この小説は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。





殺したいの裏返しは?
2015-11-25 05:49:56
テーマ:クロネコ物語




彼は今日も
加減しなかったみたい。


完全に意識がない。

サガさんに抱かれ

頭部はがっくりと反り
腕は付け根からだらりと垂れ
運ばれるままに
揺れている。



同じ流れに同じ手順。
違いといえば
目覚めなかったところだ。




口移しの一口は
目覚めぬまま
その喉を通った。

微かな飲み下す音を
抱いた肩に聞いて
サガさんは
彼を横たえた。




起きてる時は
目で騙されてたわ。
生き生きしてるんだもの。

シーツの深い青に
真っ白なお人形が
横たわっている。
ピクリとも動かない。




サガさんは
折り畳んだ金属製の棒を取り出し
手早く組み立てる。

医療品ケースを開け
液体の入った
透明なビニール袋を取り出して
組み立てた帽子掛けみたいなものに
引っ掛ける。


透明な管を袋の下部に差し込み
管のもう一方の端に
蝶々みたいな羽がついた管を差し込む。


人形の腕をまくり
ゴム管で縛り
腕をさすると
蝶々みたいな羽を慎重に近付ける。


管にサーっと血が逆流するのを確認し、
ゴム管をはずし、
薬液を流す弁を開く。


液漏れがないか視認し、
蝶々をテープで肌に固定する。


アンプルを切り
注射器で吸い上げ
ビニール袋に注入する。




そのまま
じっと
ベッドサイドに
狼は蹲る。




血の気は
心なしか
戻り始めたように
思う。



小一時間して
ビニール袋は空になり
管も
折り畳み式の台も
全てが片付けられた。





彼が目を開ける。


サガさんが迎える。

『わかるか?』



髪を掻きやりながら
労るように問う。


「……うん。」

『今日は駐車場で倒れた。』

「……うん。」

『なぜ無茶をする?』




白豹は小さく応える。

「……殺したい気持ち、
  ってわからなくて……。」




サガさんは少し考えて応えた。

『それは後で話す。

   飲み物だけでいい。
   何か口に入れるぞ。

   温かいものを作ってくる。
   飲め。』 



エッグノッグにしてた。 

しっかり飲ませて

押し問答の挙げ句
自分が
付き添う条件で
シャワーを浴びさせて

またベッドに放り込む。




自分の腕に頭を載せ
見上げる豹に
狼は言い聞かせる。

『殺したいんじゃない。
   思われたいんだ。

   体の芯から燃えるように
   自分を欲しがってほしい。

   自分の声だけに反応し
   自分の愛撫だけに体を燃やし
   切なく声を上げる。

   自分がそうであるように
   自分を欲しがらせたいんだ。

   とてつもなく
   何かを欲しいと思って
   やってみろ。

   殺したいよりは
   気持ちに近いはずだ。』 




思慮深い目が
狼の言葉を受け止め
一心に考えている。

「…………うん。」




一つの納得があったみたい。

その後がいけない。
ふっと思いが広がっちゃったのね。


「あの………

   サガさんも……、
   そう思うってこと?」 


『そうだ。』


「………僕を?」


『お前は感じやすい。

   繊細な楽器のようだ。

   ずっと手元におき、
   お前を奏でていたい。
   そう思うこともある。』



「楽器って……」

狼は白豹の唇を抑え
耳元に囁いた。




『俺の指先一つで
  どんな動きも引き出せる。
  俺の舌で
  どんな声もあげさせられる。
 鳴らしてほしいのか?
 その体調で?』



あっ…………

すっと狼の手が夜着に滑り込み、
白豹は快感の予感に竦んだ。


囁かれた耳から頬、
うなじまでが
みるみる紅く染まる。



微かに震える白豹の額にキスをして
狼はその手を引いた。



『大人しく寝ろ。
   挑発するな。』



「ち、挑発なんか………… んっ……。」

その唇を覆われ
声は途絶えた。


長く、
優しい、
寄せる
波のように
繰り返されるキス。

合間にあがる
白豹の息遣いが甘く溶けていく。




唇を離し、
白豹の満たされたため息をきき、
狼は仕事を終えた。



自分の胸に身を任せて
スーっ、と眠りに落ちていく幼獣を
狼は静かに見詰めている。




守るべき幼さと
無邪気に求める快感に
手の焼けるこの幼き者。



手折ろうと思えば
今すぐにも
その花は自分のものになる。



己を守り支えてくれるはずの者に
身を引き裂かれ
脳に手を突っ込んで掻き回されるような
快楽の深淵に突き落とされ
苦痛と快感に支配されていく姿。



その怯えた顔を思うと
嗜虐の衝動にも駆られるはず。
狼だものね。



まだ黒い悪夢は去らず
家族に死に遅れた思いは
この子に死線をさ迷わせたばかりだ。


守りきるしかない。

寝室に狼の吐息が
ほーっ
と響いた。



画像はお借りしました。
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