METライブビューイング2022-23 第10作「魔笛」を観てきました音譜

 

今シーズン最後を飾るのは、前作に続きモーツァルトの人気作で、この偉大な作曲家が作曲した生涯最後のオペラです。

イタリア語による歌劇に対して、これはドイツ語による歌芝居「ジングシュピール」と呼ばれるスタイルを取り入れて書かれたものだそうで、メルヘン色の濃い作品となっています。

 

今まで、様々な演出による「魔笛」を観てきましたが、今作はその中で最も斬新で、美しいメルヘンの世界を期待していると唖然としてしまうような、驚きの詰まった作品でした。

 

まず最初に驚いたのは、オケと指揮者が通常のピットではなく観客から見える位置にいて、効果音の奏者や、鍵盤奏者などもステージ上で演者として参加していることでした。

一つ一つの音をどのように出しているのかが、よく分かって楽しかったですし、このオペラでは笛の音が重要な役割を果たしていますが、フルート奏者の素晴らしい演奏をステージ上でも見ることができて嬉しかったです。

 

 

また舞台背景は、ヴィジュアルアーティストによって描かれる文字や絵がその場で映し出されるようになっており、観客はライブ感を味わうことができ、これも面白い演出だと思いました。

 

特に後半のタミーノとパミーナが水の試練に立ち向かう場面では、2人が宙吊りになって、そこにライブで書き込まれる渦巻によって泳ぐ様を表現していたのは画期的だと思いました。

 

 

舞台セットはあくまでも簡素で、工事現場の資材置き場のように見える場面もありましたし、歌手たちの衣装も現代人の普段着のようで華やかさはありませんが、それが登場人物のリアルな姿を映し出しているようにも感じました。

 

夜の女王が車椅子に乗った老婆として描かれ、3人の童子が不気味な妖怪のような姿で登場した時にも驚きましたし、女王の3人の侍女たちが携帯で写真を撮ったり、モナスタトスが突然現代風の振り付けでダンスを踊り出したり、パパゲーノが鍵盤奏者にちょっかいを出したりと、随所で驚かされたり笑わされたりと、遊び心たっぷりの演出で楽しませてもらいました。

 

 

個性的な演出のことばかりに触れてしまいましたが、この作品の素晴らしさは何といっても、主要キャストを演じる歌手たちの豪華さです。

 

タミーノ役のブラウンリーの輝かしく美しく響く声、パミーナ役のモーリーの繊細で表現力豊かな歌唱と演技の素晴らしさをはじめ、超絶技巧のアリアを力強く歌い上げた夜の女王役のルイック、コミカルな演技を交えながらパパゲーノのアリアを魅力的に歌ったオーリマンス、重厚で深みのある声と威厳のある演技でザラストロを演じ切ったミリングというように、どのキャストも役にピタリとはまっていて本当に素晴らしかったです。

 

いつものことながら、幕間のインタビューでは、そんな歌手たちの本音や素顔も垣間見れて楽しかったです。

 

指揮者は前作ドン・ジョバンニに引き続き、コントラルト歌手としても有名なナタリー・シュトゥッツマンが務め、オペラ歌手として演じる側の大変さも知り尽くしたこの人なりの解釈で、オーケストラと歌手たちを巧みに操りながら、新しいモーツァルトの世界を作り上げていました。

 

ストーリーは分かりやすくオペラ初心者にも楽しめる作品ですし、何度も「魔笛」の舞台を観ているオペラファンにとっては、斬新な演出によって新たな発見を得る機会にもなると思います。

もしお時間がありましたら、映画館に足を運んでみてはいかがでしょうか?ニコ

 

 

 

(写真は全てMETライブビューイングのHPより拝借いたしました)