童門冬二著「戦国一孤独な男 山本勘助」を読みました。

 

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最近の私が楽しみにしているのは、大河ドラマのDVDをひとり早朝に観ること。いま観ているのは、「風林火山」です。武田信玄の軍師として活躍した山本勘助が主役。諏訪頼重に切腹をさせ、いよいよ勘助が軍師として力を発揮しはじめ、面白くなってきました。

 

そんな中で読んだのが今回の本。著者の童門氏は、以前、直江兼続や黒田官兵衛についての著作を読んだことがあった方だったので選びました。この本は小説ですが、主君・武田信玄と、仕える山本勘助について解説してくれているような内容で、山本勘助について知る入門書として良かったです。

 

部下への権限の委任と責任

 

山本勘助は、今川義元に仕える叔父の庵原氏の力を借りながらも、士官できずにいました。牢人として過ごすうちに、晴信(のちの信玄)の恐ろしさに触れ、「晴信様にお仕えしたい」と思うようになります。

晴信は、勘助の能力を見て、いきなり「三百貫の知行、足軽隊将」として召し抱えます。

 

武田信玄の有名な言葉

「人は城、人は石垣、人は堀、情は味方、仇は敵なり」

その解釈は通常、

〇本拠である躑躅ヶ崎の居館は、極力小規模なものとし、逆に打って出て占領した地域の城を堅牢なものとした。

〇かれにとって、部下の全員が城であり、石垣であり、堀であった。

と言われる。

信玄にすれば、躑躅ヶ崎の居館が小規模であればあるほど、全将兵の気持ちが占領地域の管理に向く。このことを現代風に言えば、「小さな会社、大きな現場」である。「人は城・・・」という言葉は、現代風に言えば、「部下への権限の委任と責任」を示すものだ。

 

【私の感想】

人を信じきれない環境で、孤独に生きてきた勘助。その勘助が晴信に忠義を尽くすようになったのには、力を発揮できる立場に登用されたからです。その晴信の考え方の背景には、「人は城・・・」に代表されるような考え方があったからだとわかってきました。

さらに晴信には、勘助を納得させるだけの理想があり、決断力がありました。

 

 人を使う立場の心得

 

 本書では、晴信と勘助の語り合いから、晴信の「人間観」を示してくれています。

 

晴信は自らの自戒から、「人には深く、自分には浅く」というふうに自らの考えを勘助に語ります。

 

・忠節忠功の心がけを深く、自分の要求は浅く

・常にへりくだって礼儀を深く、遊山や遊興は浅く

・人を使うには調査や訓練を深く、処罰は浅く

 

「要は、自分のやりたいことをせず、やりたくないことをやることだ」といい、晴信の「帝王学」を説きます。勘助はそれまで、「仕える立場で発揮すべき能力」にばかり全精力を注いできたが、「人を使う立場の心得」に立ってものを考えたことがない、と気づかされます。

勘助は、「晴信の年齢がはるか下であっても、このお館には学ぶべきところが多い」と気づき、“師”と仰ぎます。

 

【私の感想】

 勘助は他の譜代の家臣たちよりも、敏感に晴信の意図を察することができました。だから、晴信は軍議の場でも、勘助とのやり取りを通じて、自らの考え方を伝えていきました。そうして、勘助の能力を譜代の家臣たちにも知らしめる機会にしていきました。

 

勘助は、身につけてきた知識や技術をいかんなく発揮していき、反発していた家臣たちも勘助を認めざるをえないようになりました。

 

 その背景には、晴信が「孫子の兵法」や「論語」など古典に学び、活用していたこともありました。勘助も古典も学んでおり、それを土台に、晴信の考えを尊敬し、理解して意図を察することができたのだと思いました。

私の興味も、「孫子の兵法」や「論語」へと広がっていきます。

 

 武田家の治国の法を作る

 

勘助は、「甲州法度之次第」の治国の法を書くことを思い立ちます。

 

勘助が晴信にかつての理念をよみがえらせるために書いた文章は、

 

古語にいう、「君は舟なり、人は水なり」というさらに「水は能く舟を載せ、また能く舟を覆す」と。おそるべき言葉なり。たとえれば、当主は舟なり。領民は水なり。善政いきわたれば、領民は必ず館を支える。しかしいったん悪政をおこなえば、領民はたちまち背いて館を覆す。もって家中の戒めとすべし。

 

晴信の理念を城づくりで形にし、家中の法度を作って、最後まで「晴信を天下人にする」という夢を追い、散っていきました。

 

【私の感想】

晴信の裏方に徹し、「晴信を天下人にする」の夢に邁進し、自らの死に場所を探して散った最後でした。自らの持った理想は純粋なもので、晴信への忠義は死ぬまで持ち続けていました。そこには組織の中で生きる男のカッコよさがあります。師と仰げる人に仕えられる幸せも、そこにありました。

 

上司との信頼関係。仕事への姿勢。勘助から学べることはたくさんありそうです。ドラマの先を観ていくのが益々楽しみになりました。

 

ありがとうございました。