この小品は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。




大イチョウはすでに半ば裸木となり、
灰色に伸びる枝に残る葉も
昼下がりの陽光に誘われるように
ひらひらと舞い落ちていく。


太くのたうつ根も、
緑に苔むした土も、
今は落ち葉に覆われ陽光を浴びていた。



黄金の絨毯に
目指す姿はあった。

〝見つけた。
 あとは構うな。〟




瑞月は、
土に汚れた白いソックスの足裏を見せて
ぺたんと小さなお尻をついていた。
その丸みを隠して真っ白なセーターが
黄金の落ち葉にふんわりと乗っている。



 風邪をひく………。

部屋から迷い出た仔猫は
ふわふわしたセーターに何も羽織っておらず
靴もはいていない。
舞い散る葉が呼んだのだろうか。



〝抜け出しました。
 林に入っていきます。
 私が追いますか?〟


俺が追う。
そうわかっているだろうに、
西原は確認した。



カサリ………。

黄金の絨毯を踏んで
俺は近づく。
無心に見上げたまま動かない。


「瑞月」
そっと
その細い首にマフラーを巻いてやる。
そのまま俺も座る。
林にまで迷い出ることはなかった。
かすかな不安を圧し殺す。


三角に開いた膝の間にそろう腕は
仔猫の前肢。
しなやかに反る背に
白い毛皮の柔らかさの下の白磁の肌が浮かび、
目眩を覚えた。

嫌々をする仔猫の腰を引き寄せ
より深く穿つと
反らした背を震わせ
内奥を締め付ける。
感じやすく、
愛おしい俺の仔猫は木々の声にも感ずるのか。



うすく開いた朱唇に誘われる。
重ねた唇を柔らかく押し、
洩れる吐息を確かめながら離す。


「海斗………?
 ぼく
 どうしたの?」

仔猫のまま
見上げる眸に俺が映るのを確かめると
思わず笑えてくる。
俺の仔猫は巫だ。
だが、
俺の仔猫なのだ。


「見てごらん。
 綺麗だ。」

うながすままに見上げる小さな顔が
胸を締め付けるほどに愛らしい。

「………綺麗。」

「ああ綺麗だ。」

金色の中のお前が綺麗だ。
いつまでこの優しい時間が続くかはわからない。
だが、
今は幸せの時だ。
瑞月の柔らかな体の温もりを感じる。


荘厳な秋の終焉を見つめながら
俺は幸せに酔う。


画像はお借りしました。
ありがとうございます。




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