この小品は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。





たけちゃんはまだ練習で、
海斗はお仕事だって。
ぼく、
トムさんの顔見ちゃって、
トムさんが困って樫山さんの顔見て、
樫山さんが言ったんだ。


「チーフ
 一つ貸しですよ。」

樫山さん、
すたすたって地下に降りてって、
トムさんが残ってくれた。


「いいの?
 トムさん。」

トムさんが
何だか悔しそうに樫山さん見送ってて、
ぼく、
迷惑かなって思った。



そしたら
頭ガシガシってされて
髪の毛くしゃくしゃにされた。


「子どもが気にすることじゃない。
    俺はお前の警護が仕事だぞ。
    だからお前にくっついてるさ。」


そっか
お仕事だった。
そう思ったら
何だか頭が重たくなって、
ぼくうつ向いた。


「うん
   お仕事だよね」

声も
なんだか小さくなって、
ぼく、
テーブルの端っこに
教科書とノートを移した。


伊東さんが付いてくれたとき、
どんって立ってたとこに
トムさんも立つんだよねって思ったんだ。



優しい伊東さんが、
そのときは、
何だかこわいお顔してたから、
トムさんが立つとこから
ちょっと離れた。
お邪魔しちゃダメって思った、


    ぼく、
    一人で宿題するんだ………。


教科書開いたら、
ちくってした。
ちくちく じとじとする。


海斗、
ずっと ずっと一緒だった。
ぼくお仕事の邪魔しないし、
海斗は黙ってPC開いてて、
一緒でだいじょぶだったのに………。


 〝夕食は一緒だ〟

急に言うんだもん。

それでもね、
ぼく
気にならなかった。

〝いいよ
 ぼく宿題やってる。〟

たけちゃんは一緒だって思ったんだ。




たけちゃんは忙しいんだ。
大学入試受けるんだって。
それにね、
試合も出るの。


ぼくはね、
試合は出ないんだって。
たくさん人がいるとこは、
まだ早いんだって。


ええっ
思ったらね

 早いよ
 はやいよ
 まだ はやいよ………。

みんなの声がした。



 杉のおじいさんが言った。
 松のおじいさんがうなずいた気がして
 竹さんたちがさやさや賛成した。

 母屋の大きな柱のおじいさんが
 目の前に浮かんで
 ぼくをじっと見た。


ぼく
黙った。


〝瑞月は
 練習がいらなくなったんだ。

 舞いたいように舞える。
 滑りたいように滑ることができる。
 だから
 試合で勝負ってのは
 ちょっとちがうのさ。〟


そうなのかな。
そうなのかな。
首を傾げてたら
オトさんがボレロを流してくれて
そうだってわかった。


よくわかんないけど
そうだってわかった。




可知がね、
ううん かっちゃんが、
代わりに来るようになった。


ぼくがボレロ滑るの
じいいって見てる。
ほんとに じいいいいいって見てる。


どうして早いの?
って聞いたら、
かっちゃんは言うんだ。

〝わかんないよ。

 でもさ、
 巫様はさ、
 人とだけ話してられないんだから
 仕方ないじゃん。

 色々話しかけてくるよー。
 おいらもそうだったからなー。〟



ときどきね、
フワッてする。
そうするとね、
ぼく抱っこされるんだ。


海斗がね、
たけちゃんがね、
抱っこする。


あれっ
て思うと、
どっちかのお顔が笑ってて
ぼくは抱っこされてるから
きっとずっと抱っこして待ってくれてたんだってわかる。


わかるんだ………………。


どかっ
隣の椅子が揺れて
ぼくは
どきんとした。


トムさんだった。


「どうした?
 宿題やらないのか?」

笑っている。


「お仕事じゃないの?」

ぼく、
びっくりした。


「仕事は
 樫山がやってくれてる。
 俺はお前の側にいたいんだ。
 誰かに言われたら
 これが仕事だって答えるさ。」


ちりちりが消えて、
ほわんてなった。


「仕事じゃないの?」

「そうだな。
 お前を守るのは仕事だけど、
 仕事じゃないんだ。
 やりたいことだからな。

 お前を守りたいから
 俺はチーフになったんだからな。」

トムさんが
まっすぐぼくを見る。
うれしくなった。


トムさんてハンサムだ。
ハンサムだなーって思った。



〝チーフ、
 古文ですよ。

 私が代わりますか?
 苦手でしょ。〟


樫山さんの声がした。
マイク通しても
なんだか笑ってるみたいだ。


トムさんの顔が
ぱあって赤くなる。
トムさんはお返事しなかった。


かわりに教科書つかんで、
ぱらぱらって開いた。

「ここだな。
 まず一文ずつ写せ。」


うん。
えっと
宿題やるんだよね。
ちゃんと古文やらなくちゃ。
高校生なんだもの。


イメージ画はwithニャンコさんに
描いていただきました。
ありがとうございます。


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