この小説は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。




雪が降り始めると
この街は
湖と森とに囲まれて
〝冬〟という一幅の絵になる。

そして、
クリスマスは
家々に施された飾り付けに
その絵を明るく彩る。


この季節
この街はお伽の国のようだ。


ぽっかりと晴れた今日、
アベルは言い出した。

「あのね、
 街を見たいんだ。
 グロリアが
 ここすごく可愛い街だって
 教えてくれたの。」


暖かなドレスを着せ
馬車を呼び
私たちは街を回る。


「わぁ
 可愛い。
 クリスマスって
 ほんとに綺麗だね。」

アベルは
はしゃいでいる。


これは
プレゼントに関わることかもしれない。
そう思ったが、
それに触れたりはしない。


街は
絵葉書にでもしたいような
クリスマスの風景だ。
本の挿絵でしか見たことのないあれこれが
アベルを喜ばせる。


昨日
ご飯は済んだ。
今日は
顔色もいい。


雪が止んだのも
こうして街を見せてやるのに
都合がいい。



それにしても、
アベル、
少しそわそわしすぎだよ。


何を探している?


「あっ
 あのお店!
 写真屋さんだね。」


グロリアに
よほど
きちんと教えられたんだね。


クリスマスに
家族の記念写真を
呼び掛ける写真屋の工夫もなかなかだが、
クリスマスそのものが初めての君
写真なんて撮ったこともない君が
そんなに素早く探せるわけがない。



「ぼく、
 写真って
 撮ったことないんだよ。」

アベルは
私を見上げて
おねだりに入る。



一生懸命だね。
写真がプレゼントなのかな。


「撮りたい?」

私は
微笑む。


「うん!」

君は
元気に答える。


「使いを出そう。
 ホテルに来てもらえるよ。」

アベルは
キャッ
腕にしがみつく。



そうだね。
私も見たい。
君のお澄ましさんの姿は
どんなにか可愛いだろう。


「可愛くして
 撮ってもらおうね。」

私は
アベルの肩を抱く。


「グレンも一緒だよ。」

声が
さらに弾む。




「私もかい?」

私は尋ねる。



「だって
 ぼくは二人がいいんだもん!」

君は生真面目に頷く。



〝ぼくは〟?
グロリアは君一人の写真を
提案したのかな。

そうだね。
君一人なら内緒で撮れる。



「どうして二人がいいの?」

私は
慎重に尋ねてみる。
これは、
アベルの思い付きらしい。
微かに胸がときめいていた。


「だって
 ぼく
 グレンとずっと一緒なんでしょ。

 ぼくグレンと一緒にいていいんでしょ。」

君は
にこにこ
私を見上げる。

私は
思わず
その顔をつくづくと見つめていた。


「…………違う?」

少し
見詰め過ぎていたらしい。
君は
不安気な顔をする。


私は
君を抱き締めた。
力一杯抱き締めた。


「……グレン?」

君は不思議そうだ。
私はね、
一つ一つが嬉しい。



「そうだよ。
 ずっと一緒だ。
 ずっとずっと一緒だよ。」

私は囁く。


恋人よ
君は少しずつ恋を学んでいく。
私は待てるよ。

気の遠くなるほどの時間を
私は待ってきたのだもの。

街はクリスマスに賑わう。
その賑わいが
私にも
小さな魔法を分けてくれるようだ。


クリスマスの妖精が
街に
灯りを点す時間が近づいていた。


家々の窓に灯る
キャンドルが
白い街を彩っていく。


楽しみだよ
私は
本当にクリスマスが楽しみだ。



画像はお借りしました。
ありがとうございます。



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