茨木のり子さんの詩。



系図


子供の頃に

叩きこまれたのは

万世一系論

くりかえしくりかえし

一つの家の系譜を暗証

それがヒストリイであったので

いまごろになってヒステリカルにもなるだろう

一つの家の系譜がかくもはっきりしているのは

むしろ嘘多い証拠である

と こっくり胸に落ちるまで

長い歳月を要したのだ


何代か前 何十代か前

その先は杳として行方知れず

ふつうの家の先祖が もやもやと

靄靄と煙っているのこそ真実ではないか


父方の家は 川中島の戦いまでさかのぼれる

母方の家は 元禄時代までさかのぼれる

その先は靄の彼方へと消え去るのだ

けれど私の脈拍が 目下一分間七十の

正常値を数えているのは

伊達ではない


いま生きて動いているものは

並べて ひとすじに 来たるもの

ジャマイカで珈琲の豆 採るひとも

隣のちいちゃんも

昔のひとの袖の香を芬芬と散りしいて

いまをさかりの花橘も

きのう会った和智さんも

どういうわけだか夜毎 我が家の軒下に

うんちして去る どら猫も

ノートに影 くっきりと落し

瞬時に飛び去った一羽の雀も

気がつけば 身のまわり

万世一系だらけなのだ




象徴という選択の余地なき生き方を法に定められたご一家。

その選択できない様々が、

人権に悖るように感じてしまうこの頃です。


ことばを重ねると

どこかに嘘の入ってしまう戦後生まれは、

この詩への共感に

思いを託します。



万世一系。

歪みのあるものは

関わる誰もに歪みをもたらすものです。




⭐大島弓子作「バナナブレッドのプディング」より


だれか

おつれた糸をヒュッと引き

奇妙でかみあわない人間たちを

すべらかで

自然な位置に

たたせては

くれぬものだろうか


画像はお借りしました。

ありがとうございます。



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