皆様、新年を迎えるご準備に勤しまれていらっしゃることでしょう。

最近は暗い話題が多いので、今回は美味しいケーキと大作曲家の偉業についてご紹介します。

 

2019年10月「2nd International Suzuki Teacher Trainer Convention第2回国際スズキ・メソード指導者育成担当者会議」がスペインの首都マドリードで開催されました。世界23カ国から100名を越えるSuzuki Teacher Trainerが集いました。

会議の大きいセッションでは「大陸協会代表による各自の育成システム」を披露、「創始者鈴木鎭一の理念、その発生経過について」、「将来の展望などについての提案」等の講義、それに対する質疑などがあり、また細かいグループに分かれたセッションでは「スズキ指導者育成に必要な方法や教授法」や「育成期間」などを公開討議されました。※

 

※詳細な報告は次をご参照下さい。

Monthly Suzuki 2019.11.1 第2回 SUZUKI METHOD International Teacher Trainers Convention 参加報告~10年ぶりの開催。スズキ・メソード21世紀の発展は指導者養成から~

https://www.suzukimethod.or.jp/monthly/2ndITC.html

 

International Suzuki Association Online Journal for December 2019

https://internationalsuzuki.org/news-previous.htm

 

筆者は会議主催者から、初日開幕セレモニー後最初のセッションでのプレゼンテーションを早い時期に要請されました。開催責任者の一人が友人であり、社団の意向も踏まえて、不束ながらこのプレゼンテーションの進行をお引き受けしました。彼からは2015年の「the 10th European Suzuki Convention第10回ヨーロッパ大会(スイス・ダヴォス)」でも同じような依頼を受け、何とか果たした過去があります。

そのスイスに同行した家人が今回も行動を共できることになり、会議開催数日前のスペイン到着を提案されました。

理由は簡単です。私が慣れぬ英語のプレゼンテーションを行うため、現地に到着してから直ぐ本番に臨むことを避けた方が良いとの判断からです。スペインと日本との時差は7時間、ジェットラグから体内時計を現地時間に慣らすのは大事ですね。

 

以上の理由から、マドリードでの会議開催3日前にスペイン北部バスク地方の街を訪れました。緑豊かな山に囲まれ、海岸に面した街でした。

市街と海岸線を見下ろす丘の上にはキリストの像と砲台が並ぶ軍事要塞の跡があり、現在は歴史記念館として内装され、当時の軍服展示や各国から攻め込まれ防御した歴史を短い動画にまとめ、プロジェクタにて公開されていました。

 

ここから海岸に向かって旧市街に戻りました。

家人のお目当てである「バスク風チーズケーキ(日本での表記、お店ではtarta de queso、つまりチーズケーキ)」が銘品として有名なLaVinaに入り、味わいました。

とても甘く、美味しいこと、間違いございません。このお店はお菓子専門店ではなくて、バル(Bar)でした。それにしても、このケーキのホールサイズを購入するお客さんが絶えません。手前にあるのは地元のワイン<Txakoli,  Chacolí,チャコリ>です。平底のグラスに高い位置からワインボトルをかざして注ぐのが普通とのことですが、自分で試すと失敗ばかりです。

別なバル、美味しそうなピンチョスが一杯並んでます。

さて、筆者の訪れたここはサンセバスチャンとの名で知られる街であり、現在はDonostia-San Sebastián(ドノスティア=サン・セバスティアン)と呼ばれます。

フランス国境から約20Km離れた都市です。アップライトされた図書館もご覧下さい。

昼間の食料品店前、大きなBacalao~バカラーオ(鱈)の干物に並ぶ果物は?

”KAKI”日本語の「柿」そのものです。ポルトガルの宣教師たちの日本から母国に持ち帰った種が、スペインにも広まったと聞きました。

 

繁華街にある遊歩道です。

遊歩道に面したカフェテラスに近づきました。政治的な抗議活動デモに参加する人々、テラスで飲食を楽しむ人々、しっかり分かれていることに感心しました。観光産業を大切にしているので、治安は良いと感じました。

サンセバスチャン、その名称は「聖セバスティアヌス」から由来です。筆者は大変遅まきながら、ローマ帝国時代の一兵士がキリスト教に改宗して殉教、その後「聖セバスティアヌス」と讃えられたことを知りました。

<イレネに介抱される聖セバスティアヌス  ジョルジュ・ド・ラ・トゥール作 1649年頃>

本ブログのタイトルをお読みになった方はもう、おわかりでしょう。

そうです!クラシック音楽作曲の巨匠、ヨハン・ゼバスティアン・バッハ(Johann Sebastian Bach, 1685年- 1750年)のミドルネームは、同じく「聖セバスティアヌス」からです。

J.S.バッハは以前ご紹介しましたヘンデル(11月29日「二人のゲオルグ?、ジョージ?」)と並び称されるほどのバロック音楽期の大音楽家でありますが、その生涯、現在のドイツ語圏から離れたことがないと言われております。

彼は、イタリアの高名な作曲家であったアントニオ・ルーチョ・ヴィヴァルディ(Antonio Lucio Vivaldi, 1678年 - 1741年)等の楽譜を入手して、自ら別な楽器に編曲して、その作曲法を学びました。その生涯は演奏と作曲の研鑽に費やされて、完成度の非常に高い鍵盤楽器、弦楽器、キリスト教の宗教曲等を多数残しており、作品は人類の大いなる遺産とも言われます。

 

まったく脈略ないようですが、サンセバスチャンに来てから、彼の小さい旅行から大きな作品誕生に至ったことに、思いをはせました。

 

