METライブビューイング2022-23 第8作「チャンピオン」を観てきました音譜

 

この作品は、昨シーズン公開後に大きな話題になった、「ファイアー・シャット・アップ・イン・マイ・ボーンズ」の作曲家テレンス・ブランチャードが一作目に手がけたオペラ作品です。

 

ブランチャードは映画音楽の作曲家として世界中で名声を得ている人ですが、アフリカ系アメリカ人としてジャズの要素を大きく取り入れながら、自身も長年ファンだったボクシングの世界を題材に、実在したスターボクサー、エミール・グリフィスの苦悩の半生を生き生きと描き出しています。

 

 

今シーズン公開された8作品の中で、今作は最も異色で、いろいろな面で驚かされました!

 

まず、ボクサーが主人公ということで、リハーサル映像を見た時から凄いと思いましたが、主役を演じたライアン・スピード・グリーンの作り上げられた肉体美に驚愕し、そこから発せられるバス・バリトンの力強く美しい声と、感情のこもった演技に、本当に凄い人が出てきたと思いました。

 

幕間のインタビューで語っていましたが、役作りのために30kgの減量をしたとかで、歌と演技の練習だけでも大変なのに、そこまでやるんだとビックリ!

 

対戦相手のボクサー役の歌手も、同じように肉体を作り上げていましたし、リアリティの追及と完璧な作品作りのために、プロとして求められるものの大きさに驚かされました。

 

 

今作で初めて主役に抜擢されたグリーンは、貧しい家庭で育ち、少年院に送られた経歴もあるとか。そこから大劇場で主役を演じるまで上り詰めるのには、計り知れない苦労があったと思いますが、もしこの人がいなかったら、この作品の舞台化は実現しなかったのでは?と思うくらい役にはまっていました。

 

このオペラのテーマは、主人公が隠し通していた自身のセクシャリティ「同性愛者であること」をからかわれて、対戦相手のボクサーを試合中の殴打で死なせてしまい、その罪の意識から心を病んでしまい、認知症に苦しむ老齢期に至るまで、心の救済を求めて葛藤していくというものです。

 

老齢期のエミールを演じたのは、大ベテランのエリック・オーウェンズですが、温かみのある力強い低音ヴォイスを響かせながら、感情のこもった演技で悲しみや苦悩を表現していて、本当に素晴らしかったです。

 

 

重いテーマを扱ってはいますが、多くのダンサーが登場する華やかなダンスシーンや、本物の試合さながらの白熱したボクシングシーンなど、多くの作品で活躍している人気振付師が手がけたきめ細やかなステージングで、目を楽しませてくれました。

 

また、名脇役として強烈な印象を残す二人の女性、エミールの母親役ラトニア・ムーアとゲイバーの主人役ステファニー・ブライズの演技も光っていて、物語をしっかりと形づくる役割を果たしていると感じました。

 

 

この作品は、オペラに馴染みのないミュージカル好き、映画好きな人など、様々な人に観て感動してほしい魅力の詰まった作品だと思います。ぜひ映画館の大画面で鑑賞なさってみてはいかがでしょうかラブラブ

 

 

 

(写真は全てMETライブビューイングのHPより拝借いたしました)