この小説は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。




SAも新緑だ。
家族連れは軽食を購ってはこちらに上がってくる。
低い石段に続く緑の一角はしばしの休息の場だ。



海斗さん……どこだろう。


手洗いを済ませ、
先に立つ伊東の後につき、
高遠はSAの幅の建物の前を行く。
伊東と自分は父子に見えるだろうか。

目の端に、
白杖をもつ水澤と手を添える渡邉が見える。
視覚障害者とその付き添いだ。




緑が必要だ。
海斗さんはそう言ったそうだ。

「緑」
それは
きっと瑞月がそう言ったのだろう。



不思議に目立たない。
背が高いんだ。
瑞月は帽子!!

そう意識してみると
人混みの中に
石段へと抜けてくる二人がわかった。



頭一つ抜けた男が
背景に溶け込んで流れてくる。

…………呼吸かな。

周りと違和感なく動くのは
呼吸かもしれない。




電車の乗降客から
瑞月を目指して進んでくる犯人役を見分ける訓練で
人の動きの軌道を作るものを
高遠は学んでいた。



人混みで
人は
流れに逆らわない。

そこに沈みきると
どの顔も一様に見えるものだ。



そのとき
不思議に呼吸まで
人は揃っていく。

他と違う目当てをもつ者は
そこで
浮き上がる。



これなら大丈夫かな


瑞月は
深く帽子を被せられて
海斗さんにくっついて歩いてくる。

頬っぺたしか見えない。
女の子に見えるかな。
帽子は赤だ。
耳当てつきの飛行帽。


少し奥まで行くと
ただ木ばかりが芝の周りを囲んでいる。



海斗が瑞月を解放する。
背を向けて
瑞月が木たちを見上げ
さらに向こうの山へと顔を上げている。



手が上がる。
その手のひらにお日様を受けて
瑞月の華奢な体は
静かに止まる。



〝きれーい〟

後ろから
舌足らずな声が上がる。


〝ほんとだー〟

脇を抜けて
パタパタと小さな影が駆けていく。



瑞月の横に
小さな姉弟がはりついた。


「お姉さん
 何してるの?」

女の子が見上げる。
眩しげに見上げる。



「お日様
 もらってるの。」

甘いアルトが応える。



くりっと
女の子がお日様を見上げる。
男の子は
ただ瑞月を見上げてぼーっとしている。


「ほら!」

女の子に言われて
男の子もお日様を見上げる。


子供達もその手を上げた。



「お日様はね、
 幸せをくれるんだよ。」

華奢なほっそりした後ろ姿に
小さな二人の後ろ姿が
たいそう可愛らしい。




「…………あったかくなった。」

女の子が
不思議そうに言う。

「お日様はあたたかいもん。」

男の子が気持ち良さそうに言う。



「ばかね。
 ここよここ!」

女の子が
男の子に向かって
胸を押さえて足踏みする。



「もう出るぞー!」

若い父親の
のんびりした声が響く。




海斗がすっと進み
子供たちは振り向く。

続いて振り向く瑞月の前に
海斗の長身が立ち
子供たちは
その脇を駆け戻る。



「すごく綺麗なお姉さんだよ!」

女の子は
せき込んで父親に報告し

「早くしなさい!」

母親は
食べたものの後始末をしながら
夫に目を配る。



子供たちに応えて
瑞月の方を向く父親は
実直な四角い顔立ちの男に
にっこり黙礼される。



がっしりした
見るからに
柔道かアメフトか学生時代は猛者で鳴らしただろう〝父親〟に
なかなかハンサムな〝兄〟。



父親は
漠然と黙礼を返し
そそくさと子供達を連れて降りる。




伊東がもっていた携帯が鳴る。



伊東は
待ち受け画面を見て
〝息子〟高遠に目をやる。



高遠は
長身の体に壁を作り
家族連れをやり過ごしている海斗に向かった。




「拓也さんからです。」

海斗は
高遠に瑞月を任せ
引き返す。



伊東は
海斗の携帯を差し出した。



「何だ?」

〝三枝憲明、
 やっぱりおかしいですね。
 自分が何をしているか
 わかっているようには見えませんでした。

 突然思い立って現れたにしては
 ぼんやりしすぎです。

 若い女が付いてましたよ。
 なかなか美人さんだ。
 お喋りは彼女の担当でした。〟


「お前はどう思った?」
 

〝当日〝花月〟代表、
 誰が現れるかわかりません。

 舞台だと…………秦もあり得ますね。〟


拓也は
端的に伝えた。



「わかった」

海斗も
表情を変えない。




〝それと……鷲羽の人間を探してるって男が
 現れましたね。〟

「追っているか?」

〝うちの警護は優秀ですよ。〟

「身元を確認しておけ。」




通話を終えると
海斗は
振り返る。


「時間だな。」

「はい」

伊東が答える。




「水澤先生、
 お車へどうぞ。
 出ます。」

水澤は静かに立ち上がり
渡邉は
その手を取る。


鷲羽の長は
エネルギー充填中の巫に向かう。



静かに気配を消した長身が
胸に華奢な少年の顔を隠して
降りてくる。


その前を
ぶらぶらと降りる少年は
その〝父〟らしき男に笑いかけ
その脇に添う。



その父子が
自然に車に向けて歩き出した。
休憩は終わりらしい。



白杖をもった水澤が
渡邉を促して
その後に続く。


一行は
SAを後にした。


画像はお借りしました。
ありがとうございます。



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