この小説は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。





「それは、
 あっしがつぶしておきます。」

マサさんの声。
〝ツブス〟んだって。

シッ
海斗が止めてる。



で、
声が
また小さくなる。




ぼく、
困っちゃう。


〝瑞月ちゃん、
 海斗さんを借りるよ。
 大事な話があるんだ。〟

って
マサさんが言った。

〝うん!
 ぼく、
 お部屋で本読んでるね。〟

って応えた。

〝すまねぇな。
 退屈なら豪んとこ行くかい?〟

って
マサさんがにこにこした。
そしたら、

〝俺から離れるな!〟

って
海斗が言った。




だから、
ぼく、
ここにいる。


海斗のお部屋で
大きな椅子もらって
くるんて丸くなってるんだ。

咲お母さんが
読みなさいって本を渡してくれたけど、
全然読んでいられない。



だって、
ベッド挟んだ向こう側で
小さな椅子にマサさん
ベッドに海斗で
お話してるんだもの。


それもね、
小さな小さな声なんだ。
警護のお話だから
知らない方がいいんだって。



「闇の範疇には………〟」


あ、
海斗が闇のこと話してる。

ぴたっ
話が止まる。



もう!

ぼくは、
椅子から滑り降りる。

海斗が
しまった!
って
思ってるみたい。


だって
こっちを向かないんだもん。


「あのね、
 ぼく、
 邪魔だと思うんだけど」



ぼくは
足を踏ん張って
一生懸命言った。


海斗は
こっちを見ないまま応える。

「ここにいろと言った。」



ぼくは
ベッドに飛び乗って
海斗の横に滑り込む。

腹這いのまんま
もう
動かない!。
動かないって決めたもん!!


「じゃあ、
 ここで聞いてる!!」




あっはははは………。

マサさんが
楽しそうに笑い出す。

「海斗さん、
 瑞月ちゃんの言う通りだ。

 続けるんなら
 瑞月ちゃんは出してやらないと
 かわいそうってもんです。」


横目で海斗を見てみた。
怖い顔して下向いてる。



「ちゃんと
 待ってるから」

って
言ってみた。



海斗はこっち見ない。
見ないで頑張ってる。

マサさんが“いい”って言うんだから
ぼく、
間違ってないのに。




ツンツン
って
シャツをつついてみた。

「ねぇ
 いいでしょ?」




つついた手が
ぎゅっ
握られて
ぼくは
ふんわりベッドから持ち上げられた。



着地したら
海斗の膝の上で
海斗が
ぼくを覗きこんでた。



あれ?
すごく心配してる?
海斗
何が心配なのかな。


「瑞月、
 約束だ。
 お前の部屋で待っててくれ。
 青の部屋だ。
 頼むから外には出るな。
 洋館で待ってるんだ。」


ゆっくり
一生懸命
海斗は話す。

えっと
外に出ちゃダメなんだね。




「海斗、
 何時に終わる?」

お膝にいると
甘えたくなる。



「昼までだ。
 12時には迎えに行く。
 青の部屋で待っていろよ。」


海斗は
おでこにキスしてくれた。




「やれやれ
 熱いね、お二人さん。」

マサさんが
クスクスしてた。



ぼく、
やっと内緒話から
解放されて
ほっとした。

膝から降りて
ドアのとこで海斗にバイバイした。
海斗もバイバイしてくれた。



大きな海斗の小さなバイバイは
とっても可愛くて
ぼく、
ベッドに戻って海斗に抱きついちゃった。



「側にいる。
 すぐ近くだ。
 ちゃんと待ってるんだぞ。」


海斗が
優しく囁いた。

もう
ぼく
一人で
だいじょうぶなんだけど
海斗は
それも心配なんだね。


「もう瑞月ちゃんは
 一人でも平気ですよ。

 なあ、瑞月ちゃん。」

マサさんは
ちゃんと分かってくれてる。
うん!
だいじょうぶ。


離れてても
ぼくたちは一つなんだ。
海斗ったら心配症だ。


ぎゅうっ
強く抱っこしたげる。


だいじょうぶ

だいじょうぶ

だいじょうぶなんだよ



海斗が
そっと体を離す。
もうだいじょうぶかな?



ぼくは、
にっこり笑う。
海斗もにっこり笑う。



「マサさん、
 ありがとう!
 海斗、
 待ってるね。」




カチャン‥‥。



ぼく、
今度こそ、
海斗のお部屋を出た。


ふう
って
ため息が出た。



一階の大きな柱時計が
10時になってた。



さあ
一人だよ。
ちょっと嬉しいみたい。

ごめんね、海斗。
だって
退屈だったんだもん。





ぼくは考える。


外はダメ
外はダメ
一人で外はダメなんだね。

ちゃんと守らなくちゃ。
伊東さんやトムさんに迷惑かけちゃう。




ニャー
ニャー

あれ?
黒ちゃん。

おじいちゃんとこにいたんじゃないの?



黒ちゃんが
ぼくの足に頭を擦り付けてた。

抱っこしようとしたら、
トントン
階段を下りていく。




一人もいいけど、
やっぱり
寂しい。


ぼくも
階段を下りていく。




黒ちゃんは
一階を横切って
真っ直ぐ進む。




母屋に行く通路のドアの前で
黒ちゃんは
くるんっ
と振り返ってお尻を下ろした。



えっと
ぼくを待ってるの?
黒ちゃん、
母屋に戻るんだね。

ぼくは
ちょっと立ち止まる。




海斗は
青のお部屋でって言ってた。
どうしようかな。



黒ちゃんが
立ち上がり
ブルブルッ
体を震わせる。


そして、
ゆっくり向きを変えて
黒ちゃん用の潜り戸から抜けていく。



「待って
 黒ちゃん!」

ぼくは
駆け寄ってドアにぶつかっちゃった。




そしたら、
開いた。
ドアが開いて向こうが見えた。

黒ちゃんは
もう
とことこ歩いてる。






「待って
 ぼくも行く!」

12時に青のお部屋にいれば
いいんだよね。
お外は出ないよ。
約束だもん。



母屋には
たけちゃんも
おじいちゃんもいる。



ぼく、
母屋で待ってるね、
海斗。


画像はお借りしました。
ありがとうございます。



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