齊藤正明著「会社人生で必要な知恵はすべてマグロ船で学んだ」を読みました。

 

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本書は、ある理学療法士の方がFacebookで「ブックカバーチャレンジ」として投稿されているのを見て知りました。私は基本的にビジネス書の類が好きなのですが、本書のすごく変わったタイトルに惹かれました。

 

著者は、マグロ船に乗った経験を活かして、コミュニケーション術などの講師をされている方だそうです。著者がマグロ船で船長から教わった話などから学べるビジネス書になっています。

 

あるもので何とかする

 

マグロ船の中で、スピーカーが故障します。これは仕掛けの付いた縄を海に投入する合図を知らせる機械です。ひとりの漁師がジャンク部品の入った箱から、ありあわせの部品で音がでるように修理しました。修理前より見た目も音も悪くなりましたが、とにかく音は出るようになりました。

 

船長「海に出てしまえば、この20mの船だけが世界ど。トラブルが起きたら、ここにあるもので全部なんとかしぇないかん。習っちょらん電気や機械も直しゃないかんときがある」

 

齊藤「ところで、病気やケガをしたらどうするんですか?」

船長「バファリン飲んどけ」

 

実際、資格があるとか関係なく、自分の傷を自分で縫うこともあるそうです。

 

船長「海に出れば、できることはほとんどねえ。そこから一歩ずつ自分が得意なことを磨くんぞ。いくら自分を磨いたって、人間できないことばかりぞ。」

 

【私の感想】

海の上で、機械を修理する道具も限られています。ケガや病気への対応も船に乗っている漁師たちだけでできる処置は限られています。そのときにやるべき仕事のために、そして生きるために、その緊張感が伝わってくるようでした。船の上の漁師たちは、その覚悟が決まっているから、不測の事態も何とか乗り越えようとします。

 

仕事でも、生活でも、完璧にこだわるのでなく、その場でできることに最善を尽くす。とかく私たちは、いろんな情報をネットで集めてみたり、便利な道具に頼ってみたくなります。でも、あるものでなんとかしようとする。逃げ場のないマグロ船のなかの漁師たちから、私のような陸のサラリーマンが学ぶべきことはそこにあるように思いました。

 

むしろ不便なほうがみんなが助け合う

 

船の生活はやたらと不便です。猛毒のエイに刺されても病院はありません。機械が故障しても電気屋はありません。当然、携帯電話は使えません。おまけに非常に狭い空間で、40日以上も、同じ人の顔を見て生活しないといけません。

 

親方「100年前までは、飛行機もクーラーもねぇんど。それでもみんな立派に生きてこられたじゃねーか。『便利になれば幸せになる』そんなん幻ど。むしろ不便なほうがみんなで助け合ったりして、心の中に幸せを感じるし、難しいこともできるようになるんど。」

 

【私の感想】

コンビニや携帯、病院など、便利になったことで幸せになったとは限らない。そう言われると、そんな気がしてきます。毎週観ているアニメ「未来少年コナン」のなかで、生き残ったハイハーバーの住人たちが、力を合わせて村をつくり、子ども老人も働いて、身を寄せ合って暮らしています。そこに幸せな雰囲気を感じます。AIや高度医療がある世界に生きている私たちは、「むしろ不便な方がみんなで助け合ったりして幸せ」という視点も持ってもいいのかもしれません。

 最近の私は、昔の日本人の暮らしの中に、健全な心身を保つ秘訣があったように感じていたので、「不便もそれはそれで幸せ」というのもマグロ船からのいい教訓として受け止めます。

 

一体なにやっとんじゃ!

 

ひとりの漁師がサメに足をかまれました。幸い、長靴に穴が開いただけで無傷。そのとき、親方のドスの利いた声で

「ゴルア!一体なにをやっとんじゃ!せっかくうまくさばけるようになったお前がここでケガしよったら、みんなが困りよろうが!こんバカ!」

 

そこで著者の斎藤さんは、親方の叱り方が非常にうまい、と感じます。口調は怒っているのですが、「お前はさばくのがうまい」「お前が欠けると、戦力が劣ってしまう」「お前はこの船でとても役立つ人間だ」という3点を伝えているのです。

怒られた本人も、このような叱られ方がとても嬉しかったらしく、今まで以上にこの船で頑張ろうと思ったそうです。

 

【私の感想】

寡黙なイメージのある漁師が、仲間同士の良い面を口に出していたりして意外な様子もあったそうです。マグロ船のような、狭い中に人口密度が高く、ギスギスしやすい環境の中で、対人関係のストレスをためないような工夫がされていた、と。

船に乗っている漁師たちは、大学やセミナーでコミュニケーション術を学んだわけでもないでしょう。船の中という、究極の閉鎖空間のなかです。そこで、自分の居場所を確保し、毎日を暮らしていくために、本能的に編み出したコミュニケーションがあったのだと思いました。

 船長や親方がそこで船員を導いていくに、そのひとりひとりの居場所を認め、能力を認め、それを言葉にして伝えていくというスキルがありました。マグロ船の経験から、ストレス対処法やコミュニケーション術について学びを見出し、伝えようとされている著者の独自性も面白かったです。

 

マグロ船はある意味、究極の環境だから、人間本来の力が試されるのでしょう。

 

ありがとうございました。