この小説は純粋な創作です。

実在の人物・団体に関係はありません。
 
 


 
ふわっふわだ………。
おふとん 柔らかいよ。
 

 えっと
お花の匂いする………………。
咲お母さん
何のお花にしたのかな………………。


目を開けた。


あれ?
天井が板だよ。
えっと木の節が目になってる。
このお顔………知ってるよ!


 
 「起きたか。
 気分はどうだ?」

「海斗!」

海斗が
優しく覗き込む。
笑ってる。


ぼく、
はね起きた。
しがみつく前に
ぼくは海斗の胸の中にいる。


ぎゅううって
してもらった。


「海斗、
 あのね、
 ぼく怖い夢見たんだよ。

 ぼく………また新しいぼくができたのかって思った………。


おじいちゃんとこに来たときの
母屋のお部屋で、
ぼくは海斗に抱っこされてる。


とっても
とっても
とっても怖かった夢なのに、
なんだか子どもっぽくて、
………恥ずかしくなっちゃう。


まあるい芍薬のお花が
だいじょぶよって
うなずいてる。
ピンクが優しくて
咲お母さんがにこにこしてるみたいだ。


頭が撫でられた。


「疲れたんだ。
 それだけだ。
 倒れてそれっきり眠っていた。
 ………抱いていく間も目を覚まさなかった。」


そうだよね。
たけちゃんが教えてくれたのに、
ぼくこわくって
海斗 海斗って探しちゃって………。


「………うん。ごめんね。へんなこと言ったりして………。


そうだ。
たけちゃんはどうしたの?
自分のお部屋?
ぼく
それを聞こうとして………気がついた。
もじもじする。



えっと
えっと
困っちゃう。


「どうした?」

海斗の声が心配そうになって、
ぎゅううっは
ぎゅぎゅううううっになった。



「ごめんねっ
 おしっこ!」

パッと手が離れた。


ぼく、
廊下ダッシュして、
飛び込んで、
やっとおしっこできた。


 青いお花が
 手水のとこに
 待っててくれた。


母屋は
お手洗いが遠いんだもん。

 まにあったわね
 よかったわ
 ちゃんと洗うのよ
 ご飯でしょ

お花が
うんうんしてくれる。



あ………
どうして母屋なんだろう。
おじいちゃんも心配してるのかな。


 おじいちゃんとご飯なの?


お花さんは答えない。
急に静かになったみたい。



廊下に戻った。
なんだかすごく静かだ。
そして、
海斗がいた。




ぼくはピタッて止まる。
心臓が大きな太鼓みたいにドンって鳴った。
灯りがお顔を縁取って
影がお顔を隠してる。


 うごけないよ
 だから ぼく まってる


海斗が
ぼくを見てる。
わかる。
………………海斗は今ぼくを食べてる。



海斗が動いた。
お顔に灯りが落ちる。



「瑞月、
 もういいか。
 食事が用意できてる。
 おいで。」


あれ?
笑ってる………。
狼なんかいない。



駆け寄って
ぎゅぎゅうううって
腕にしがみつく。
恥ずかしい。



頭撫でられて
ぼくは
またほっとする。


「みんな
 もう待ってるの?」

たけちゃんに謝らなきゃ。
おじいちゃんにただいましなきゃ。
ぼくは
優しい海斗に甘える。

甘えるとね
ギラッて牙が光るんだよ。



「いや
 俺たちだけだ。」


え?
どうして?
って
聞けなかった。



海斗は
すごく優しく
ぼくの手を引く。

急にね
ドキドキした。
曲がり角だ。
二人で曲がる曲がり角の向こうが
いつもとちがう世界みたいに
ドキドキした。




手を繋いで廊下を曲がると
赤いつつじが
灯りに浮かぶよ。



 たくさん食べてね
 がんばったごほうびよ



お花さん
みんな
今夜は話しかけてくる。





「海斗、
 ごほうびだって言われた。」



繋いだ手が
優しく握られる。

「そうだ。
 頑張ったな。
 お前は頑張った。」

「うん!」



急にお腹がすいた。
お腹が空いたら気がついた。

 いい匂い。
 とってもいい匂いがする。



囲炉裏のお部屋はパアッて明るかった。
二つだけ
お膳が並んでる。



ほんとに二人だけなんだ………。
そう思うと
何だか怖い。
立ち止まりかけたぼくの手を
海斗が優しく握る。

海斗に手を引かれて
ぼくはお膳についた。



白いお釜のご飯は
お米が一つずつ光ってる。
咲さんの煮物に
お漬け物。
お魚はつんと頭上げてお塩で白い尾が
かわいい。
お鍋の中はいっぱい色々のお味噌汁だった。



だあれもいない囲炉裏のお部屋に
ホカホカのご飯。


 召し上がれ
 
 召し上がれ

 召し上がれ

 ………………………。

お花さんたちの合唱が
聞こえる。
海斗も聞こえる?



「おとぎ話みたいだね。」

「そうだな。

 お前は
 どんなおとぎ話の姫より
 美しい。」


ご飯、
おいしかった。
海斗、
優しかった。


ぼくたちは、
お風呂に入った。
海斗がぼくを洗ってくれた。



ぼくが海斗を洗おうとしたら
海斗は首を振った。
首を振ってぼくを洗った。



お風呂は木の香りがした。
桧のお風呂が
むせかえるみたいに薫る。


指の先まで
海斗は
洗う。




パシャッ………。
ぼくの髪がね
お湯に広がるよ。
翠がゆらゆらしてる。


海斗は
ぼくを見てる。
ぼうってなる。

 さあ よみがえるんだ
 いい子だから
 ついておいで


海斗の声が注がれて
ぼくは
真っ白になる。

 ………………世界一綺麗だ

ざざっ………。

海斗の魔法のことばが聞こえて
ぼくはお湯から上げられた。


イメージ画はwithニャンコさんに
描いていただきました。
ありがとうございます。



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