心が壊れてしまうほどショックな出来事があると、まずそれを認知することすらできません。
それに気づいた途端、崩壊してしまうから。
ゆっくりゆっくり、傷をいやして認識しても壊れないくらいに回復するまで、その出来事は深く封印されます。そうして、ゆっくりと氷が溶けるように小さな気泡になって少しずつ表層に浮かび上がってきます。その時に耐えられる分だけ。
じれったくなるくらいゆっくりと、それでも止むこともなく、少しずつ、少しずつ。
繰り返すうちに、時折ぽこっと大きな気泡が浮かぶこともあります。その時には、グラスの氷がからんと音を立てるように、記憶が大きく動いたりします。
読書ができるようになったのは、そういう大きな気泡の一つなんじゃないかなと思います。
自分ではもう全部溶けてなくなったんじゃないかと思うこともあったけど、まだまだ氷は溶けきっていなくて、からんという音がそのことに気づかせます。
そのたびに。
自分がどれほどショック受けていたのか、傷ついていたのかを改めて知る。
同時に、それでも回復を続けていることも知る。