METライブビューイング2022-23 第7作「ばらの騎士」を観てきました音譜

 

この作品は、近代ドイツ・オペラの大家リヒャルト・シュトラウスが作曲したオペラで、詩人フーゴ・フォン・ホーフマンスタールの台本に基づいて20世紀初頭に作られたものです。このコンビによって作られた壮絶な大作「エレクトラ」から一転して、優雅で美しいモーツァルト風の作品をめざして作曲されたといわれています。

 

もともとは18世紀ウイーンの貴族社会を舞台に繰り広げられる恋愛模様が中心となっていますが、今回の演出では時代をハプスブルク帝国末期の20世紀初頭に移し、第一次世界大戦が迫る不穏な時代の雰囲気も漂う中で物語が進行していきます。

 

タイトルになっている「ばらの騎士」とは、貴族の男性が婚約者に贈る銀色のバラを届ける使者のことで、これはホーフマンスタールの創作だそうですが、青年貴族オクタヴィアンがオックス男爵の使者として婚約者ゾフィーに銀のバラを届ける場面は、とてもロマンティックでこのオペラの中でも印象的な場面となっています赤薔薇

 

同じ演出によるこの作品を6年前に観た際は、ルネ・フレミングとエリーナ・ガランチャという2大スター歌手が、それぞれの当たり役だった元帥夫人とオクタヴィアンを演じ、どちらもこのシーズンで役を卒業するということで話題になっていました。

この時の舞台があまりに素晴らしかったので、あれ以上のものが今回期待できるのだろうかと疑いつつ足を運んだのですが、期待をはるかに超えた素晴らしい舞台でした!

 

 

まずは何といっても、ロールデビューとして元帥夫人を演じたリーゼ・ダーヴィドセンが素晴らしかったです。美しく豊かな声と表現力で、揺れ動くヒロインの心情をきめ細やかに歌い上げていました。長身で凛としたたたずまいと、愁いを秘めた気品のある表情が元帥夫人にぴったりで、この役はダーヴィドセンの当たり役になるのではと思いました。

 

そしてもう一人の主役、オクタヴィアンを演じたサマンサ・ハンキーですが、METにデビューしたばかりの今年30歳の期待のメゾソプラノということで、今回初めて知りました。少年のようなルックスと堂々とした立ち姿、17歳のオクタヴィアンになりきった自然な演技が本当に素晴らしかったです。

 

オペラにおいてメゾソプラノの女性が若い男性を演じるズボン役は、結構重要な役を担う場合がありますが、歌唱の素晴らしさと華やかな容姿を兼ね備えている点で、このハンキーはこれからも様々な場面での活躍が期待できる人だと感じました。

 

 

 

このオペラで最も有名な場面は、第3幕のクライマックス・シーンでの、3人の女声による情感たっぷりの三重唱です。

元帥夫人が愛人オクタヴィアンをその若い恋人ゾフィーに譲る決心をして静かに去っていく前に、それぞれの心情が交差しながらも互いに温かな気持ちを通わせる感動的な場面です。

 

 

ゾフィー役ではベテランの、エリン・モーリーの美しい高音が加わって、この三重唱は本当にうっとりするような美しさでした。

役の上では15歳のゾフィーを演じたモーリーは、この三人の中で最年長になりますが、純真で快活な少女を全身で演じていて可愛らしかったです。幕間のインタビューでは、素晴らしいピアノ演奏による弾き語りも披露し、この人の多才さに改めて驚かされました。

 

 

 

そしてもう一人、このオペラの道化役ともいうべき、オックス男爵を演じたバスのギュンター・グロイスペックですが、6年前に観た時と同様、この何とも憎めない粗野で女好きの男爵役を、重厚な声でいきいきと見事に演じきっていました。オックス男爵が登場する場面は、ドタバタ劇が中心ですが、魅力的な低音を響かせて歌う2幕のウインナワルツは、とても素敵で聞きほれてしまいました。

 
 
2回の休憩とインタビューなどをはさんで5時間弱の長丁場でしたが、美しい音楽と舞台美術、キャストの素晴らしい歌唱と演技に加えて、特に3幕のゲストハウスの場面ではビックリするような仕掛けがいくつもあり、最後まで飽きずに楽しむことができました。

 

貴族社会の華やかさ、ほろ苦く甘美なラブストーリー、厄介者がこらしめられる痛快なコメディなど、様々な魅力の詰まったこの作品をぜひ劇場で味わってみてはいかがでしょうかウインク

 

 

(写真は全てMETライブビューイングのHPより拝借いたしました)