この小品は純粋な創作です。
実在の人物・団体に関係はありません。




ガラス張りの居間は
しっとりと
雨に濡れる庭に囲まれている。


ガラスを伝う
幾筋もの流れに
この部屋は閉ざされている。


濡れていく心。

静かな雨音に
世界は消えていく。



「雨、
    やまないね。」


「ああ」



雨音は
なだめるように優しい。

途切れなく叩かれる
ピアノのように
室内を満たす。





腰に纏わるものは
いらない。

その胸をなかば隠すものは
あってもいい。



衣擦れは
雨音に応えて
室内に響く。


軋るソファーに縺れ合う体。


今日は
ただ
こうしていよう



「出かけられないね」

お前は
囁く


「そうだな」


俺は
応える。



優しい雨音に
甘い喘ぎ


このまま
長い昼下がりを
二人
確かめながら過ごそう。



雨は
この館を包むベールだ。

降り込められて
ただ二人
確かめよう。


欲しいもの
欲しいこと


クスクス
お前は笑う。



「海斗、
    くすぐったい」



仄暗く
仄明るい


「やっ…………いや」


拒絶は甘く
その腕は背に爪を立てる





あっ…………。
蜜を滴らせ
欲情は溶け出す。


そこなんだね。

そこだ。



知っている

知っている


知っていることを
飽かず
確かめよう。


降り込められた
二人だけの時間だ。



     久方の雨も降らぬか
      雨障(あまつつみ)
      君にたぐひて
      この日暮らさむ

万葉集  詠み人知らず



イメージ画はwithニャンコさんに
描いていただきました。