ズザッ…………。
静まり返る客席が
さらに鎮まる。
リンクの中央
そのエッジを回して位置を定める砕氷音は、
憑依の瞬間を告げるCue。
そう自ら決めたプログラムの始まりなのか。
会場はその一瞬に閉じた空間となり、
画面を見つめる者も
また
五感を吸い寄せられます。
その肩から胸へと満開の桜が流れ落ちる。
桜をまとって引き締まった顔が、
その意匠の下に秘める強い意志を表して像は定まりました。
一度開いたその目は眼光鋭く、
そこにいるのは、
戦に臨む武将でございました。
始まる!
騎馬武者が陣を率いて進み出る如き振付。
前方に敵軍を見据えた視線は
その背を見るものにも感じられたのではないか。
それほどに一瞬一瞬の意志が体を司っているのを感じます。
無駄がない。
怖いほどにない演技でございました。
剣を天に突き上げ、
前進!!
と命じたのでしょうか。
その全身に満ちる闘気が、
ぐっと焦点を定めていきます。
今、
戦は始まり、
白刃閃く戦場が展開します。
なんという完成度の高い4回転、
そして3回転半、
その細い芯にひらめく裾までが精緻に計算されたよう。
勝つ。
鮮やかに勝つのでしょう。
背を見るからでしょうか。
その顔は天を仰いで
視線は答えを求めるように彷徨っているのかと感じます。
身にまとった桜の花びら、
風に吹かれて揺れる桜の枝のように
己を揺らす風に身を委ねているような美しさ。
ふっと
その風に花びらを散らす己に気づきでもしたかのような仕草に、
はっとさせられます。
そして、
双腕を差し伸ばし
天を仰いで、
ぴたりと止まる。
そして
顔をかくす。
そして現す。
気づいてしまったのか、
そういう変容なのかと思いました。
後半へと入り、
一度気づいてしまった苦悩は、
振り払い
戦場に立ってもなお纏わりつく。
沈む
そして、
勝つ……。
自身を重ねて演じることができるプログラム。
それを伺えば、
見るものも重ねます。
己の体を抱く。
飛び上がる
天を仰ぐ。
戦うこと、
それにともなう苦悩、
その中で最後に得た答えは
何なのか。
それは
おそらく滑るごとに
沸き上がるものがおありだろうと思います。
試合で滑るごとに。
これが初回。
では
この演技でつかみ
昇華したご自身を、
どう生きていかれるのか、
そこは決めていらっしゃるのかもしれません。
ただ、
コロナ禍の今でございます。
世界選手権は見えず、
個人の運命もその渦の中。
この演技をもって
選手生活最後としても相応しいほどの見事な演技でした。
それも確かなことです。
そのことにホッとする思いもあるファンでございます。
試合ができる。
そのことそのものが不明瞭。
でも試合が続くなら、
それを来季に思うなら、
アイスショー1回もなくていいから試合が観たい!!
なんて思ってしまいました。
画像はテレビ画面を撮させていただきました。
ありがとうございます。
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