METライブビューイング2022-23 第2作「椿姫」を観てきました音譜
 
数多くのオペラ作品を世に出した、イタリアのジョゼッペ・ヴェルディの代表作の一つであり、オペラファンでなくても知っている有名な作品ですが、時代を超えてもその人気は衰えず、世界中で今なお上演され続けています。
 
日本ではアレクサンドル・デュマ・フィスによる原作小説のタイトル通り「椿姫」で上演されていますが、オペラの原題は「道を踏み外した女」を意味する La Traviata(ラ・トラヴィアータ)で、清らかな心と知性を持ちながらも高級娼婦という日陰の世界で生きざるを得なかった女性が、ある青年との出会いをきっかけに新たな人生の一歩を踏み出そうとしますが、青年の父の反対と自らの重い病によって悲しい最期を遂げるという物語です。
 
METでも、今までに何人もの素晴らしいソプラノ歌手によって主役のヴィオレッタが演じられてきましたし、様々なキャストや演出による椿姫を観てきましたが、今作はその中でもあらゆる点で最高の作品だと思いますキラキラ
 
 
まず何といってもヴィオレッタ役のネイディーン・シエラの素晴らしい歌唱と演技に尽きると思います。昨シーズンの「ランメルモールのルチア」での熱唱・熱演に圧倒されて以来、この人の底知れぬ実力を再認識して、今最も注目される若手ソプラノ歌手の一人だと思っています。
 
美しい声とコロラトゥーラの正確なテクニック、歌での深い表現力に加えて、女優顔負けの演技力を備えており、その若々しい美貌も加わって、まさにこれほどヴィオレッタに適任の人もいないのではと思いました。
 
幕間のインタビューでも語られていましたが、この役は幕が変わるごとに、ヒロインの心や境遇、体調が変化していくので、それに合わせて、明るく軽やかな歌声から、重く陰りを帯びた歌声へと変えていくのが難しいとのことですが、その点も巧みにコントロールされていて見事でした。
 
特に素晴らしいと感じたのは、死期が迫った3幕のアリア「過ぎし日よ、さようなら」で、涙を流しながら、苦しそうに咳き込みながらも力強く歌い上げる場面で、観ているこちらも涙腺が崩壊しました泣くうさぎ
 
 
共演者のアルフレード役のスティーヴン・コステロとジェロモン役のルカ・サルシも、それぞれ役にピタリとはまっていて素晴らしかったです。サルシは、今年幸運にもリセット・オロペサとの来日コンサートで生歌を聴くことができましたが、深みのある表現力豊かな歌声は、温かなお人柄と共に印象に残っています。
 
 
今回の演出は、以前にも別のキャストでの上演で観ていますが、舞台セット、照明、衣装など全てが美しくて素晴らしいです。幕が開いてまず最初に、舞台の真ん中に据えられた大きな淡いピンクのツバキの花に目を奪われます。
 
この演出では、ストーリーの流れを四季の変化に重ねて描いているとのことで、細かな照明の色の変化など細部にまで気が配られていて、本当にうっとりするほど美しい舞台美術の世界が広がっています。
 
 
ストーリーは悲しい結末を迎えますが、このオペラは見終わった後に何とも言えない余韻を残し、しばらく現実の世界に戻ってこれないほどに引き込まれているのを感じます。
 
音楽が美しいのはもちろんですが、このオペラの魅力は、やはり分かりやすいストーリー展開でありながら、ヒロインの心情が細かく描かれていて、それが共感を呼び、観客の心を打つためだと思います。
 
短い上映期間ですが、もしお時間がありましたら、ぜひ映画館の大きな画面でこの素晴らしい作品をご覧になってはいかがでしょうか?
 
 
(写真は全てMETライブビューイングのHPより拝借いたしました)