して教団を去ります。

 

 

その後、イスラムの聖地メッカへの巡礼の旅で、平和の大切さに目覚めたマルコムXは、帰国後に自ら教団を設立しますが、ニューヨークのハーレムで演説中に、対立する宗教団体の信者に暗殺されるというのが大まかなストーリーです。

 

 

主役のマルコムXを演じたのは、2年前の "Fire Shut Up In My Bones" で主役の好演が大変話題となったウィル・リバーマンですが、低音の輝かしい声を響かせての歌唱と、主人公の様々な葛藤を表現した深い演技は本当に素晴らしかったです。

 

このオペラで主要なキャストを演じるのは、ほとんどがアフリカ系アメリカ人の歌手たちですが、コーラスやダンサーも含めてこれだけたくさんのアフリカ系アメリカ人の優秀な人材を集められるのは、やはりMETの強みであって、今のMETだからこの様な作品を堂々と世界に向けて披露できるのだと思いました。

 

 

この舞台に散りばめられたフリージャズのリズムは、時に力強く、また時にゆらゆらと揺れるような心地良さを感じて、それに合わせて披露されるダンスが最高にカッコ良かったです。

 

オペラというイメージからは、かなりかけ離れた作品のように思われますが、なおさらオペラに馴染みのない人やジャズ好きな人にもお勧めできる作品ではないかと思います。

 

もしお時間がありましたら、映画館に足を運んでみてはいかがでしょうかウインク

 

 

 

(写真は全てMETライブビューイングのHPより拝借いたしました)