少し前に久しぶりに人がたくさんいる都会に行く機会が有ったのだが私の住む田舎とは決定的な違いを感じた。

それはとにかく歩いている人が多いという事だ。男も女も子供も大人も年寄りもペットも、とにかく歩いて移動している人が多い。特に繁華街などの賑わった場所は顕著で多くの人々が、この連中はいったいどこに向かって集団で移動しているのだろうかと異様に感じるほどであった。

それに対して田舎は歩いている人があまりいない。もちろん人口が圧倒的に少ないせいも有るがそれが理由だけではない気がする。田舎にも人の集まる場所が有って私の住む場所で一番近い繁華街は町のスーパーなのだが、人はパッと見回して数えきれる範囲くらいしかいない。もちろん夕方の人の多い時間帯はそれなりに人は居るのだが歩いていてすれ違えないとか、ぶつかるとかいう状況は有り得ない。

それに対して都会の混雑はものすごい。まず知っている人がほぼ居ない。田舎だとスーパーなどでもだいたい同じ人しかいないので面識はなくてもなんとなく見たことがある人が多い。いつも見るけどあの人誰だろうと思う人が結構いる。そしていつも同じ人に会うという事もある。

しかし都会ではあまりに人が多すぎて同じ人にあう事は先ず考えられない。そして誰もがかなりのスピードで歩き回っている。都会は車も当然多く、渋滞も考えられないようなノロノロでこちらも呆れてしまうが、それ以上に人がどこにでもたくさん居て、移動手段として長距離を歩く事をいとわないのが明らかに田舎とは違う。

田舎の人は歩かないというのは本当である。田んぼや畑など歩く場所はいくらでも有るし、どこに移動する上でも距離が長いので歩く機会は多そうだがむしろ歩かない。

それは車での移動が中心だからである。これは18歳に車の免許を取得してから年を取っていずれ旅立っていくまで田舎にいる限りは車での移動が当たり前となる。スーパーなどには大きな駐車場が有ってほぼ全ての人は車で買い物に来る。都会のように自転車や歩きでの移動は極めて少数派である。

もうまともに歩けないようなヨボヨボの年寄りがハンドルにぶら下がるようにしながら運転してあちこちに移動している様子は危なっかしく近寄りがたいものが有る。

田舎の車は年寄りにとって車椅子のようなものでもある。

まともに歩けなくなったから車で移動するしか手段がなくなっているのだが、そもそも普通に歩けないような人が車を運転するのは危険でもあるだろう。

私の家の近くにある家はちょっとした坂の上の庭の中に家族の車を停めているのだが、その坂を下ってくるのは車に乗った状態がほとんどで歩いて下ってくる様子をほぼ見た事が無い。家から外に出るという事はほぼ100%車で出かけるという事なのだ。

そして車を使う目的もそもそもの車の用途の度を越したものが多い。笑い話のような事なのだが以前にある人が車で出かけるというのでどこに行くのか聞いてみたら100mくらい先の自動販売機だったという事が有った。

理由は歩いていくのが面倒だかららしい。

昔は田舎の人はどこに行くにも歩かないとならなかったから足腰が強かったのだろうが、今はむしろ都会の人の方がよっぽど歩くし足腰も強いだろう。夕方近くなると田んぼの中の道をヨボヨボと散歩している年寄りを見かけるが、しばらくすると見なくなってしまう。要するにそういうことなのだろう。足腰が弱ると人は一気に衰えてしまう。

田舎はストレスが少なく空気も良いので健康的な生活ができて誰もが長生きしそうに思う人が居るかもしれないが、実際は田舎の方が健康な寿命は短いのかもしれない。

私の場合は仕事柄で一日中外で体力仕事をしている事が多いが、長い距離を歩くという事はあまりない。だから都会などに出て長時間歩くと結構疲れてしまう。

昔を生きた年寄りに話を聞いた時には、学校に通うのに毎日そこそこの山を2つ越えて往復3時間位かけて歩いていたと言っていた。大人になっても当然それなりの距離を歩いて日々移動していたに違いない。

今は都会では車での移動は混雑するので歩きや自転車などの手段でする事が増えている。私が子供の頃に住んでいた発展途上中のそこそこの都会の町では主な駅からバスで30分くらいの位置にあったが、買い物などの為に自転車で1時間くらいかかって駅の近くの繁華街まで足しげく普通に通っていた。子供だったので車という選択肢はなかったが、わざわざバスで行くことも無く、大人の人も普通に自転車で移動している事が多かった。

実家のある東京で生活していた時も家の周囲は自転車や歩きで移動するのがほとんどで、考えてみたら結構な距離と時間を自分の足と体力を使って移動していた気がする。

田舎は地理的に車を使わないとどうしようもない環境に加えて、一人が一台車を所有しても大丈夫なような生活環境が整っている事が車中心の生活にどっぷりとつかってしまう要因となっているのだろう。

車をなるべく使わないような生活を心掛けたいが、一番近いスーパーの有る場所まで5キロくらいは離れているので歩きはともかく自転車でも考えてしまう。

楽を求めるとキリがないが、あえて苦を求めても特に得るものもないのであればやはり楽な方に流れてしまう。

まあ郷に入れば郷に従えという事だろう。