この小品は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。




青いどっしりしたカーテンに
ふわふわの白レース。
つんと澄ました黒猫が見上げる三日月。

悪くない絵よね。
金茶の瞳って
こういう時映えるのよ。


空は
一面に星、また星。
星月夜と言いたいくらいの満天の星屑が、
ピシッと濃い藍色の蓋に嵌め込まれてる感じ。
昼間はあったかかったんだけどね。
この窓ガラスの向こうはもう冬だわ。


仔猫が
冷たい窓ガラスにほっぺをつけて
ぺったり座り込んでるの。
咲お母さんが用意した室内履きはふわっふわの白。
小さな足がますます小さく見える。





朝は大人しく着てたカーディガンは、
西原チーフが脱がせたんだっけ。
汗かいてたもんね。
シルクのブラウスは襟が丸くて
後ろがボタンか。
海斗が脱がせたがるでしょうね。


お尻は
冷たいんじゃないかしら。
磨き込まれた床がちょっと寒々しい。



どこから持ってきたのか
丸いストゥールは青で
ちょっと温かそうかな。
仔猫はそこに肘をついて
頭は窓ガラスにもたせてる。


私は空を見てたんだけど、
仔猫は下を見てるわけ。
だって
海斗が帰ってくるはずだから。


たけちゃんは
葉っぱが色づいた頃から
ずっと屋敷を空けるようになったの。
一人ぼっちのお留守番は大嫌いな子なんだけど、
一生懸命笑って〝がんばってね〟って見送ってる。


ここぞと
海斗は甘やかしに夢中なんだけど、
ほら
総帥だから。


働かざる者食うべからず。
仔猫をぺろぺろ舐めてるだけじゃ
鷲羽財団も傾いちゃうわけで、
〝ここぞ〟ってときは黒い車がお迎えに来るのよ。


もう仔猫も
この窓から飛んだりしない。
それはしないけど、
お夕飯も済んで、
時計の針もだんだん上を指してくると
窓に張りついちゃうわけ。



車のライトが林を抜けてくるとこから見たいのね。
だから私もこっちにいる。



カーディガンは、
椅子のとこか。
しっかり胸に抱えて戻ったはいいけど、
この子が自分で片付けなんて思い付くわけがない。

たけちゃんがいないと
物も片付かない。
西原チーフは仔猫と二人っきりってのが苦手なんだもの。

下ならいいみたいだけど、
お部屋はダメ。
すぐ真っ赤になって
訓練がどうのモニタールームがどうの言っては、
こそこそ出て行っちゃう。
で、
カーディガン抱えた仔猫に見上げられて、
今日も早々に退散しちゃったわ。



仕方ないわね。


飛び乗ったストゥールは
ちょっと狭い。
もう仔猫の肘が乗せられてるんだもの。
その肘を跨いで仔猫の顔をなめようとしたの。


仔猫は
目を閉じてた。
そしてね、
つるって手が外れた。


よけてもよかったんだけどね。


「ごっごめんね黒ちゃん。」

背中でちゃんとキャッチしたわよ。
柔らかなクッションきいてるとはいえ、
椅子にゴツンは痛いでしょ。


跳ね起きた仔猫にぎゅうって抱かれて
まあ
これも災難といえば災難なんだけど、
久しぶりに私も仔猫の気分を味わったわ。


いい匂い。
そしてね、
とっても柔らかい。


と思ったら、
カーテンを斜めに光が走った。
私を抱いた仔猫はぴょんと立ち上がる。
ちょ、ちょっと待ってよ。
降りるんだから。
って鳴いても待たないわよね。


美人の黒猫は
真っ白な仔猫に抱っこされて
屋敷一番の威圧感漂う美形のお出迎えをすることになった。


にゃーーーーー。

私ね、
思い切り甘えた声を出してあげた。
大好きなご主人様と一緒に
大好きな一家の主を迎える飼い猫って役を演じたわけ。


なぜかって?
海斗が
ぐって詰まったからよ。


私をどかさなくちゃ
仔猫を抱っこできないの。
ふふん。
いちいちびくびくしてるんだから。

「海斗!
 おかえりなさ………………クシュン。」


そして、
可愛い可愛いくしゃみが出た。


そして、
私は急に目の前が黒くなって
ぱあって温かくなった。

「風邪をひく。」


いやだ。
なんて素敵な低音。
海斗の匂いが私たちを包む。


やっぱり
あなた女殺しかも。
悪くないわ、総帥さん。


ふわっと体が持ち上がった。
猫二匹、
軽々と抱っこして狼さんは階段を上る。


いいわよ。
お部屋についたら下りてあげる。
あなたたちは忙しいでしょ。
私も忙しいわ。
今夜は素敵な三日月なの。


見たいわ。
天上の月と地上の月。
仔猫はあなたが抱くと月の精になる。
さあ
まずは暖めてあげてちょうだい。
ずっと待ってたの。
あなたを待ってたの。


画像はお借りしました。
ありがとうございます。
本日は書割休憩ってことで。


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