1747年、62歳のJ.S.バッハは孫に会うと称し、次男カール・フィリップ・エマヌエル・バッハ (Carl Philipp Emanuel Bach, 1714年- 1788年)の住むベルリンを訪れます。当時C.P.E.バッハはプロイセンの君主<フリードリヒ2世~後にフリードリヒ大王(Friedrich der Großeと称される~Friedrich II. 1712年- 1786年)>の宮廷楽団員として仕えておりました。

フリードリヒ大王は現在のドイツにジャガイモ栽培と食用として普及させ、食文化として根付かせたそうです。筆者は1980年代に2回、スズキ・メソード生徒たちによる弦楽オーケストラ引率指導者としてドイツを演奏旅行で巡り、覚えたドイツ語の一つは”Kartoffel(ジャガイモ)”でした。

 

さてJ.S.バッハがベルリンに来訪すると知ったフリードリヒ大王はC.P.E.バッハを介して、彼の父親をベルリン近郊のポツダムの宮殿に招きます。そして自らフルートを演奏して創作メロディを聴かせ、それを主題にしたフーガの即興演奏を頼みます。

フーガとはカノンと同じく、一つの主題(テーマメロディ)を複数の声部が順に演奏して追いかける音楽形式の一つであり、イタリア語で「遁走」との意味です。J.S.バッハは当時、フーガの作曲大家として、高名だったのでしょうね。

 

その風景を再現した映画をご覧下さい。(英語字幕付きですが、ポイントが小さいので大きな画面をお勧めします)

<ドイツ語 Bach trifft Friedrich(バッハとフリードリヒの出会い)>

英語 Bach meets Frederick the Great

フリードリヒ大王が主題をフルートで演奏 → 2:55

命を受けたJ.S.バッハが即興で3声のフーガをCembaloチェンバロ(※)で即興演奏 → 4:22

※実際は当時出現したばかりのForte-Pianoフォルテピアノを使って演奏したと言われています。

いかがでしたか?

フリードリヒ大王はさらに6声(!)のフーガ即興演奏を求め、さすがにJ.S.バッハはその場で応ずることが出来ませんでした。

 

しかしながらJ.S.バッハはこれで終わることなく、約2ヵ月後、フリードリヒ大王の主題のフーガ曲集を完成しました。タイトルのラテン語” Regis Iussu Cantio Et Reliqua Canonica Arte Resoluta”は「王様より賜った命をカノンにて解決!」でしょうか。

これが「音楽の捧げもの, Musikalisches Opfer  BWV1079」であり、西洋音楽史上の傑作誕生となりました。

 

この曲集にある「蟹のカノン(楽譜を左右対称型にして演奏)」と「無限カノン(楽譜をメビウスの輪のように繋げて演奏)」を詳しく紹介した動画があります。

<J.S. Bach - Crab Canon on a Möbius Strip>

J.S.バッハの作曲技巧の突出は、同曲集のトリオソナタをお聞きになれば、さらに感じられるでしょう。

トリオソナタとは、2つの声部と通奏低音から成り立つ室内楽です。鍵盤楽器のCembaloの左手パートは通奏低音部であり、右手の高音部は和声の指示番号に従って自由に演奏できたと言われております。

素敵な動画が公開されており、ざっとご次に説明します。

第1楽章Largo ~ 憂いのある歌のようなメロディが美しく絡みます。

第2楽章Allegro  生気あふれる旋律が先行しますが、07:35に「王の主題」登場です。

第3楽章Andante  ゆっくり呼吸して味わいながら歌うイメージを聞く者に与えます。

第4楽章Allegro ~ ジーグのような早い三拍子の踊りを連想させるフーガです。

 

まずは古楽器による演奏をご覧ください。

<J.S. Bach: Trio Sonata from The Musical Offering, BWV 1079>

 

こちらはほぼ現代の楽器による演奏です。

<J. S. Bach: Triosonate (Musikalisches Opfer BWV 1079) ∙ Wittiber ∙ Junghanns ∙ Steppan ∙ Fábri>

チェロの巨匠パブロ・カザルスPablo Casals、カタルーニャ語:Pau Casals, (1876年 - 1973年)は対談で「バッハは彼の生きていた時代に使われてた楽器の機能に満足していない。もしも彼が現代に生きていたら、躊躇うこと無く今使われている楽器を選ぶだろう」と語っております。

さて皆様、どちらがお好みでしょうか?

 

最後にJ.S.バッハ作曲フーガ形式の楽しさあふれるヴァイオリン協奏曲をご紹介しましょう。

Anne Sophie Mutter が第1ヴァイオリンをつとめリードする動画です。

残念ながら、画質、音質共に良くありません。

しかし、第1楽章の躍動感あふれる16分音符メロディの後、ソロの8分音符の跳躍から再び16分音符に移る演奏表現に、バッハを深く敬愛していたチェリストの大家、パブロ・カザルスが提唱していた「音楽の再創造」の魅力を感じました。

 

<ANNE SOPHIE MUTTER, Concerto for Two Violins - Double Violin Concerto, BWV 1043, Bach.>

 

 

スズキ・メソードのヴァイオリン指導曲集を学ぶ方々にとって、演奏する機会の多い曲です。

第1楽章はニ短調にもかかわらず、ヴィオラパートの終結音がF#となり、ニ長調となって明るく解決します。※

来年こそ、このように明るくなることを願います。

皆様、良い年をお迎え下さい!

 

※ご興味のある方は「ピカルディの三度」の検索をお勧めします。