この小品は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。






カタカタ……

カタカタ……


窓枠が呟く。

〝木枯らしだよ〟

〝寒いよ〟

〝寒いよ〟




ふかふかのスリッパに
細い足首が
やけに白く覗く。


窓辺で
うんしょ
伸び上がる瑞月は
暖かなガウンがちょっと大きめだ。


結んだ帯の上に
緩やかに布地が広がる。



細い腰。
細い腕。
そして…………ほっそりした首が、
ガウンの下の華奢なラインを
思い出させる。



こんなに可愛かった。


あと一月もすれば19歳となる少年は
どこまでも愛らしい。



「おいで
 瑞月」


海斗は呼ぶ。



今日は
感想を聞きたかった。




瑞月は振り向く。

小首を傾げ、
そっと
後ろにその紙を隠す。




「宿題だろう?」

海斗は
その声にコトバを重ねる。


〝シュクダイだろう?〟


シュクダイだよ

シュクダイだ




瑞月は
じっと海斗を見つめる。


 うん
 宿題だよ


そういうように
その眸は
静かで

トクン……

トクン……


小さな心臓は
小さな音を立てて
小さな体を動かしている。





カタカタ……

カタカタ……


木枯らしが鳴らす
窓は
冬の花を闇に抱いて沈んでいる。



静かに

静かに

二人は見つめあう。




海斗は
ふっ
目をそらす。


気恥ずかしくなり
後悔する。


 そうだ
 宿題だ
 宿題だよな…………。


恋人は
宿題に
シュクダイを
重ねていないのかもしれない。



隠した手は
宿題ができなくて
叱られないかと困った子どもの手だ。



海斗は
瑞月の全てを
ひしひしと感じて安らぐ時もあれば
ふっと
ひどく遠く感じて揺らぐ時もあった。


ほう
ため息をつき
心を切り替える。


立ち上がり
そっと近づき
後ろに隠した手をそっと握る。



「見せてごらん。」

明日には
提出させなくては。

宿題はやらせる。
それは、
年長の恋人の保護者としての務めだった。



クスリ……。
瑞月が笑った。




「ウソだよ」


……え?


「宿題じゃないよ。
 きっと
 海斗がシュクダイくれると
 思ったの。」


瑞月が見上げていた。
眸が
海斗を映す。


ガウンの下で
小さな心臓はトクトクと
ときめきに高鳴っている。



「海斗……。」

細い細い腕は
首に巻き付く。


はらり
小卓に落ちた紙は
ただ一文のコトバを抱いていた。



海斗は
それを甘く痛む胸に
納めた。



不思議だ。
嬉しすぎて痛い。
心臓がぎゅっと握られたように
痛かった。



 ボクヲ ヒライテ…………。



重ねた唇が
吐息を呼び起こし
吐息は熱を呼ぶ。


これはシュクダイ。
二人のシュクダイ。
コトバを交わし
思いを確かめるシュクダイだ……。


軋る寝台に
その扉は開かれる。


驚いたように
初めてのように
恋人は
そのコトバに応える。

開かれた扉に迎え入れられ
男は
その風景に身を沈める。


カタカタ……

カタカタ……

木枯らしは囁く。


〝寒くないね〟

〝寒くないね〟


腕には腕を
胸には胸を

絡み合う美しい肢体は
交わしあったコトバに酔って奏でる。
今宵の楽を奏でる。


シュクダイは
優しく二人を導き
胸にある玉は輝く。


木枯らしは
冬の館の窓を鳴らし
冬の星座は天窓に輝いていた。





海斗より


【扉】 作/青木繁あなたは 扉であってほしいたたけば 敏感にひらく 扉であってほしい厳しく こばむ扉であってほしいある時は自分からひらいて思わず僕を迎えてくれる扉であってほしいたった 一つの合鍵をあずけられた その重さを確めながら暗い世界のなかで僕が 期待して開ける扉であってほしい



画像はwithニャンコさん作成の
瑞月人形です。




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