この小説は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。




睫毛がキスに震え、
閉じた瞼は淡い影を帯びた。
まだだ
海斗は抑える。

ねだるようにわずかに傾ぐ小さな頭に、
差し出された耳朶を甘く噛む。
プルッと丸い肩が震えるのを確かめ、
海斗は囁く。
「いい子だ。
   感じやすいな。」

 緋の薄布に透ける愛らしい突起が
つんと立つ。
かけることばにも感応する瑞月の無垢が
海斗の鬼を誘い出すようだった。


「瑞月、
 お前は何でも受け入れる。
 受け入れて神に捧げる。」

訝しげに上がった眸が
突起が摘ままれて揺れる。
擦りあげられたそこに耐えられず
反り返る背に腕が差し入れられる。


「もうそんなに感じたのか?」

腰が捩れ緋の薄布が滑りおちていた。
海斗の視線を眸がとらえ、
ハッと白い脚が閉じた。


ゆっくりと己の顔に戻る男の目に
瑞月は縫い止められた。
動悸がする。
己の鼓動が這い登ってくる。
ぴたりと視線が定められるのを感じて体が震えた。


「可愛いな。
 お前は本当に可愛い。」

ふっと海斗の口許に笑みが浮かぶ。
同時に酷薄な指先に突起が捻られた。
のどが引き攣れ声が洩れ、
瑞月は固く目を閉じた。



「毒だな。」

ふっと体を離され、
優しい声が降ってきた。
小さな突起は痛みとも熱ともつかぬものにじんじんとしている。
そっと髪を撫でられる手にも
燠火は炎を小さく巻き上げ
瑞月は海斗を見上げた。


「海斗………?」

行灯の灯に黒は色を濃くする。
恋人がいつも好んで纏う黒が薄闇に溶け
あわせから覗く逞しい胸板が
仄かな翠に筋肉の隆起を陰影に刻んでいる。

サラサラと
緋の袖が肩先まで滑り
華奢な腕が差し伸べられた。
仄明かりに白い指先が勾玉を探るように海斗の胸を辿る。


「外してごらん。」

端正な横顔を見せていた海斗が、
静かに囁いた。


「え………?」

この男を得た証を確かめるのは、
瑞月の愛らしい習性だった。
僕のだよね
海斗はぼくのだよね
口にすることはいつしかなくなっていたが、
共寝のすさびに小さな指先が勾玉を探すことは続いていた。



「さあ
 お前が外すんだ。」

海斗は向き直っていた。
逞しい肩幅が圧倒するように迫ってくると思うと、
いたずらな腕はつかまれ
体は引き起こされていた。



見つめられ、
瑞月は全身が痺れる。
目だけになってしまった自分を感じながら
動けずにぺたんと両の手の平を敷布についていた。


引き起こされた細い胴から
帯がはらりと解け落ちる。
緋色の衣が膝に広がり、
そこからさらに滑り落ちて褥は緋で瑞月を囲んだ。


「だ、だめなんでしょ?
 だって………海斗は長だから………
 だから僕も………。」

「外すんだ。」


薄闇から伸ばされた黒い袖が
眼前に迫り
頬に触れた掌の熱に瑞月は戦いた。
外すなど考えられなかった。





 だって
 これがあるから
 海斗は僕のものなんでしょ。

 素敵な海斗
 かっこいい海斗
 海斗がとられちゃう
 海斗がぼくを忘れちゃう
 ………………………………………。

ふっと気が遠退く。
海斗の視線に縛られたまま
ゆらりと体が傾くのを感じたときだ。


必死に海斗を見詰める視線を横切って
鈍い金色を放つものが
落とされた。

ぽとり………。

薄れかけた意識の中に
微かな声がする。

にゃーーー………………。


黒?
その声を聞き分けたと同時に
膝に落ちたそれを見つめた。
金色の鈴が
行灯の光を吸って鈍く輝く。


そっと顔を上げると
海斗の眸は変わらない。
見えていないのだろう。


りーん りーん

黒の眸を思わせる鈴の音が
瑞月の耳に届く。
緋の裾を引いて
瑞月は膝を進めた。


海斗の腕に迎えとられたのが、
何だか嬉しくその顔を見上げる。


「ぼくのこと好き?」

「おまえだけだ。」


自然に手が伸びた。
その鎖を指先がつかむと
海斗が頭を下げる。
鎖を持ち上げると海斗の頭が抜き取られ
勾玉は瑞月の手に残った。


ずんと持ち重りするそれを手に
海斗の胸に抱き寄せられ
その温もりにほっとした。


膝の金の鈴が
ころんと落ちて黒が呼ぶ。


にゃーーー


勾玉は男の体温を残して仄かに温かい。
瑞月はその鎖をそっと手に巻いた。
失くしたら大変なものだ。
そう頭が働いた。


いい子ね
さあ
もうだいじょうぶ
でもね……………。

鈴がゆらゆらと揺れる。
瑞月の頬が染まった。
「ぼく………もう聞いてる。」


零れる小さな声に、
海斗の指がその髪をかきあげる。
「瑞月………?」


何でもないのだ。
ただ聞いているというだけのこと。
黒もセツもそれを知っている。
だから
きっとだいじょうぶなのだ。


「ぼく
 海斗の一番でいたいよ。」

瑞月は甘く囁いた。
そして、
キスを受ける。


抱き上げられながら瑞月は聞いた。
「いい子だ。
 お前は俺のものだ。
 だから見せてもらうぞ。
 いい子だな。
 ………………怖くない。
 見せてごらん。」


白い褥に緋は広がり、
白磁の四肢は薄闇に白さを増す。
丸く清楚に並ぶ膝に手がかかった。


ひっ………。
あげかけた悲鳴を飲み込み、
瑞月は目を潤ませる。


押し広げられた下肢の内股がひくひくと引き攣れる。
幾度となく曝してきたはずのそこが、
羞恥を掻き立てた。



海斗の眸が
それをさせるのかもしれない。
己を愛しむ男は
己の羞恥を品定めるように見つめていた。


 こわい………

ついさっき捻られた小さな突起は
もう熱を取り戻す。

 こわい………


「瑞月、
 ………………綺麗だ。」

その声が熱を炎へと変えた。
怖くて、
そして熱かった。
潤んだ眸が恍惚としてたゆたう。



緋に白く下肢を開き、
贄は鬼を迎え入れた。
吐息が重なり
白磁は命を抱いて緋を映す。



「いい子だ。
 さあ啼いてごらん、
 俺の瑞月。」


 怖いかも
 怖いわよ
………………怖かった。
溶けてしまうほどに怖かった。
啜り泣きも喘ぎも欲情に濡れていく。


あああああああああっ………。

瑞月は身を捩って啼いた。
腕に巻いた勾玉が白光を放ち、
胸に残る勾玉が上気したように薄く紅を帯びた。


畳に転がった金の鈴は
しんと
そこに静まる。
声を出すのは野暮というものだ。
男は始末に終えず、
愛し子は幼い。
見届けるのが務めであり眼福であった。


イメージ画はwithニャンコさんに
描いていただきました。
ありがとうございます。




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