吐瀉物のすえた匂いが男の鼻を刺激する。
 これは………警察沙汰だ。
 俺は被害者だ。
 でも………………もう被害者じゃないかもしれない。
巻き込まれた暴力の上を行く暴力に
男はただすくむばかりであった。
目の前の虚無に暗い眸は、
男の泣き言からははるかに遠い世界にあった。
少年がスタスタと歩き出す。
その向かう路地の向こうにはサイレンの音が響き始めていた。
 助かった
 助かったんだ………。
男はすでにわからなくなっていた。
この5人から助かったのか。
自分を助けた少年から助かったのか。
ただ助かった。
それだけが分かることだった。


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