この小説は純粋な創作です、
実在の人物・団体に関係はありません。





その温もりは
2015-12-01 07:56:41
テーマ:クロネコ物語




ねじを巻かなければ、
その人形は動かない。

自動で動いているとでも思った?




あなたを見詰めた目は閉じないし
あなたが触れなければ指先一つも動かない。
あなたの声を待ってるのよ。



『寝室に行け。
着替えて寝ろ。』



寝室のだだっ広いベッドに
仔猫が置き去りにされている。
飼い主が捨てていったみたい。




ひっそりと動かない。

泣き声をあげて呼ぶこともできない。

もう捨てた

そう言われてしまったから。 



ドアが開く。

仔猫がピクッと動いた。

サガさんが近づく。



そっと布団を掛け直し
仔猫の髪を撫で
立ち上がる。



「……置いてかないで」

微かな声。

サガさんが止まる。




置いてかないで

置いてかないで

置いてかないで

………………。

サガさんが
仔猫の脇に入る。




そっと抱き寄せる。

仔猫はようやく泣き出した。
サガさんの胸を濡らして
ただ泣いている。



しゃくりあげる声がおさまると
サガさんは
静かに起き上がる。




仔猫が跳ね起きた。

「置いてかないで」

全身ですがりつく。




その体を受けとめて
優しく背を撫でながら
サガさんは
言い聞かせた。

『お前が無邪気に俺を慕うのは
  親を慕うのと変わらない。

  俺が親なら
  俺の横にお前は置かない。

  あぶないからな。』



「…………抱かれたらいてくれるの?」

すがりついたまま
彼が訊ねる。



そっとサガさんの手を握り
頬を寄せる。

「抱かれたらいいの?」



仔猫は狼の手を
自分の夜着の下に導き
頭をもたげ
狼の首筋に唇を這わせる。



仔猫の涙は止まらない。
幼い誘惑が
痛ましい。



もどかしく夜着から抜け出た体が
白々と常夜灯に浮かぶ。



『もういい。
   もう止めろ。』

その体を抱き締めて
狼は
降参した。



時おり
「置いてかないで」

跳ね起きる仔猫を抱え、
その都度『ここにいる』と囁きながら、

長く
切なく
甘い夜を
狼は過ごした。



頬に二筋の涙の跡が残る仔猫を
恋人ともできず
手放すこともかなわず………。



サガさん、
その子の温もりは…………、
あなたを幸せにしている?



画像はお借りしました。
ありがとうございます。



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