この小説は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。





車窓は
流れる緑が眩しい。
新緑は
初夏へと移り行く季節を映して
照り映える。


伊東は
横に座る少年を見やる。

 この助手席を希望された……。


それは
〝たけちゃん
 助けて〟
備えているのだろう。

この少年でなければ応じられない危機は
あるものだ。
伊東はそう考える。



栃木県に入った。



追尾してくる影はない。
樫山は
後に続く一台を運転している。



いざ!
なったなら
車の操作はそのまま危険回避の現実的手段だ。


任せられるのは
互いしかいない。


「樫山」

〝はい〟

「次だ。」

〝はい〟



予定変更なければ、
後部座席に
無用な声はかけない。




「休憩です。」

「はい。」

ここまで
互いに声はかけずにきた。





方向指示ランプを点灯させ
SAへと入る流れに乗りながら
伊東は後ろの流れを確かめる。


後続の車も
同じく
続いている。


〝紺のセダン
 男一人
 ナンバーは…………。〟


さらに後続の警護に向けて
樫山が伝える声が
インカムに入る。



検索し
SA内で視認し
動向を見定めるのは
最後尾の務めだ。



この少年は
緊張の中でも
自分を保っている。
無駄口を叩かずとも
平静だ。



伊東は
高遠に
また一種敬意にも似た思いを抱いた。


この少年は
大人になっていくのではない。
その場を知る者
守る者になっていく。


少年の心は
少年のままだ。



〝最前列奥です。〟

先発の一台から駐車位置の連絡が入る。
すっと
一台が抜け
伊東は車を駐車させた。


続いて
また一台が抜け
後続の車が入った。



〝出る。〟

海斗の声が入った。

〝いいの?〟

嬉しそうな瑞月の声が被る。



「出ますよ。」

伊東が
さっと運転席を下りた。


続いて
長身の目立たない男が
車を降り立つ。


見れば
たいそうな美丈夫だというのに
混雑したSAで
そこに注目する者はいない。


が、
飛び出した蝶々は
そうはいかない。


「可愛い!」

さっそく上がる声に
長身は
すっとその手を引く。



その体に包まれ
ふわりと
その顔は隠れた。


長身の男は
そのままに気配を消す。


背の高い少年が
そっと
長身の男に寄り添う。


「行きましょうか。」

後続の車から下りた年配の男が続く。
白杖をもつその男性は
少し幼い顔つきの青年に付き添われていた。




正面の大階段を上がり、
作田は
会館を見上げた。


今日は
また別のイベントを開催するらしい。
誰やら作田の知らぬ若いグループのショーだ。


その本番は
夕刻かららしく
会館前は
ファン向けのグッズ販売の店舗と
そこに群がる少女たちで
いっぱいだ。


ずいぶんと悪目立ちしてしまうな。
作田は苦笑しながら
会場入り口に向かった。


誰か
会館の職員に繋ぎをつけよう。
そう考えていた。



画像はお借りしました。
ありがとうございます。


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