METライブビューイング2023-24 第1作「デッドマン・ウォーキング」を観てきました音譜

 

今シーズンの最初を飾るのは、死刑制度の是非、贖罪、愛による魂の救済という、とても重く深いテーマを掲げたノンフィクション作品です。

 

原作は、実際に死刑囚と交流し最後まで寄り添ったシスター・ヘレン・プレジャンによる回顧録で、これを元に作られた映画はアカデミー賞(主演女優賞)を受賞しているそうです。

 

 

映画化された作品のことも全く知らなかったので、最初にタイトルを聞いた時には、ゾンビが登場する物語かと思ってしまいました(あっちはウォーキング・デッドでしたね💦全く関係ないですにやり)。

 

作品の印象から、重くて辛い作品じゃないか…と構えて映画館に足を運びましたが、実際には、すぐにこの作品の世界に引き込まれて、自分とは全く無縁だと思っていた事柄の一つ一つが心に突き刺さってくる気がしました。

 

ちなみに、このタイトル「Deadman Walking」とは、独房から死刑執行室へと向かう囚人を指す俗語だそうで、本作の中では看守の言葉として発せられます。

 

 

死刑囚ジョセフは、少し弱いところのある普通の若者でしたが、友人たちにつられて使用したドラッグの勢いで暴走し、湖のほとりで戯れ合う高校生カップルを襲い、仲間(ジョセフは兄と言っていました)と共謀で男性を銃殺し、女性をレイプしたあげくに刃物で斬殺したのです。

 

彼が犯した罪は決して許されるものではなく、若いカップルの両親が一堂に会して、愛するわが子を殺された悲しみと無念さ、犯人への憎しみをあらわにする場面では、涙が止まらなくなりました。特に娘を失った父を演じたロッド・ギルフリーの名演は強く印象に残りました。

 

 

その一方で、ジョセフの母親が息子への強い愛情から死刑の中止を訴える場面でも、身につまされる気持ちになりました。ジョセフの母を演じたスーザン・グラハムは、2000年の世界初演ではシスター・ヘレンを演じて大好評を博したそうです。

 

 

そして何といっても、このオペラをリアリティあふれる素晴らしい作品としているのは、主役シスター・ヘレンを演じたディドナートの演技と歌唱の素晴らしさです。今までも様々な作品でこの人の名演を観てきましたが、この役が当たり役と称されるのが十分に納得できるほどの素晴らしい演技と歌唱でした。

 

死刑囚ジョセフを演じたライアン・マキニーは、ライブビューイング初登場で今回の作品で初めて知りましたが、バスバリトンの輝かしい声を響かせての歌唱も、真に迫る演技も素晴らしかったのですが、独房で腕立て伏せを何十回も行いながらも息も上がらずに演技を続ける姿には本当に驚きました。

 

 

重いテーマを扱った作品ですが、音楽は美しくとても親しみやすく感じました。冒頭に披露される讃美歌のメロディーが形を変えながら繰り返し演奏されますが、とても温かさを感じる親しみやすい曲で心に残りました。

 

今回この作品を観ることで、死刑の是非の問題をはじめとして、家族、親子のこと、ドラッグの恐ろしさなど、様々な問題を身近なこととして考えさせられました。

 

シーズン幕開けにふさわしい素晴らしい作品でした。

ぜひ機会がありましたら、映画館に足を運んでみてはいかがでしょうかニコ

 

 

(写真は全てMETライブビューイングのHPより拝借いたしました)