この小説は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。




食べる。
お前が食べてくれるようになって
俺は幸せだ。

小さな口を
あーんと開ける。
ぱくんと閉じる。
きゅっと目も閉じる。
うーんと味わってぱっと目を開ける。

そして、
そして、
俺を見てくれる。

美味しいよ
共にするために見てくれる。


魚を見て
うふん
笑う。

そして、
俺をつつく。

身をほぐしてやり
口に運んでやる。
俺たちは近くなる。
瑞月は俺の肩に頭を寄せる。

お前の唇が目の前で
微かに開いている。
箸を近づけると
あーんと開く。


その唇に
口の動きに
俺は釘付けになる。

そのまま
汁物に濡れて光る唇に
顔を寄せ
そっと舌で嘗める。


「まだ食べてるのに」
可愛い口が尖る。

「拭いてやった。」
応え、
次の菜に箸をつける。


お前は
もう
口を開ける。

食べる口許まで
どうしてこんなに可愛いんだろう。


お前は笑う。

「海斗
 食べなくなったね。」

俺はその口許から箸を戻し
口に入れる。

「あん
 ぼくのだよ。」


腕の中で鮎が跳ねて
尻の下で寝台が軋る。


足を寝台に乗せ膝を曲げて
お前の上半身を
俺は固定する。

「二人のだ。」

「ずるいよー。」

お前こそずるい。
浴衣の前はゆるむ。
ゆるんで開く。

腰に纏わる帯が
しなる菖蒲の花をお前の下腹に
艶かしく咲かせている。


「ほら」
箸を近づけると
機嫌よくお前は口を開ける。

無防備に開けては閉じる唇に
お前の生は息づく。
息づいて俺を誘う。

俺も食べる。

「ねぇ
 ねぇ」
ねだられるままに
お前の差し出す箸に口を開けてやる。


するりと
俺の膝から滑り出て
お前は
自分の膝をぽんぽんする。

「頭乗せて」




下から見上げる目に
合わせ目から
白い胸と薄紅に色づく愛らしい突起が
見える。

「はい
 あーん」

白い指先によく熟した苺が赤い。
その指ごと口に含み
苺を舌で潰す。


「あっ…………」
指に感じる果肉の触感に
お前は戸惑う。

その手をとらえて
指の腹を丁寧に嘗め上げる。
その付け根に舌を這わせると
お前は
ぴくんとする。
可愛い突起もぴくんとする。


俺は身を起こし
瑞月の頭を膝に乗せる。


「お前の番だ。」

「うん!」

苺は大好きだ。
もう感じたことも忘れている。

あーんする口に
小さな白い歯が覗く。
その歯が齧った苺の半分を
俺は口に入れる。

「あーっ
 また!
 ずるいー」

騒ぐ口に
次の一つを入れてやる。

取られまいと
口いっぱいに苺を入れて
もぐもぐする。


可愛いひょっとこ顔に
くすっと笑うと
小さな拳固で俺の胸を叩く。


食事は
これで終わりだ。


背に手を添えて起こしてやる。
ベッドに座らせ
前を合わせてやり
お茶に移る。



俺は
ポットの茶を
寝室にある茶器に注ぎ
卓に置く。


ふーふーしてやると
お前は
こくん
小さく喉をならして飲む。

こくん
の一つに
俺は
どくん
熱くなる。


あとは
歯を磨かせ
軽くマッサージしてやり
就寝だ。

瑞月、
お前が
食べてくれるだけで
食事の時間は甘くなる。
今のお前は
食べることが大好きだ。


瑞月、
俺が楽しみに思う食事はこれからだ。
その果肉に歯をあて
舌で味わうのが
楽しみだ。

お前はどうだ?

俺たちは生きている。
だから
食べよう。
生きてることを確かめよう。

互いに貪り
飽いて眠りにつくまで
お前を離さない。
ついておいで。
今夜は高く飛ぶぞ。


イメージ画はwithニャンコさんに
描いていただきました。