先日畑で仕事をしていたら遠くから大きな大きな音が聞こえてきた。いったい何の音だろうか。ヘリコプターが飛んでいる音のようにも思えるが少し違う。
その正体はすぐに分かった。マフラーを改造した暴走族の連中が巨大な音を立てて広域農道を何台も走っている。
その日は休日で時間は昼過ぎである。暴走族が出るにはあまりに場違いの状況なのだが暴走族の連中のオートバイの爆音は途切れる事が無い。恐らく150台以上の集団だったと思うがとにかく30分くらいの間ずっと辺りは爆音に包まれて不快極まりなかった。
いわゆる不良のガキたちが集団でオートバイで大きな音を立てて不法行為をする暴走族が流行った1980年代の頃はその活躍の場は夜中であった。辺りがまだ明るい時間帯に暴走族が出るのは完全に場違いで例えるならば太陽がさんさんと降り注ぐ芝生の上で日陰者たちが違法賭博を繰り広げるようなものである。それくらい異様なものだ。
そもそもアンダーグラウンドな行為をする連中は陽の目に出るのを嫌って暗くて目立たない場所にいるのが相場だ。
しかし今回の暴走集団は休日のサンサンと太陽が降り注ぐ昼下がりに堂々と暴走行為を繰り広げていた。巨大な音を立てて時折蛇行運転などの反社会的な行為をしていた。
しかしこの連中は昔の暴走族とは決定的な違いが有る。
それはきちんとヘルメットを被ってナンバーがきちんとついて道路交通法的には違法ではないオートバイに乗っている。そして赤信号はきちんと止まって待っている。
だから普通に見たら単なるオートバイ集団とかわらないのだが、この連中は時折蛇行運転をしてみたり意味も無く巨大な爆音を立てて明らかな違法行為を繰り返してる。
この連中がいったい何を求めてこんな事をしているかというと、一応形だけは法に則ったいで立ちをする事によって警察につかまるような事を避け、安全だと判断したらその時だけちょろっと舌を出しながら違法な暴走行為をしているのである。全く暴走族も心底落ちたものである。
現代社会に不満を持った少年たちがアウトローを気取って夜な夜なバイクで暴走行為をして無意味な自己主張を繰り広げ、時によっては暴走族同士でケンカをしたり警察につかまったりしていたのが暴走族という存在そのものだった。
それが今は表向きはきちんと法を守って行動し、晴れた休日に集団の中で少しだけ羽目を外して違法行為をするだけが目的の哀れな珍走集団に成り下がってしまった。
法に触れない範囲での極めて合法的な暴走行為なのだろう。
もちろん今の暴走族が本当にそういう存在になってしまったのかは知らないが、少なくとも先日見た150台にも及ぶ珍走集団に関しては間違いなく合法的な暴走行為を楽しんでいる本当に従順な飼い犬的で情けない連中であった。
そんな集団に不思議な連中を見かけた。それは明らかに若者ではない30~40歳、下手したら50~60歳くらいの紛れもない「おっさん」がその暴走集団に混じって暴走行為をしている姿だった。
顔を見ればわかるが誰が見ても立派なおっさんと分かる連中が合法的な暴走行為を楽しむために150台の暴走集団に相当数混ざって違法行為にいそしんでいたのである。
これは本当に悲しい光景であった。このオッサン連中は何か辛い事でもあったのだろうか。それとも昔を懐かしんで思わず羽目を外してしまったのだろうか。
暴走族仕様のオートバイの三段シートにまたがり、派手な特攻服を着て蛇行しながら爆音を立てて走っていくおっさんのその姿は筆舌に尽くせない程に痛々しく、それなりの歳を積み重ねたゆえの哀しさを身に纏っていた。
もう社会に出てから久しいこのおっさん達は月曜日には普通に社会に戻って普通のつつましく日常生活を謳歌しているのだろうか。まるで夢の世界から舞い戻ったみたいに。
若気の至りという言葉があるが、どうみてもおっさんの領域に達している人間がいまだに善悪の分別をわきまえられないような行為をしているのを見ると、こいつらは一生死ぬまでこうなんだろうなと思わざるを得ない。
そして普段もそんな行動をしているのだろうと想像する。
赤信号みんなで渡れば怖くないという格言が有る。
同じような行動をする連中に紛れてしまうと普通ではできないような事を平気で出来てしまうという例えだ。
しかし赤信号は平気で渡れても道を走って来る車が自分の存在に気づいているとは限らない。
車に跳ねられて飛ばされつつ、冥土への旅立ちを感じながら初めて、ああやはり赤信号は渡ってはいけなかったのだと気付くのかもしれない。
まあ、どの時点で気づくのかは個人の自由で有るのだが、他人の迷惑になる行為をすることは、その行為が結果的に自分を束縛して不利益をもたらす事が多いのは事実だ。
人の振り見て我が振り直せ、という事を肝に銘じたい。