某所4月の挨拶。 そろそろ発信拠点をマスメディアに持ちたい。

 

 

「未経験歓迎」

 早ければ高校生くらいから、アルバイトという形で皆さんは働き始めることになると思いますが、仕事を探すときに「業務内容」「勤務時間」「時給」など様々な条件をもとに職場を選び、応募することになります。その際、「未経験歓迎」という言葉を見る機会もあるでしょう。わざわざ書いている背景には「経験者しか採用しない」とターゲットを絞らず、多様な人に応募してほしいという意図があるわけですが、果たしてどの程度「歓迎」されているのでしょうか。

 実際にはこうだと思います。「未経験者も歓迎。でも経験者はもっと歓迎」あるいは「経験者がなかなか集まらないから、仕方なく未経験者にまで採用範囲を拡大している」。そういう本音が背景にある場合がほとんどです。

 まれに、「未経験の方が歓迎」という会社もあります。某タクシー会社では同業他社からの転職者は原則採用しない、としているようです。その理由は「タクシードライバーはこういう仕事、という思い込みや悪い意味での馴れがあると伸びしろが少ない。むしろ異業種を経験した人の方が素直に業務内容を吸収し、おもてなしの精神を忘れずに業務にあたってくれるので研修育成がしやすい」ということでした。

 実際に、年齢が上がれば上がるほど、異業種には転職しづらい傾向があります。採用する側としては、「若い人の方が柔軟性があり、スポンジのように素直に吸収し成長してくれる」と考えるためです。尤も、これは「男性だから重たいものを運ぶ仕事」「女性だから細やかな気配りができる仕事」のようなもので、多数の人はそのカテゴライズされた枠組みに当てはまっても、実際そこからはみ出る人もいます。仮に1%だとして、東京都だけに絞っても9万7千人います。

 1%の声を無視し続ける結果として、「女性は男性より医師になりづらい」に象徴されるような冷たい社会が生まれます。カテゴライズは効率的ですが、完全ではない。「血液型A型だから○○」みたいな決めつけ、バイアスもそうですね。これで良いのだと決めつけてしまわず、常に問い直し、新しいものに触れてアップデートしていきましょう。ネットニュースで済ませず新聞や書店の棚で「偶発の出会い」に期待するのもまた然り。

 …と、ここまで自分なりの正論を連ねてみましたが、改めて問い直してみます。決めつけ、先入観、思い込み、認知バイアス…これらは全て、人間が生きやすくなるための本能的なオートメーションではないのか。ありとあらゆるものを都度都度まっさらな目で判断していたら、時間や体力が追いつかない。

 例えば人の話を聴くカウンセラーも、なんでもかんでも「そうなんですか?」「どうなんですか?」ではなく「きっとあなたはこんな思いだったんですよね」と想定することで、理解してもらえているという信頼を得て(ラポールと言います)話し手に寄り添うことができます。
 
 未経験歓迎。歓迎されているのは「未経験という状態」ではありません。「未経験、でもやってみたい」「あの箱もこの箱も全部開けてみたい!」そんな好奇心・挑戦心と相まって、「未経験」は価値を持ちます。

 いつまでも真っ白なキャンバスでいることに価値があるわけではない。汚れることを恐れず、さあ踏み出そう。思い通りの色にならなくても、新奇歓迎・挑戦していくプロセスにこそ光が当たり、人は輝ける。