METライブビューイング2021-22 第10作「ハムレット」を観てきました
誰もが知っているシェイクスピアの四大悲劇の一つですが、MET初演となった本作は、現代のオーストラリアの作曲家ブレット・ディーンがカナダ人劇作家による台本に基づいて作曲し、オーストラリア出身の映画監督が演出を手がけ、現代版の新作オペラとして大成功を収めた作品です。
今までに何度か観たオペラ版ハムレットは、トマ作曲のフランス語による5幕のもので、主演のハムレットはバリトン歌手が演じていましたが、今作は2幕構成で、ハムレットはテノール歌手が演じています。今回この作品を鑑賞して、こちらの2幕・英語版の方により魅力を感じました。
シェイクスピア劇の名台詞や大まかなストーリーの流れをそのまま活かしながら、所々に大胆な演出を加えて、スタイリッシュでスリリングな作品に仕上げられており、最後までドキドキしながら楽しむことができました
全く耳馴染みがない曲が続く新作オペラの場合、途中で眠くなったしまうこともありますが、この作品においては、通常の管弦楽のサウンド以外にも電子技術を含めた様々な音響機器や人の声、楽器以外のものを用いた効果音などが用いられており、時々後方からも不思議な音が響いてきたりして、退屈する暇さえありませんでした
ハムレットを演じたアラン・クレイトンは今作で初めて知りましたが、まず第一声から良く響く美声にすっかり聴きほれてしまいました。そしてやや重量感のある体型からは想像がつかないような敏捷な動きで、ハムレットの感情の変化を表情豊かに演じていて惹きつけられました。
このオペラにも大きな見せ場として「狂乱の場」がありますが、2幕初めにハムレットの恋人オフィーリアによって演じられる「狂乱の場」もかなり衝撃的でした。
オフィーリアを演じたコロラトゥーラ・ソプラノのブランダ・レイは、泥だらけの身体に下着と男性用の上着だけを身につけた姿で、超絶技巧を駆使した素晴らしい歌唱で長いアリアを歌い上げていました。普通の清楚なお嬢さんが、失恋のショックで狂気に陥っていく様を体当たりで演じており、鳥肌が立つほど素晴らしかったです
物語の核となるのは、父を殺されたハムレットの、叔父コローディアスへの復讐ですが、様々な憎しみや裏切りなどが交錯して、悲劇的な最悪の結末へと進んでいきます
シェイクスピアの原作はよく知っていましたが、今回これほどスリリングなオペラとして観ることができて幸せに思いました。
キャスト全ての歌唱・演技が素晴らしかったのはもちろんですが、あらゆる面で質の高い作品だと思います。機会があったら、ぜひ多くの方に観ていただきたいです