この小説は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。




アベルは
小さな足をピンクのふわふわに包んで
戻ってきた。

そして、
ピンクの魔法だろうか。
頬を染める。


恋をするように
ときめくように
その頬は染まる。




「楽しかったんだね」

部屋に戻り
ソファーに下ろすと
私は
膝をつき
アベルを見つめる



そうすると、
その頬は
愛らしく上気するのだ。
頬が染まるのは
私がその頬に手をあてるからだろうか。



だから、
私は試す。




「さあ
 キスをおくれ。」

狼狽えるのかい?
キスは
お気に入りだろう?



私は
そっと啄む。

おずおずと応える唇は
何かを待ち
何かを怯える。




唇を離すと
君は
ほっとしたように
うつ向く。




キスはお気に入り。
そのキスに
陰影が生まれる。


そう
仄かに揺らめく何かが
そこに意味を付けたんだね。
グロリアは
少しだけ
扉を開けてくれた。



そして
その扉の鍵は〝綺麗〟だ。



まず
解放してあげる。


「さあ
 もうドレスは窮屈だね。」

「うん」

また
君はほっとする。
日常の動作はほっとするよね。



君はなすがままだ。
素直に立ち上がる。


ドレスはホックを外され
その肩を滑るように落ちていく。

コルセットは紐をほどかれ
吐息とともに君を解放する。

そうして、
君は無邪気に裸身をさらす。



私の手が
君を裸にすることは
もう
怖くない。

そうだね。




その美しい体の隅々まで
私は知っている。
君自身より知っているよ。


君は
開く。
言われたままに開き
ベッドに横たわる。


ご飯は…………嫌いだね。
嫌いだけど
避けられない。


だから、
君は、
なすがままに体を開く。


仄かな茂みも

可愛らしい穂先も

固く閉じた蕾も

無垢なまま私を迎える。


その無垢が
ひどく切なくて
私は
君を飢えさせてしまう。


その無垢が
胸を刺すようで
私は
君が飢えきるまで待てない。


私に狂う偽りの君を見たくなくて
目を閉じて悲鳴を上げる君を
抱き締める。


残酷で無垢な裸身…………。


だから、
君は病弱な妻になる。
だから、
今日はもうベッドで過ごしていいね。
お話をしてあげる。
大好きだろう?


パジャマを着せて
ガウンを羽織らせる。


そうして、
私は
グロリアが残してくれた鍵を
拾い上げる。


「お話をしようね。」


さあ
君を膝に乗せよう。
いつもの手順だよ。
怖くないだろう’?


午後のお茶は部屋にと伝えてある。
私たちは二人きりだ。



「人魚姫のお話だよ。
 もう読んだかな?」

「ううん」

そうだね。
君の父上は
君のために本を買い足したり
なさらなかった。

まだ
読んでいないだろうと
思ったよ。





「深い海の底に
 人魚の国があったんだ。

 そこの末のお姫様はね、
 海の外の世界に
 焦がれていた。」

私は
語り出す。


「…………なぜ?」

君は
少し躊躇って
問いを返す。

分かるのかな?

似ているよ。
君に似ている。


「海が
 お姫様の世界だからだよ。
 
 魚の尾では
 陸は歩けない。

 遠くに霞む陸の世界は
 見えるけれど
 行けないところなんだ。

 憧れたんだろうね。」


君の眸は
ゆらゆらと揺らめく。

憧れた
憧れたね

出ていけない丘の向こう
許されない空の下の世界が
どんなに綺麗に見えたことだろう。


「だからね
 そっと覗いたんだ。

 大きな船で
 パーティーが開かれていた。

 人の世界をね、
 そっと覗いた。

 波間に身を隠して見上げると
 そこに
 それは綺麗な王子様がいた。

 姫は夢中になって見つめたんだよ。」


アベル
私はね
とてもずるくも
なれるんだよ。

ほら
君はドキドキし始めた。

私の腕の中で
君は
思い出しているね。
そっと覗いたパーティーを。




アベル、
君は
窓を叩く私を
頬を染めて迎え入れた。

言っていたね。
〝あんまり綺麗で
 ドキドキした〟って。


「ねぇ
 アベル

 人魚姫は君に似ているね。
 外の世界に憧れる気持ち、
 分かるだろう?」


私は
君に誘いかける。


「…………うん。」

そうして、
君は頷いてしまう。


その小さな顎に
私は
優しく指をかける。


さあ
アベル
私をご覧。


「アベル、
 私は
 綺麗だったかな?」


ほら
君は物語に共鳴する。


「……うん……。」


君は私をうっとりと見詰める。


「私の人魚姫、
 キスしていいかい?」


そうして
君は
受け入れる。

私は
そっと唇を重ねる。






少しだけ大人のキスを
教えてあげる。


甘い声が
唇から洩れるね。
これは、
甘い甘い憧れがくれる夢だよ。

ほら、
君はドキドキしている。



 あっ……ん…………。


溶けていくだろう。
私は
キスが上手なんだ。


そして、
私は
君を抱っこする。


震える君を抱っこする。

そうして、
そっと
言って聞かせる。


「アベル
 私は
 君が大好きだ。

 これはね、
 大好きな人にあげるキスだよ。

 気に入った?」


君は
うっとりと腕に身を預ける。
私は
もう一度キスをする。


君は震えて
それに応える。


いい子だね。
私は君が大好きだ。
覚えて’おくれ。
大好きな人にするキスを。


それはね、
ときめきをくれるんだよ。


画像はお借りしました。
ありがとうございます。



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