この小説は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。






絢爛とシャンデリアは輝き
晴れやかなな装いに華やぐ招待客らは
新年を寿いでいた。


その中心は
穏やかな語らいに何か報じられたようで
支配人を加えて止まった。



長身の男が静かに頭を下げれば
そこにオーラが発する。
物静かな所作に
動かしがたい威が他を圧する。




「それが
 ようございます。
 いつものお部屋をお使いいただいています。
 どうぞ。」

支配人は微笑み、

「ありがとうございます。」

佐賀は感謝する。




再び王は頭を下げられた。
王は
場を去られるのか?



その後を慕うように
綺羅を尽くした客たちの視線が
佐賀に集まる。





「おお
 見てあげてください。

 では、
 私はこちらにおりますので、
 当てにしてくだされば
 いつでも動きますよ。」

大仰な台詞が
主の口から
するすると淀みなく流れ出た。




鬼栖庵の主は
察しもよく行動は速い。
そうでなくて、
鬼の栖は切り回せないからだ。




ゆさゆさと次の客へと歩き出す主は
もう七人めのお相手にかかる。
ちら
佐賀を眺める客は未練を隠さないが、
主はそれを丸め込む手腕のある人物だった。




舵は切られた。



唐突とも言える流れは、
役者を得て
河が流れるように自然にさらさらと進む。




佐賀は廊下に出た。




瑞月を確保する。
指令室に放り込もう。
ふくれていたが…………仕方ない。



いない?



パーティー会場の常として
廊下に設けられたソファーは無人だった。
まだ一時間も経たない。
尿意をもよおすには早い時間だ。
それは瑞月も同じだが…………。



トイレで泣いている?
それも
ないとはいえない。



が、




気配を消す。


トイレに入り、
また出る。
中にはカメラはなかった。



会場に戻る態で廊下を横断する。
……あった。
一つ
二つ
留め金と見せかけた不格好な細工。




エレベーターに進む。

中に入り
見上げる。


……やはりな。


だが、
同じ型番だ。
映像そのもの切り替えている。


俺の顔は
伊東にも見えないが
そっちにも見えないということだ。


だが、
切り替えは
そっちの自由だ。
わかっている。


伊東、
見えているならエレベーターホールで会おう。


佐賀を乗せた鉄の箱は
吸い込まれるように階下へと降りていった。





二階会議室で、
伊東は焦燥を隠せずにいた。
今は
捜索範囲を広げていた。


モニタリング中央には
大きくホテル全館の図があり、
そこには
散らばる警護人員を示す光点が点滅している。




モニタリングに
樫山以下三名を加えて
各階をなめるように潰していくところだ。


まるで何事もなかったように
エレベーター内は何の変化もない。




 かき消すように
 消えてしまわれた……。



空き室は
片端から中を開けている。
清掃担当のスタッフに便乗するとして
利用中の部屋には入れない。


……まさか、
どなたかに協力をお願いされているのだろうか。
いや、
御前はそれはなさらない。


どんな時も
かくれんぼは内々の悪戯だった。



伊東は
じりじりと
警護班の光点が
上階へと上がっていくのを見詰めていた。



 カチリ……。


衝立の向こうでドアが開いた。
ノックがない。




「待機!」

低く声をかけると同時に
伊東は
衝立に向かって体を開いていた。




「一つくらいは合格も
 あるのもだな。」

するりと
衝立の脇に立った佐賀は
淡々と声をかけた。



「チーフ!!」

わめく伊東に構わず
中央ホテル画面に佐賀は進む。


樫山は
すっと脇に下がり
ホテル画面を見上げる佐賀の脇は
伊東と樫山に固められた。


光点の位置、
各階の入室ランプの青
佐賀の目はホテル全館を精査していく。



 チ、チーフ?


残る隊員二人は
モニターに張り付いたまま
背中をガチガチに固まらせた。





「中央エレベーター
 最上階廊下
 画像はフェイクだ。

 爺さんの悪戯じゃない。
 
 タイミングが悪かったな。」


佐賀の指先が
縦にエレベーターを嘗め
横に最上階を切る。


ぐらり
揺らぐモニター前に
佐賀の声が飛ぶ。


「目を離すな。
 モニターは俺たちの目だぞ。」

条件反射でビシッと伸びる隊員の肩を
樫山が宥めるように叩いてやる。




「エレベーターは
 まだフェイクのままだ。
 俺は映らなかった。
 そうだろう?」

佐賀は二人に振る。
見知らぬ男に復命してよいか分からぬ二人は
ガクガクと頷いた、


佐賀は続ける。

「階段カメラは生きている。
 チームの移動が映らなかったら
 すぐにも異状は伝わる。
 下層階もだ。

 じじいは上層階のどこかだ。
 伊東!
 どうだ?」


佐賀は伊東を見詰める。
チーフが状況を把握しない状況で
動き出すのは下策だ。


伊東は
口を開けかけ
止まり
改めて佐賀の目をしっかりと受け止めた。



「エレベーターで!」

佐賀は微かに破顔し、
伊東の肩を叩く。



「じじいを確保して
 まだ10分ない……と思う。
 借りるぞ!」

佐賀は
インカムを取り上げて
踵を返した。


「あっ……指令室は……」

「1でいいか?」

焦ってかける言葉は
背中で返された。

「はい!」



カチリ。



ドアは閉まった。



「総員伝達!
 今の捜索を継続しろ!
 
 同時に
 指示を待て!

 御前は誘拐されたと考えられる。
 こちらの動きはカメラを通して見られている。

 気づいたことを悟られるな。

 
 指示あり次第、
 突入に移る。」

伊東は
インカムに向かって声を張る。



チーフが
チーフが
チーフが戻られた!


頭が回転する。
補佐する中で鍛え上げられた伊東だった。


「今、
 一階の二人は
 地下駐車場に向かえ!
 死角を通るんだ。
 その辺りで屯している奴等がいるはずだ。
 発見したら
 そのまま待機しろ。」

再びインカムに向かった。



〝よくできた
 逃がすなよ〟


インカムを通して
チーフの労いが聞こえた。

そうだ
退路を絶たなくては
二次、三次の攻撃の可能性が
ぐんと上がる。


ああチーフ
何をすべきか
今何が進んでいるか分かります!

伊東は弾んでいた。
久しぶりに
全身が武者震いに震える。



 でも……、

 チーフはなぜお分かりになったんだろう。
 正装しておられた。
 パーティーに……来ておられたのか?


いまだ無人のエレベーター内の映像を目に焼き付けながら
伊東はチーフを思う。


そして、
振り払った。


どうでもいい。
チーフが戻られた。
俺は今チーフの指示を受けている。


〝ずっと動かないハウスキーピングがいます。
 地下駐車場前廊下です。〟

「目を離すな。
 気づかれるなよ。」


 


画像はお借りしました。
ありがとうございます。



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