この小説は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。





細い白い指が
小卓においたアドベント・カレンダーの窓を明ける。


「わぁ
 可愛い!」

パジャマのまま
いそいそと小卓に向かう朝が始まっていた。




うふん
その可愛い絵に見いる。
その仕草が
なんとも言えず可愛い。


「アリス、
 どこが気に入ったの?」

私は尋ねる。
クリスマスはプレゼントが貰える日。
私も準備しなければならない。

子どもたちは
サンタクロースが大好きだ。
アベル、
君にもサンタクロースがやってくる。


アベルは
カレンダーを
ふんふん眺めながら
可愛いお尻を丸く突き出している。

綺麗なお尻だね。
そうしていると可愛くもあるんだよ。



「魔法がいっぱいで、
 泣いたら池ができちゃうし、
 投げられた石は体を小さくしてくれるし、
 どんどん新しく切り替わってくでしょ。

 次はどうなるの?
 って思う。」


アベルは
すらすら応えた。



物語は
君が好き嫌いを答えられる
唯一のジャンルだ。

なるほど。
君は
魔法の世界は大好きなんだね。


「お気に入りの人物は
 いるかな?」

私は尋ねる。



「チェシャ猫!
 にやにや笑いながら消えちゃうんだよ。

 すごく頭よくて
 女王様も公爵婦人も
 関係ないって感じ。」

アベルは笑う。


「チェシャ猫か。
 アベル、
 猫は好き?」

私は尋ねる。


「………わからない。」

アベルは小首を傾げる。



私のアリス、
君の知っていた世界では、
誰かが誰かを好きになることはなかったね。


「アベル、
 今日は何を着てみたい?」

私は
クローゼットを開ける。



「うわぁ」

君は歓声を上げた。


支配人は
うまく手配してくれていた。

ドレスがずらりと並ぶ。
たっぷりのフリルとリボン
膨らんだ袖に優雅に広がる裾

絹の光沢
ベルベットの風合い
上品な手触りの生地に可愛らしいデザイン。


〝今の流行ですから〟
勧められたドレスは
ふんわりとS字のカーブを描いて広がる。


棚には様々なデザインの帽子が
ベールやリボンに彩られて並ぶ。



抱っこで構わないとなったら
君は
ドレスも大好きになったね。



一夜明けると
魔法の杖が振られて
そこは君の大好きな綺麗なもので
一杯になった。

クローゼットの魔法は
気に入った?



「グレン、
 ぼく、
 歩く練習もするね。」

君は
目を輝かす。
綺麗に歩いてみたいんだね。
ドレスは抱っこでは
楽しめない。



アベル、
私は少しだけ厳しい先生になるよ。

だって
君は
最高に美しい謎に満ちた女性にならなくちゃ。

少しでも長く一つの場所にいられるようにね。



「いいよ。
 少しずつ練習しようね。」

私は返す。


やりたいことが
一つずつ
好きなことが
一つずつ
君を美しくしていく。



でもね、
大事なことがあるんだよ。



「ねぇ
 グレン………。」

クローゼット探検を終えて
君は
少し考え込む。


「あのね、
 どうして
 こんなに買ってくれたの?」

君の小さな手が
そっとドレスを撫でる。
気持ちいいだろう?

最高の手触りの布地を使っている。



「君が
 喜ぶと思ったからだよ。」

ソファーに掛けたまま
私は応える。



「ぼくが喜ぶと
 嬉しいの?」

君が振り向く。


私は微笑みで応じる。

「嬉しいよ。」



とことこと
君は近寄る。


膝をついたね。

「ありがとう。」


私は
その顎に手をかけ
そっと持ち上げる。

キスを予感して君は目を閉じる。
絹のパジャマの私の恋人よ。



私は
そっと唇を重ねる。


これは挨拶。
ありがとうへの挨拶。
だから、
私は貪ったりしない。



唇を離し
そっと見詰める。
………だいじょうぶだね。


私は君を抱っこする。


大人しく膝に乗せられて
君は頭をもたせかける。



「アベル。
 君の世話をするのが
 私の喜びだよ。」

「………世話をするって
 楽しいことなの?」


君は本当に不思議そうだね。
お父様の館は
君には
ただの檻だった。


「アベル、
 ここの毎日は
 楽しいかい?」

私は尋ね返す。


「うん!
 カレンダー見るのも楽しいし、
 綺麗なドレスも嬉しいよ。」


「君の笑顔が
 私には楽しい。
 〝ありがとう〟が
 私にはご褒美だ。」


「ほんと?
 ありがとう!!」


今はね、
覚えておくれ。
世話は義務じゃない。

シャンパンはね、
君が好きだから黄金色に輝く。

ドレスはね、
君が〝歩いてみたい〟と言うから
愛らしく美しい。

私はね、
君が微笑んでくれるから
幸せだ。


君が幸せになることが幸せな者が
ここにいる。


君に何をプレゼントしよう。
君に大切なことを教えてあげたいよ。


愛することは、
相手の思いに寄り添うことだ。
そしてね、
それは喜びになる。


死ぬのを待っていた。
君は言ったね。
誰も君を望んでいないからって。


私は君を望んでいるよ。
どうしようもなく
苦しいほどに望んでいる。


そして、
それが幸せだ。


君に
望まれる幸せを教えてあげる。
でもね、
望む幸せはもっと深い。


甘くて
苦くて
深いものだ。


どう教えてあげよう。


「ねぇ
 アベル

 クリスマスには
 プレゼントの交換があるんだよ。」


雪は優しく降り積もる。
クリスマスが
もうすぐやってくる。


画像はお借りしました。
ありがとうございます。



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