この小品は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。






落ち葉は
シーズンを告げる。




舞う落ち葉に
少年の眸は揺らぐ。

「ぼく……………。」




佐賀は
そっとその目をふさいだ。
その手に温かく涙が溢れる。


「だいじょうぶ

 だいじょうぶだ

 俺がついている。」


そっと
耳に囁く。


微かな啜り泣きに
だいじょうぶの呪文。
そして……〝俺がいる〟





繰り返し
繰り返し
その耳に囁いた。




俺がいる

うん



俺がいる

うん

………………。



その呪文が
少年を繋ぎ止めるものなのか
少年は
微かに〝うん〟と応える。



その応えが佐賀を
微かに温める。





この上なく大切に思う人は
〝ぼくがいる〟
では
繋ぎ止められなかった。




その白い手
泣き濡れた顔
〝あなた!〟としがみついた腕が
佐賀を苦しめる。




 瑞月、
 俺がいる。
 俺がいるから……お前は生きてくれ。



ほとんど祈りとなった呪文は
手術を経て
透き通るほどに白くなった肌と
羽のように軽くなった体に
繰り返し注がれた。



確かに腕の中にいながら、
今にも天へと昇ってしまいそうな
儚い命。



注いでも
注いでも
涙は零れ
頬は濡れる。




ばさばさっ
梢から鳥が飛び立つ。



見上げた佐賀は、
折しも切れていく雲間から差し込む
木洩れ日のシンフォニーの中に包まれた。



〝ほら
 綺麗でしょ?
 
 いい?
 綺麗なものはね、
 一緒に綺麗だって確かめると
 本当に綺麗になるのよ。〟



耳に蘇る優しい声に
佐賀は
周りを見回した。



足元を埋め尽くす落ち葉は
金色に輝く海、
くるくると舞い落ちる葉は
陽を受けてきらめく翼。



そして
雲間から差す幾筋もの光の矢は
荘厳な光の聖堂の中に
二人を包んでいた。



佐賀は
そっと目隠しを外し、
瑞月の肩を抱いた。



「瑞月、
 見てごらん。」

少年は素直に見上げる。



「綺麗だ」

「……うん」


そっと
肩から
その腕を回す。


少年の華奢な体は
すっぽりと
佐賀に包まれる。


「瑞月、
 お前と見るから
 俺は
 これが綺麗だと思える。

 お前が生きて
 ここに
 一緒にいてくれるから
 これは美しいと感じられる。

 瑞月、
 俺はお前がいるから
 幸せだ。」


少年の眸が
光の饗宴を写して
光を灯す。


「佐賀さん…………空…………綺麗だね。」

「そうだ。
 綺麗だ。」


少年の眸が
舞い落ちる葉を追い、
その手がそれをそっと受ける。


「佐賀さん…………落ち葉が……きらきらしてるね。」

「そうだ。
 きらきらしてる。
 お前が見てくれて
 きらきらしているんだ。」


雲は
ますます
その隙間を広げ
公園は
晴れた秋の日の輝きに包まれた。



日溜まりに
落ち葉が寄せられて
柔らかい膨らみが二人を誘う。



佐賀は少年を抱き上げて
その優しい寝床に下ろす。


「佐賀さん……抱っこして。」

少年は
細い腕を佐賀の首に回し
その眸に佐賀を映す。


そっと
体を重ねると
少年の吐息が甘い。



 そばにいてね

 ここにいる



 そばにいてね

 ここにいる



 …………おいてかないで

 ここにいる


 おいてかないで

 ここにいる


優しい呪文と
落ち葉の匂いが
二人を包んでいた。



〝俺がいる〟
〝ここにいる〟
その言葉を
切ないほどに求める少年を抱いて
佐賀の頬に涙が流れた。


秋の日の公園に
静かな時間が流れていった。


画像はwithニャンコさん作成の
二人です。

☆本編
 黄昏時の魔法〝枯れ葉の寝床?〟の
 前に入る幻想です。




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