この小説は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。





おじいちゃんの部屋は、
頭を寄せ合った女衆でぎゅうぎゅう詰めだった。

真ん中から

「可愛いのう。
 なっ?」

それこそ可愛らしい
おじいちゃんの声がすると

 ほんとうに!
 まあ可愛い!
等々
の声が一斉に上がる。




「たける様、
 お見事な振る舞いですわねぇ………。」

嘆声が上がれば

 素敵ですこと………。
 本当に男らしくて………。
 もう見とれてしまいます………。
 たける様………。

等々が、
後ろにため息つきで
エンドレスに続く。


おじいちゃんが卓に乗っけたPCで
廊下の画像を
追ってるわけ。


きゃああああ


たけちゃんが
女の子のメガネを外した。

こんなこと
自然にできちゃう男って
凄すぎる。


笑いかける顔が
なんて優しいんでしょ。




女衆の皆さん、
大喜びよ。





「一週間ですわよね。」

心配げに
おじいちゃんに尋ねるのは
民さんだ。


そう!
誰かは理性もってなくちゃね。



「そうなんじゃよ。
 海斗には、
 よく言っといた。」


おじいちゃんが
小さな胸を
えへん!
と張ってるみたい。



 そうね
 そうね
 私たちも気を付けましょう!
明るく声が広がる。

どうも
おじいちゃんがいると
事の重大さが
イマイチ感じられない。



 お二人のこと、
 しっかり隠さなくちゃ

 もし気づいたら、
 お嬢様、
 かわいそうですわ。 


 お嬢様より
 瑞月様が心配ですわ。
 泣いちゃいます。

 たける様がおいでですもの。
 きっと
 何もかもうまくいくよう
 してくださいます。


そして、
また
 そうね
 そうね
広がる。



この突き抜けた能天気が
頼もしい。
私は好きよ。




そもそも
なぜ呼び込んじゃうか
って
問題は
忘れられてるみたい。



〝すまんのう。
 三枝さんから頼まれたんじゃ。
 行儀見習いにってのう。

 ほら
 海斗も何か頼んだんじゃろ?

 一週間でいいんじゃ。
 咲さんよろしく頼むよ。〟


〝気に入っていただきます!!〟
宣言の後、
おじいちゃんは
にこにこ説明した。

〝ギョ・ウ・ギ・ミ・ナ・ラ・イ?〟

瑞月が
小首を傾げ、
〝社会勉強ってことさ。〟
たけちゃんが応える。


海斗は一瞬口をぱくんと開けた。
えっと
仁王さまって言うのよね。
ほらお寺の前の門にいる筋肉隆々の神様。


あんな感じかな。


そして、
閉じたの。

「あの子、
 ぼくたちと同じくらいかな。

 ねぇ海斗?」

と見上げられる前に
ぴたっ
閉じた。


「そうだな。
 さあ、
 洋館に戻るぞ。

 高遠、
 頼んだからな。」

ちょっとだけ早口。
ちょっとだけ素早く瑞月に回された腕。



そしてね、

「なぁに?
 たけちゃんに
 何頼んだの?」


ちょっとだけ早足で歩き始めた背中から
可愛い声が聞こえる。

「じじいのことだ。」

海斗は
早口が止まらない。



「海斗、
 じじいって
 よくない言葉だよ。

 武藤さんが
 海斗は口が悪いって
 言ってたよ。」

勝手口の外から、
瑞月の可愛らしいお説教が聞こえて
二人は姿を消した。


さっきの帰り道ばかりは、
海斗も楽しむ余裕はなかったかもしれないわね。


今頃は、
瑞月に言い聞かせているわね。
〝いいか
 俺の側を離れるな〟




画面の二人は
せっせと雑巾がけを続け
女衆の皆さんの盛り上がりは、
さらに幅を広げる。




 総帥が〝王子様〟ですって!
 新鮮ねぇ。

 パーティーでお見染めになったのかしら。
 もう震えがくるほど素敵でしたもの。

 王様って
 感じでしたけどねぇ。

 ほんと
 それはもうお強くて
 ご立派で
 戴冠式みたいでした。

………………………。



女衆一番人気の海斗に
キャーキャーは
止まらない。



 でも、
 ほら、
 この頃可愛らしくていらっしゃるから。

 ほんと、
 初恋中の男の子みたい。

おほほほほほ
おほほほほほほ………………。


女衆は
笑い崩れる。

海斗が聞いたら
どんな顔するかしら。



狼さん、
とりあえず、
あなたのことを
みんなが守ろうとしている。

強くてもね
一人ではやっていけないの。
守ってもらうことを受け入れて
また
あなたは強くなれる。

頑張ってよ
あなたは王子様じゃない。
王様なんだから。


    キャー
   たける様!

女衆が
また盛り上がる。


ああ、
手が重なったのか。
まあ、
お互いにっこりしちゃって。

メガネちゃんも
たけちゃんも
大した美女と美男子よね。



たけちゃん、
これが瑞月なら
この微笑みが
あなたの心を切なくする。


綾子様、
これが海斗なら
あなたは
微笑みじゃすまない。
勝利のガッツポーズくらい取りそう。




人って
ほんとに
心で生きるもの。


うまくいかないことも
うまくいくことも
あるけれど、
大事なことはうまくいくことじゃない。


綾子様、
あなた気に入ったわ。


一生懸命頑張ったら、
きっと
きっと
この一週間
いい終わり方ができる。


応援してるわよ。


画像はお借りしました。
ありがとうございます。



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