こn小説は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。




車内アナウンスが目的地到着を告げる。
わずか二時間半ほどで
新幹線は東京から作田をここまで運んでくれた。

まだ3時にもならない。
作田は
せっせと覗いていたスマホの画面から
目を離した。





「大変ですね。
 お気をつけて」

「すまんね。
 GW明けには戻るから。」


課を出る作田に
声がかかった。
ほんとだ。
申し訳ない。
まあ警戒態勢に駆り出される以外
警察だって本来休日営業なんだがな。
……その休日にも事件は起きるってことだ。





 まだ一時間もたってないのか……。


着替えやら洗面用具やら
小旅行に必要なだけのものは
ロッカーに置いた鞄に詰まっていた。


その鞄を手に
さらりと答えながら
作田は
本当に鷲羽海斗を追おうとする自分に
戸惑ってもいた。



「署長、
 どうでした?」

「たいした話じゃないらしい。
 ちょうど
 俺に電話が来てな。
 母が倒れたっていうんだ。

 休暇をお願いしたら
 すんなり受けてくれたよ。

 いや
 もう
 俺もそれどころじゃない。」



自分が目にしたものは、
課に戻れば
まるで幻だったように思える。


ぼんやりとデスクに座り込んで
それでも
作田は
どこか日常に戻りたい願いに
身を任せたい気分もあったのだ。


そうだ
報告書…………。
書きかけた画面を開いた。


日常が呼んでいた。
もう休暇はを宣言していながら
本当に……行くのか?
自分に問う声がした。



誰に話したとしても
信じてもらえるものではない。
いや、
自分ですら信じられない。


第一、
今や鷲羽財団総帥となった男が
自分を覚えているとは思えない。

捜査ではない。
手帳の威力は使えない。
どうやって
そんな雲の上の男にたどり着くんだ。



ふうっと
自分のやろうとしていることが
ひどく
馬鹿馬鹿しく思えた。



そのときだ。


〝もしかしたら
 また
 お目にかかるかな〟



からかうような声が
脳裏に浮かんだ。

 馬鹿にしやがって
 会ってやるよ

ぐっと腹に力がこもった。




これは殺人だ。
あの男が殺したんだ。


報告書の文面に
それを示唆する事実は
一つも書けない。
事故だと片付くだろうことは
明白だった。



だが、
〝お忘れください〟
一言に続くあの感覚。
脳味噌に手を突っ込んでかき回されたみたいだった。



それが
致命的になる状態も……あり得るのかもしれない。
〝みなさん、
 見事に忘れてくださった。〟



それを殺しと証拠立てることは
できないかもしれない。
自分も
手を触れられはしなかった。


だが、
殺しなんだ。
それを突き止めたい。
追わずにはいられない。
そう
作田は思う。



作田は、
改めてPCに向かい直し
黙々と報告書を仕上げた。
もう迷いはなかった。





ホームの階段を下り
新幹線中央口を抜けると
右手に観光案内所が見えた。
入り口には周辺地図が掲示されている。


作田は、
まずは案内所前に立った。
バス停の位置を確認する。




鷲羽がオープニングセレモニーを行う会館。
まずは、
そこに行くと決めていた。
まずも何もそこしか当てはない。



 連絡を取る手段くらいは
 この手帳で
 手に入るかもしれない。

 不審に思われたとして、
 それで鷲羽に問い合わせが行ってくれたら
 それはそれでチャンスともなる。


鷲羽海斗に会う。
それができたら
また道は開けるだろう。




案内所入り口に
幾枚も貼られたポスター。

 いざ出陣!
  みちのくよ
  発進せよ

 ねぶた
 に
 ねぷた
 そしてYOSAKOI

〝鷲羽財団主催〟か。
大掛かりに
販売ルートをつけての復興企業支援を始めるらしい。
鷲羽海斗はここに現れる。



そして
もう一枚


みちのくに捧げる祈り
鎮魂と旅立ち
明日へと繋がる祈りの舞い
アイスショーか。

並ぶ名前は
作田には見てもわからぬものばかりだった。

それぞれにつく戦績紹介からすると
出演者は有名どころなんだろうか。
その中にさらりと載る名前が
かえって目を引いた。

天宮瑞月
高遠豪

鷲羽財団後援の選手か。
そのお披露目も兼ねているのかもしれんな。




作田は
チラシを取り上げ
歩き出す。



案内所の脇は
もう
出口だ。

明るい陽光が満ちている。
まだ午後3時前だった。
外の賑わいが
また同じ新幹線に乗り合わせた客たちの明るさが教えてくれる。

GWが始まった。
観光地として知られる美しい都は
草臥れた背広の作田を迎え
輝いていた。


画像はお借りしました。
ありがとうございます。



人気ブログランキングへ